MAG2 NEWS MENU

「正社員には推薦しない」でうつ病になった契約社員が会社を訴えた結果

会社の人事評価に振り回されるビジネスパーソンは多いと思います。「もし悪かったら…」なんて考えると不安になるものですよね。実は、この人事評価で裁判に発展したケースがあると今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』の著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが紹介しています。評価面談の際の上司の“伝え方”が争点になったようです。

「上司の不適切な面談」で労災は認められるのか

例えば、ある試験に落ちたとします。みなさんだったらどう感じるでしょうか?

もちろんショックを受けたり落ち込んだりはするかも知れませんが特に重要視していない試験だったり受かるつもりもなかった試験であれば、それほどショックは無いかも知れません。

逆に「受かると思っていた試験」に落ちたらかなりのショックなのではないでしょうか。

同様に「映画を観たら面白くなかった」「面白そうと思って観た映画が面白くなかった」場合や「食べてみたら美味しくなかった」「美味しそうと思って食べてみたら美味しくなかった」場合なども、前者より後者のほうが精神的なダメージは大きいでしょう。

これは人事評価についても同じことが言えます。

それについて裁判があります。

ある会社で、業務が原因でうつ病になったとして労災を申請した契約社員が、労基署が労災と認めなかったため裁判をおこしました。

そこで問題になったのが上司や社長との面談でした。

その契約社員は正社員になるために必死に勉強して資格を取得し、日頃は上司から良い評価をもらっていたにも関わらず、いざ面談で「正社員には推薦しない」と言われたというのです。その精神的なショックでうつ病を発症したと訴えました。

ではこの裁判はどうなったか。

労災と認められました。

その理由は以下の通りです。

・(この契約社員は)正社員になるために努力を重ね、課題への取組みについて肯定的な評価を受けていたにも関わらず、面談にて「正社員には推薦しない」と告げられたのは予想外の不意打ちである
・(上司は)自尊心を傷つけるような発言を含め長時間にわたって面談をし、次年度以降の受験につながる話し方をせず、部下の心情に著しく配慮を欠く方法で面談を行った
このような対応は労務管理上極めて不合理かつ不適切な対応であったというべきである
・よって「業務による強い心理的負荷」の原因であると評価することができる

いかがでしょうか?

実務的に注意すべきポイントは3点あります。

まず1点目が「評価の伝え方」です。

部下をもつ上司であれば経験がある人も多いかも知れませんが「悪いところを伝える」のは非常に難しいものです。みなさんもその言い方や伝えるタイミングに苦労されているのではないでしょうか。

この裁判例の上司もそうだったのかも知れませんが、本人にあてた行動育成計画書のコメントには「目標を順調にクリアされてますね」「達成度が高く評価いたします」などと記載していました。

それが、面談とのギャップにつながり契約社員本人にとっては「予想外」「不意打ち」となり、「業務における強いストレス」と判断されたのです。

これはこの裁判例に限った話ではなく、もしみなさんの部下がそうされたら、その部下も同じように感じるのではないでしょうか。

「いかに評価を適切に伝えるか」は、言い方やタイミングを慎重に考える必要があります。

2点目は「部下とのコミュニケーション」です。

この裁判例でも、部下である契約社員とのコミュニケーション不足を指摘されています。

正社員登用を否定されてここまでショックを受けるくらいですから正社員登用への気持ちを普段のコミュニケーションで把握していたら、面談ではもう少し違った言い方ができたはずです。

最後の3点目が「面談(1on1等)の定期的な実施」です。

会社によっては行っているところもあるとは思いますが「忙しい」「そこまで手が回らない」「やり方がわからない」などの理由でやっていない会社も多いのではないでしょうか。

やり方がわからないのであれば「部下の話をじっくり聞く」だけでも良いと思います。頻度や時間数はそれぞれで良いと思いますが定期的に行うことは間違い無くおススメです。

最後に、今回の「面談でうつ病を発症」は特殊な例と感じる人もいるかも知れません。確かに誰もが想定できるほど日常的に起こることでは無いかもしれませんし、「面談くらいで…」と考える人もいるかも知れません。

ただ、裁判所は

「(この契約社員と)同じ職種、年齢、経験などが類似する同種の労働者にとっても、同様にあり得る」とも判断しています。

人にはいろいろな事情があります。うつ病になる、ならないは別にしても、それらの事情を考慮した面談ができると良いですね。

image by: Shutterstock.com

特定社会保険労務士 小林一石この著者の記事一覧

【社員10人の会社を3年で100人にする成長型労務管理】 社員300名の中小企業での人事担当10年、現在は特定社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツを「わかりやすさ」を重視してお伝えいたします。 その知識を「知っているだけ」で防げる労務トラブルはたくさんあります。逆に「知らなかった」だけで、容易に防げたはずの労務トラブルを発生させてしまうこともあります。 法律論だけでも建前論だけでもない、実務にそった内容のメルマガです。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理 』

【著者】 特定社会保険労務士 小林一石 【発行周期】 ほぼ週刊

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け