新右翼系の民族派団体「一水会」を創設した政治活動家で思想家の鈴木邦男氏が今年1月に亡くなり、去る3月23日にお別れの会が執り行われました。この会で弔辞を読んだ評論家の佐高信さんが、メルマガ『佐高信の筆刀両断』で、鈴木邦男氏を“ホンモノ”だと思う理由をまず披露。「新右翼」と呼ばれ、若い頃には櫻井よしこ氏に「テリブル」と評された鈴木氏が、インターナショナルを歌って涙し、櫻井氏に対して「貴女の方がテリブルだよ」と笑うなど、左傾化していったエピソードを紹介しています。
統一教会を批判した鈴木邦男
一水会が主催した「鈴木邦男お別れ会」は3月23日に開かれた。現代表の木村三浩の弔辞に続いて、鳩山由紀夫、田原総一朗、鈴木宗男、私、福島みずほの5人が順にスピーチした。
新右翼といわれた鈴木を私がホンモノだと思うのは、早くから統一教会を批判していたことである。愛国心の押しつけを嫌った鈴木は統一教会の全体主義に反発したのだろう。
2012年4月24日、仙台で開催した「佐高信政治塾」第7期第1回の講座で鈴木と対談した。題して「右翼と左翼の交差点」。その後の慰労会には仙台在住の鈴木の兄も加わっていたが、彼の前で鈴木は“借りてきた猫”だった。
鈴木を弟に持った兄のところには、しばしば警察が招かざる客として来たらしい。それで、兄だけでなく兄の妻にも鈴木は頭が上がらないという。統制の道具として家族を使うのはまさに統一教会に通ずる。
鈴木を知って私は「警察に取り締まられる右翼」と「取り締まられない右翼」がいることを知った。鈴木が代表をしていた一水会はもちろん前者である。木村に鈴木のことを尋ねると――
「何やってんだと怒られつづけて、30余年ですからね。お前ら、ちゃんと運動やれと。酒ばかり飲んでのアルコール共同体はダメだぞ、と厳しいことを言われます。鈴木さんは大言壮語する人間は嫌いで、学者肌のところがありましたね」
鈴木と『こんな日本 大嫌い!』(青谷舎)という対論を出している辛淑玉は鈴木について「牧師のイメージがある」と言う。それはミッションスクールで学んで聖書や讃美歌に親しんだからだけではないだろう。
鈴木は何度か北朝鮮に行って、「よど号」で彼の地に行った人たちと会い、ある時には世界の交流大会でヨーロッパの人が「アメリカと戦っている唯一の国」として北朝鮮を称え、最後にインターナショナルを歌うのを聞いて、自分も歌い、感動のあまり、涙を流したらしい。
鈴木の「左傾化」はここまで進んでいた。だから、鈴木は親米右翼に、右翼の風上におけないと非難され、殴りかかられたりもした。
エリート意識や前衛意識から来る「左翼の冷たさ」を鈴木は批判していた。「右翼はだいたい落ちこぼれ」だと言っていたが、左翼がその臭さから脱しなければ、運動は広がらないだろう。
一水会の機関紙『レコンキスタ』の鈴木追悼号に私は「どちらがテリブルだったのか?」という一文を寄せ、こんな逸話を紹介した。
鈴木がバリバリの右翼青年だったとき、記者をしていた櫻井よしこが取材に来て、「右翼青年!おう、テリブル」と言ったという。「いまは貴女の方がテリブルだよ」と鈴木は笑っていた。鈴木と私では、どちらがテリブルなのか?いずれにせよ「誰にとって」を付け加えなければならない。
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