しかし、いつ届くかは分からない。すると、戦車が来る前に、勿論、F16などの飛行機などをウクライナ軍が持つ前に、さらにハイマースの150キロ射程の弾が届く前に、ロシア軍は大攻勢を仕掛けようとしている。このタイミングのずれを意識しながら、ウクライナ軍が軍事支援によって強い力を得る前にやってしまおうということで、ゲラシモフは準備を続けてきたのではないかと思います。
問題は、そういうことができるだけの力をロシア軍がまだ保持しているのか、もう持っていないのか。それがこれから2月、3月にかけて分かってくるのだろうと思います。これでロシア軍が再び、最初に侵攻したとき以上の力を持ってどこかで戦線を大きく打開するというようなことが起こるのか起こらないのか、これによって戦争の行方が最終的にどうなるか、決まってしまうくらいのことではないのかと思います。
この間のことを見ていると、結局、軍事の合理性の中に政治的な要求・要請が忍び寄ってくる感じがします。プーチンさんが「3月末までにドンバス地方占領」と言ったのは、随分後になってのことですね。最初からそのように言っていたわけではないですね。ある時点でもうむき出しの政治的な要求が出てくる。プーチンさんが「3月末までに」というのは、それに続いておそらくは勝利宣言を行い、国内でプーチン人気が高まってくれば大統領選に勝てるのではないかという、おそらくは大変個人的な目標のもとに軍隊を動かしている、ということだと思うのです。政治の根本にあるのはそんな、実にくだらないものだと思います。
それに対してウクライナ軍の方も、今大激戦地としてそれこそ過去、色々な戦いが「なんとかの戦い」として名前を残していますが、「バフムート」での両軍の凄惨な力比べのようなことをしている訳ですが、その戦いにどのような意味があるのかについてはよく分からない。そんなにこだわる場所なのかということを例えばアメリカ軍などはウクライナ側に問うているようで、軍隊が消耗してしまう前に撤退したらどうかということをゼレンスキーさんに言っているらしい。
しかし、ゼレンスキーさん側からすれば、「バフムートの戦い」は絶対に負けられない、引くことの出来ない戦いで、抵抗の聖地・バフムートという位置づけをしている。市民が7,000人から8,000人くらいパフムートに残っているのはどうするのか、この人たちを見捨てるのかということも入ってくる。ゼレンスキー政権が政権の正統性を主張するためには引いてはいけない場所になっている。ゼレンスキーさんが最前線を訪れたのもバフムートでした。そういう、ある種の政治的な要請が被さっていると思うのですね。
しかし、その政治が目指すものがウクライナの場合には、国連憲章の自衛権の回復という動きそのものであり、プーチンさんの個人的な目標とは次元が違うと思います。そういうものが今争っていて、その帰趨が数ヶ月後には分かってくるのだろうという時期に来た。というようなことを考えました。
色んな情報が錯綜していて、ロシア軍は大変な損害を被った、人間的にも兵器でも…もう精強な軍隊を再編することなど出来ないほどに弱体化しているのではないかという見方と、いやいやそんなことはないのだという見方もある。ウクライナ軍の方も、たとえ1ヶ月、西側支援の供給が遅れ、実戦配備が遅れたとしても、その間ウクライナ軍は十分耐え抜くだろうという見方と、いやいや、結構ボロボロになってしまうのではないかという見方と、両方あると思います。いよいよ、それがどちらなのかが分かる時期を迎えるということだと思います。
(『uttiiジャーナル』2023年2月12日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)
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