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Clothing in a cardboard box

まずリサイクルより生産量を減らせ。SDGsなファッションを真面目に考えた結果

持続可能でよりよい世界を目指す国連の指標「SDGs」。さまざまな企業がその取り組みについて発表していますが、ファッション業界ではどのようなことができるのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、 真面目にSDGsなファッションを提案しています。

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真面目にSDGsなファッションを考えてみよう

1.安売り商法はサスティナブルではない

地球上の資源は限られています。例えば、綿花です。通常、綿花栽培には大量の化学肥料、農薬等が使われます。これが蓄積されると土壌汚染につながります。

例えば、高いシャツでも安いシャツでも、使われる綿花の量は変わりません。低価格のシャツを大量生産し、大量販売することは綿花を大量に使うということです。また、大量廃棄ということになれば、完全に資源の無駄遣いです。

同じ資源の量で効果的な経済活動をするには商品の単価を上げることです。我々は、安い商品を消費者に供給することは正しいことだと思っています。しかし、資源を大量に使う廉価販売はサスティナブルではない、ということです。

安い商品を生産するために、人件費の低い海外生産を行っていますが、遠隔地から安い単価の商品を大量に輸入することは、エネルギーを大量に消費します。これまではエネルギーが安かったので、物流コストより生産コストを追求してきましたが、エネルギー価格が上がれば、消費地に近い場所で生産した方が良いということです。単価が上がっても、むしろ消費する数量が減れば、それだけでも資源の消費が減り、サスティナブルになります。

バーゲンセールもサスティナブルではありません。バーゲンを行うということは、商品を作り過ぎているということです。大量に作るからシーズン末に大量の在庫が発生します。プロパー価格で売れる量だけ生産すれば、資源を無駄遣いすることもありません。

そう考えると、売り逃しを防ぐという名目で、シーズン末まで店頭在庫の欠品を許さないという百貨店や量販店の商法もサスティナブルではありません。それがバーゲンにつながり、資源の無駄遣いにつながります。

更に言うならば、委託仕入れという仕組みもサスティナブルではありません。委託仕入れは返品可能です、店頭の商品を次々と返品して、新しい商品を展開するという百貨店商法そのものが資源の無駄遣いを奨励しています。

小売店が自社の利益の最大化を考え、原料や生産者のことを考えないことも、サスティナブルではないということです。

タオル業界で面白い話を聞きました。ホテル仕様の重くて大きなバスタオルはサスティナブルではない、というのです。綿花を大量に使用するし、洗濯でも洗剤や水を大量に消費します。電気の使用量も増えます。

一方、日本の浴用タオルは小さくて薄く直ぐに乾きます。欧米ではタオルはドライタオルです。乾いた状態で水分を吸収するために使われます。日本の浴用タオルはウェットタオルです。濡らして石鹸を付けて身体を洗います。そして、浴場を出る時に、硬く絞って体の水分を拭います。日本の浴用タオルは実にサスティナブルなのです。

サスティナブルな商品を考える時に、日本の伝統的な暮らし方が大きなヒントになるのかもしれません。

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2.ペットボトルのリサイクル繊維を考える

繊維業界でサスティナブルの代表格がペットボトル(ポリエステル)のリサイクル繊維です。「この製品はペットボトルのリサイクル繊維を使っています」と付記表示することがサスティナビリティに貢献している証になっています。

しかし、私はこの状況について、様々な疑問を持っています。

日本で清涼飲料水にペットボトルの使用が認められたのが1982年で当初は散乱ゴミへの懸念から1リットル以上の大容量に限定されていましたが、96年に自主規制を撤廃。ペットボトルの使用量が爆発的に増加し、当然ゴミも増加しました。

2016年の統計では、年間232億本のペットボトルが出荷されたと推定されています。そのうち、未回収ボトルが26億本です。

日本のペットボトルリサイクル率は85%と欧米に比べると高いのですが、現状ではペットボトルがペットボトルへとリサイクルされることはほとんどありません。

リサイクルすると純度が下がり、品質が落ちるからです。あまり品質を要求されないカーペットやフリースに再加工されているので、リサイクルというよりダウンサイクルであり、実質的にペットボトルはワンウェイ容器ということになります。

品質が低くて価格が高いというのがリサイクル原料の現状です。ですから、リサイクル原料を通常の原料に混ぜて使用することが多く、ゴミの回収というより、「リサイクルに貢献しています」というPRのために使われることが多いのです。かつて再生紙使用の名刺が流行したのも同様の理由からでした。

更に、再生したフリースもまた、洗濯時に毛が抜けて、それが下水を通りマイクロプラスチックとして海中に放出されることが確認されています。フリースそのものも大量に生産すると海洋プラスチックが増えるということです。

もし、本当に環境のことを考えるならば、ペットボトルを使用せずに、ガラス瓶や紙容器にするべきでしょう。実際、ユーグレナはペットボトルを全廃し、紙容器に切り換えました。

軽くて温かく安価なフリースも、綿のダウンプルーフの生地のダウンウェアウールのニットや生地に切り換えることができます。

そもそも、ペットボトル=ポリエステルは、自然界において性能が良すぎるのです。安くて丈夫で生分解もしません。

やはり天然繊維を中心に、せいぜいレーヨン系までにすれば、生態系を傷つけることはなくなります。

個人的には、リサイクルよりもポリエステルの生産量を減らすことを考えるべきではないかと思います。

日本のゴミ焼却炉は高性能になっており、プラスチックゴミも燃やすことができます。ですから、リサイクルよりも、完全に燃料として燃やし、それで発電や地域暖房等に活用することも一つの方法でしょう。

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3.デニム無限リサイクルの提案

デニムは経年変化を楽しむことができます。新品のデニムも良いのですが、使い込んでいくことで味が出ます。更に、数十年経過した古着にも独自の価値が生じます。そう考えると、最もサスティナブルなアイテムかもしれません。

このデニムの性質を最大限に活用するサスティナブルなビジネスモデルを提案したいと思います。

まず、上質なデニムで作られたデザイナーズジーンズを制作します。できれば、製品にはナンバリングを付けて着用者が登録できるようにしたいと思います。

仮に小売価格を3万円で設定します。商品原価を1万円、デザイン費用を1万円、プロジェクト運営に1万円とします。

事前に資金が必要ならば、クラウドファンディングで予約注文を取るのも良いでしょう。

販売は販売イベントを通じて行います。販売イベントは年2回、3日間ずつです。イベントでは販売だけでなく、デニムに関するトークショーやリフォームのワークショップ等を行います。イベントは一カ所からスタートし、人気が出ればイベントの開催場所を増やしていきます。

ここで販売されるデニムは全て下取り保証がつきます。たとえば一律1万円で下取りするとします。購入した翌日でも、10年間着用して下取りしても同じ1万円です。新品と買い換えるならばプラス2万円で購入可能です。下取りも販売同様、イベント会期中に行います。

下取りした製品は洗濯され、リフォームデザイナーによってリフォームされ、デザイナーのブランドネームをつけて販売されます。リフォームデザイナーにはデザインと作業の費用として1万円支払います。その中で工場への支払いとデザイン費用等を充当してもらいます。

基本の販売価格は3万円と設定します。新品とリフォーム商品を同じ価格で販売するところがポイントです。つまり、このデニムは価値が減らないということです。そして、使った分だけの体験がプラスになります。

人気が高くなれば、オークション販売を取り入れて、最低価格3万円からオークションを行い、差額は社会貢献の寄付に充てます。

販売イベントには毎回新作デニムと、リフォームデニムが発表され、販売されます。継続していけば、参加デザイナーも増えるでしょうし、海外から集客することもできるでしょう。

このプロジェクトを実現するには、もっと詳細な計画が必要になりますし、金額の調整も必要になります。しかし何より重要なのは、プロジェクトの継続性です。このイベントは10年、20年、100年と続いてこそ価値が出ます。個人や企業が単独で行うには荷が重いのです。

プロジェクトそのものを持続可能にすることが、製品のサスティナビリティを高めることにつながります。

編集後記「締めの都々逸」

「持続困難 オヤジが悩む サスティナブルな 古女房」

サスティナブルっていろいろなところで使われますね。地球の持続可能性、環境の持続可能性、生態系の持続可能性、そして産業やビジネスの持続可能性。これらは必ずしも一致するものではなく、対立するものもあります。それを各々の立場で勝手にサスティナブルを主張しているわけです。

そもそも「地球に優しい」という表現も地球を舐めています。地球は人類が滅びたところでビクともしません。気候変動も悠久の歴史の中のほんの1ページです。結局、人間が心配しているのは人間の持続可能性だけです。

自然と人間を対立して考え、自然に打ち勝つという発想は結局、自然破壊につながります。日本のように自然に手を入れることで、生態系がより豊かになるというのが理想ではないでしょうか。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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