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ここにも本家トランプの影。ブラジル前大統領の支持者たちが暴徒化した裏側

1月8日、ブラジルで発生したボルソナロ前大統領の支持者たちによる暴動。昨年1月の米国議事堂襲撃事件に続く民主主義を否定するかのような暴挙に、世界中から非難の声が上がっています。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、事件の背景を詳しく解説。さらに注目される今後の展開について考察しています。

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「ブラジルのトランプ」ボルソナロ前大統領の支持者らが暴徒化。民主主義の危機、アメリカからブラジルへと飛び火

ブラジルの首都であるブラジリアで8日、昨年の10月に実施された大統領選の敗北に抗議をするデモを続けていたボルソナロ前大統領の支持者らが暴徒化。

連邦議会や大統領府、最高裁判所を襲撃、一時占拠して、建物の一部を破壊した。

地元メディアによると、襲撃には4,000人が加わったとみられ、警察は1,500人を拘束、約4時間で鎮圧した。新大統領であるルラ氏は1月1日に就任したばかり。しかし、今後も混乱は続きそうだ。

大統領選で敗れた右派のボルソナロ氏は、選挙での不正を主張。結果を認めない支持者らが、軍の施設前で抗議デモを続けた。ボルソナロ氏自身は、敗北を事実上認め、昨年の12月30日にアメリカへと渡航している。

現地のメディアによると、支持者らは、議会へとつづく道路のバリケードを突破。8日午後3時(日本時間9日午前3時)ごろ、同じ地区にある議会や大統領府を襲撃、その約45分後には最高裁になだれ込む。

SNSなどで結集が呼びかけられ、支持者らは約100台のバスで集まった(*1)。集まった支持者らは、大統領府で大統領席を破壊したり、議会の窓を破って本会議場に入った。機密文書が盗まれたのとの報道もある(*2)。

目次

ボルソナロとは 「ブラジルのトランプ」

ボルソラロ氏はかつて、「ブラジルのトランプ」と呼ばれた。大統領時代には、「少年犯罪の厳罰化」「移民の受け入れ制限」「性的少数者への蔑視発言」「善良な市民に銃を持たせて犯罪抑止」といったことを主張(*3)。

そして、ブラジルの軍事政権時代を賛美する。ブラジルは、1964年の軍事クーデターから1985年の民政移管まで、軍部が政権を掌握。反対派への拷問では多くの死者が出た。市民は集会を禁じられ、表現の自由も制限。

欧米だけでなく、ブラジル国内でも軍政への支持はタブー視される(*4)。

自身も軍人として大尉まで昇進。1989年に政界へと転身。転機は2014年の下院選のとき。

得意のSNSをフル活用し、リオデジャネイロ州で当時最多の46万票を獲得。つづいて大統領選への出馬を公言すると、支持率はさらに上昇。

このボルソナロ氏を支持するのが、「ボルソミニオンズ」と呼ばれる人たち(*5)。中流家庭で育ち、高学歴の若者が大半を占める。

CGアニメ「ミニオンズ」シリーズのキャラクターをもじった呼称といわれ、「強いボスを追い求める性質がある謎の黄色い生物ミニオンズが、ボルソナロを神のようにあがめる(*6)」ブラジルの若者のそっくりということで名前がついた。

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民主主義の危機、アメリカからブラジルへと飛び火 トランプ氏の側近らが応援か

事態を受け、1日に就任したばかりのルラ・ダシルバ大統領は、

「ファシストが大統領府や議会に侵入した。我が国の歴史で前代未聞のことだ。誰であろうと、罰せなければいけない(*7)」

と厳しく非難。

今回の事態は、ブラジルの連邦議会、大統領府、最高裁の“三権”の象徴が右派のボルソナロ前大統領支持者らに襲撃されるという民主主義の危機に陥ってしまったことを意味する。

さらにボルソナロ氏陣営はアメリカのトランプ前大統領の側近と情報交換し、選挙結果発表後の対応について助言を受けていた可能性も指摘されている。

また、米紙ワシントン・ポストによると、昨年10月の大統領選挙以降、ボルソナロ氏の息子である下院議員が米フロリダ州のトランプ氏の邸宅を訪問。

トランプ氏の側近と連絡を取り、元首席戦略官であったバノン氏とは、選挙結果への異議申し立ての効力などについても協議していた(*8)。BBCによると、襲撃の様子は世界に流れた8日以降も、バノン氏は、

「ルラ(新大統領)は選挙結果を盗んだ。ブラジル人は理解している」

とSNSに投稿。暴徒を「自由の戦士」と称賛した(*9)。

アメリカはどうする? 入国ビザの効力が争点に

今後の焦点は、アメリカに滞在するボルソナロ氏の“処遇”に移る。ボルソナロ氏は現在、米国フロリダ州に滞在。

米民主党のホアキン・カストロ議員は、ボルソナロ氏はブラジル国内でテロリズムをあおった独裁主義者だと批判し、ブラジルに送還すべきだと主張(*10)。同様の声は民主党内でも上がっている。

一方、ボルソナロ氏も、バイデン氏とは良好な関係とは言えない。また大統領退任時に訴追免責の権利を失い、ブラジル本国では危うい立場にある(*11)。

争点は入国ビザの効力だ。米国領事当局者は、ボルソナロ氏が国家元首に発給される「A-1ビザ」で入国したことはほぼ間違いないとした(*12)。

通常、A-1ビザは受給者が退任すると失効する。しかし国家元首のビザ失効手続きをした経験を持つ元米上級外交官は、ボルソナロ氏がA-1ビザで入国したと想定した上で、同氏が大統領任期終了前に米国に入国しているため、A-1ビザがまだ有効なのではないかとみている。

元上級外交官によると、A-1ビザは米国滞在期間の期限を設けていない。

「われわれは未知の領域にいる。彼がいつまで滞在するつもりか、誰にもわからない(*13)」

とした。

引用・参考文献

(*1)「ブラジル連邦議会襲撃」共同 西日本新聞 2023年1月10日付朝刊

(*2)共同 2023年1月10日

(*3)玉川透「大統領選で勢い急上昇『ブラジルのトランプ』ボルソナロとは何者なのか」朝日新聞 GLOBE+ 2018年10月26日

(*4)玉川透 2018年10月26日

(*5)玉川透 2018年10月26日

(*6)玉川透 2018年10月26日

(*7)「ブラジル連邦議会を襲撃、前大統領支持者ら200人逮捕…新大統領は『我が国の歴史で前代未聞』」読売新聞オンライン 2023年1月9日

(*8)共同、2023年1月10日

(*9)共同、2023年1月10日

(*10)「ブラジル議会襲撃、米政権に新たな難題 ボルソナロ氏処遇が焦点」Reuters 2022年1月9日

(*11)Reuters 2022年1月9日

(*12)Reuters 2022年1月9日

(*13)Reuters 2022年1月9日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年1月14日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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