昨年11月に公開されるや瞬く間に人気となり、アメリカの大学では試験やレポートでの不正使用が問題視されるまでとなったチャットボット「chatGPT」。その実力を支えている「GPT3」の仕組みをご存知でしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが、GPT3についてわかりやすく解説。その本質を「ものまねマシン」としながらも、GPT3と人間とは何が違うのかという深い問いを投げかけています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。)
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プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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「GPT3」は電気羊の夢を見るか?
GPT3について、Twitterで連投したので紹介します。
話題のchatGPT3ですが、そのベースになっているGPT3について連投で解説します。元々は「途中で切れている文章の次の単語を予測する」だけの人工知能を作り、それにインターネット上にある大量の文章で教育してみる、という実験から始まったものです。
するとそこそこに「もっともらしい文章」を作るようになったので、さらに教育データを増やし、ニューラルネットのパラメータを数を増やしたところ、「まるで知能を持つかのように振る舞い始めた」のです。
与えているデータには人類の英智が含まれていますが、作られたニューラルネットワークがそれを「理解」して答えているわけではありません。単に「人類の英智をベースにしたもっともらしい文章」を作ることが得意になっただけです。
ある意味、GPT3は「誰かのフリをして喋る」のが得意な「ものまねの名人」なのです。評論家、科学者、解説者はもちろん、プログラマーのまねをしてプログラムを書くことまで得意になってしまいました。
なので、「もっともらしい回答」をする時もあれば、「出鱈目な回答」をする時もあります。なので注意が必要ですが、使い方さえ工夫すればとても便利なツールです。文章を要約する、長い文章から要点を抜き出して箇条書きにするなどはとても得意です。
逆に、要点だけを言って、それをもっともらしい丁寧な文章に膨らますのも得意です。星新一の作品に『肩の上の秘書』というものがありますが、それが現実のものになったのです。
「別の人が好きになったので別れたい。さっさと荷物をまとめて出て行け」という文章をGPT3に書き直してもらうと、
いつも一緒にいられて本当に幸せな時間を過ごさせていただきました。しかし、今回は別の人が好きになったという理由で、お互いの幸せを第一に考え、別れることにしました。荷物をまとめるのに手間取ると思いますが、私もお手伝いしますので、ゆっくりとした気持ちで荷物をまとめてください。
となります。ものまねが得意なだけの人工知能が素晴らしい仕事をしてくれます。
「うちの商品が壊れたのはお前の使い方が悪いから。払い戻しは絶対にしないよ。もう電話して来るな」という言葉を書き直させると
お客様がご購入いただいた商品が壊れてしまい、ご不便をおかけして申し訳ございません。お客様のご使用方法が原因である可能性をご理解いただけると幸いですが、お客様にお支払いいただいたお金を払い戻すことはできません。ご理解いただきますようお願いいたします。今後、当社への電話でのお問い合わせをお控えいただきますよう、何卒お願い申し上げます。
となります。
GPT3は、これらの文章を「元恋人」や「顧客対応スタッフ」のモノマネをして書いているだけです。ネット上にはこの手の文章が溢れているので、それを参考にしながら「もっともらしい」文章を作るのが得意なのです。
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