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疲れたら飯食って寝ろ!精神科医が“食事=睡眠>>>>入浴”と考えるワケ

「食事」「睡眠」「入浴」。どれも健康な生活を送る上で欠かせないものと感じます。しかし、この3つの行為の優先度には差があるとか。メルマガ『バク@精神科医の医者バカ話』の著者で、現役の精神科医・内科医としての実績を持つバク先生が「風呂の歴史」を振り返りながら解説します。

疲れたら飯食って寝るに限る!というかそうしないと病んじゃうよというお話を風呂の歴史から振り返る回

みなさんこんにちは!バク@精神科医です。

ここしばらくの気候の乱高下で体調など崩されていないでしょうか私はモロに煽りをくらい胃痛で少し寝ていたら起きたら4月27日の午前2時になっていました。メルマガの発行も遅れたし(本当に申し訳ありません……)、この上外来が休みでなかったらと思うとゾッとします……と書いてふと思うワケです。

(いや?体調悪いんだから仕事は休んでしっかり体調を治すべきでは?)と。

精神科医として外来で「しんどいなら休みましょう」と患者さんには言っているのに、自分も外来で内科の先生に同じことを言われそうだなぁと反省しつつ今回のお題は「風呂の歴史」です。いや、精神科で風呂って何が関係あんねん!?と思われるかもしれませんが、結構関係があるので外来で説明に使えないかなぁと思って調べ出したら意外と奥深い日本人とお風呂の関係を発見しましたのでご報告いたします。

精神科外来と風呂

外来に来る患者さんは大体綺麗です(近づいて行ってクンクンしたりしないですが、一部数年お風呂に入っていない方以外は綺麗だと認識しています。数年ものの方は流石に入室されるだけで目に染みます……)。

外来という「外」に出る時、患者さんはどんなにしんどくてもほぼ風呂に入ってきます。これは私が内科医の時に適応障害でめちゃくちゃ酷い抑うつ状態になった時も同じでした。通院は状態が悪かったので毎週行っていましたが(薬が合わなくて全然眠れないし、しゃべる相手も主治医しかいなかったので、ひたすら「しんどいです」しか言わない患者だったので、今思うと主治医も大変だっただろうなぁと思います。一人暮らしだったので正直入院した方が良かったと今なら思えるんですけれど、主治医の紹介できる入院先が全部大学病院の関連病院ばかりだったし、私も主治医も知り合いのいる場所に入院するというのに抵抗がありました……)、その毎週の外来通院の直前が私の唯一の入浴機会でした。

それ以外は外に出ることは無いし(食事をどうしていたかと言うと、心配してくれていた同期が差し入れてくれるバウムクーヘンだけを食べて生きていました。全く食べられないところまで落ちている場合はまずカロリーが入るなら栄養はの二の次だとこの経験から思います)、私は布団と同化してグズグズと過ごしていたのですが……外来やってると皆さんめっちゃ風呂だけは毎日入ろうとしてて心配になります。

中には「仕事から帰ると気絶するように床で午前1時くらいまで気がついたら寝てしまう。起きたら必死になってお風呂に入って仕事に備えて寝ようとするけれど眠れなくて……」という方もおられ、「あれ?食事は?」と聞いても「食欲がないので食べていません」と言う回答が返ってきたりします。

これは本当に危険な行動だと言うことが広まってほしいなぁと思いますがかなり多くの患者さんがやってしまっています。

社会人(学生さんも)として、入浴(見た目)>食事という感覚が蔓延しているのですが、体からすれば食事=睡眠>>>>入浴です。

私の精神科の恩師からひたすら言われていた金言として「飯食って屁こいて寝れんようになったら病気になる」というのがありますが、飯食って(食事)屁こいて(下痢でも便秘でもない)寝る(睡眠)!というのは本当にどこかが崩れるとメンタルが折れ出します。

そしてこの金言には「風呂入って」は入っていません。つまり風呂はメンタルの基礎の基礎としては捨てて良いレベルなのですが、どうしても現代人は食事や睡眠より入浴を優先してしまいがちです

これは「毎日入浴しないのは汚い」という感覚(というか思い込み)が根付いているからだと思います。私もメンタルが折れるまではそうだと思っていました。でもバッキバキに折れて数ヶ月休職に追い込まれた時「風呂」はとてつもなく疲れるし、しんどいし、命懸けでした。

これは大袈裟でもなんでもなく、飯も食えず(カロリーカスカス)、寝れてもいない(脳は全く休まってない)ボロボロの状態では、服を脱いで(この時点で物凄く精神的に心細くなる)、湯を浴び(風呂桶なんかに入ったら水の重みで出られなくなりそうになるからシャワーが限界)、体と頭を洗い(この辺の順番やタイミングすら無意識ではもう出来ず、必死にカスカスの脳みそをフル回転させる)、流し(どこまでゆすげば良いのかもわからない)ます。もうヘトヘトになります。ここから体を拭いて髪の毛を乾かすという重労働!

一回この動作がしんどくなった私は復職後、当直中に風呂に入らない医者に成長しました。最初はビビりまくっていましたが、別に誰にも何も言われません。……あれ?もしかして毎日風呂に入らなくてもそこまで臭くならないのか?(その日の行動や体質によると思いますが)

そもそも水道環境が整いまくった現代でこれなので、昔はどうしてたんや?となり、ちょっと調べてみました。

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日本の風呂の歴史

日本の風呂!というと江戸の大浴場!とかを思い出すかもしれませんが、調べたら平安時代のお風呂事情が面白かったのでそっちを紹介します。

まず平安時代は水が今のように潤沢に使えません(今ほど大量の綺麗な水が使えるようになったのも近年ですしね……)。でもお洒落番長ばっかりいたっぽい平安時代(貴族だけにしても)、お風呂に入らないで臭かったら話になりません。しかし水がない。どないすんねん平安貴族。

答え:蒸し風呂に入る

蒸し風呂に麻の裏地のない着物(湯帷子[ゆかたびら]。今の浴衣[ゆかた]の語源)を着て入り、座ります。座布団状態にするところには風呂敷の語源になった布を敷いていました。そこでガンガン汗をかいて、浮いてきた垢をゴリゴリ落として終わりです。

……頭痒くならんのかなこれ。

平安貴族といえば髪が命!ですよね。命はどないしとったんや!?というと米の研ぎ汁でツヤツヤにしていました。幼い頃にお雛様を見て「こんなガチガチの頭、どうやってたんやろ……」と思って見ていましたが余裕で天然の皮脂でガチガチになりそうですね……。

一応湯殿という装備もありましたが、これにはつかりません。お湯を汲んでザパーっとかける湯浴みという行為をする場所でした。湯浴みは因みに「体を綺麗にする行為」ではなく「身を清める行為」です。同じじゃないの?違います。身についた穢れ(けがれ)をお湯で流す行為です。

穢れをずっと身にまとっているのはとても危険な行為とされていました。昔は長距離航海の時には一回も垢すりをしないでその身に穢れをまとい続けることで船の厄災を一手に引き受ける仕事もあったくらい汚れ=やべぇ厄災感覚はあったようです。

なお、穢れを落とす日(=湯浴みをする日)を決めるのは全部占いです。当時は陰陽師の日々の占いが社会の全てを決定していました。めざましテレビの占いなんてどうでも良いレベルです。毎日陰陽師が上級貴族を占い、行ける方角も全部決めました。なので下手な方向に禁忌が出たりでもしたら出勤すらできません。

爪を切るのも髪の毛を切るのも全部陰陽師の許可が必要です。なぜなら爪にも髪の毛にもその人の霊力が宿っているからです!陰陽師からちゃんと指示を受けた日に切らないと危険ですよ!運が悪いといつまでも切れません!めっちゃ不便やん

一応まぁでもこんな世界ですけれど、平安時代の辛口女流コラムニスト清少納言も「あの人の着物の襟首めっちゃ垢ついてるやんwプププw」とか書いて残してるので(こう考えたらデジタルタトゥーも真っ青な残り方ですね)垢が着物についたりしてるのはNGだったのでしょう。金持ちでおしゃれな上級平安貴族は垢がつく前に着物を下賜(下の身分の人にタダであげること)してたでしょうし、とてつもないディスり方です。怖~。

あとは雅でオシャンなお香文化も蒸し風呂しか入れない貴族社会では発達せざるを得ませんでした。臭けりゃええ匂いで誤魔化したったらええねん!の思考です。

因みにこんな日本のことを周辺諸国(今の中国当たり)は「風呂に入りすぎてて国民全員が潔癖で怖い」みたいに書いていた記録も残っています。

だから?毎日風呂なんて入ってる方がおかしいんですよ多分。

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海外のお風呂事情

毎日風呂に入らなくても大丈夫というか、潔癖すぎへん?レベルで言われていた日本ですが、お香文化で私が思い出したのは中世ヨーロッパの香水文化です。

あっちに至ってはトイレの管理もめちゃくちゃでした。

貴族がうろつく花のベルサイユ宮殿でハイヒールが生まれ、皆が履いていたのはオシャレのためというよりはその辺に落ちている野糞を踏まないためです。つまりハイヒールを履かないとやばいくらい野糞が落ちていたのです。ベルサイユ宮殿に。

一般庶民は部屋の片隅の壺に用を足し、ある程度溜まってきたら窓を開けこう叫びます。

「捨てるぞ!捨てるぞ!捨てるぞ!!」

この声が聞こえた建物の近くを歩いていた人々は必死でダッシュして逃げなくてはなりません。この掛け声の後にやってくるのはその声が放たれた窓から濃縮発酵した排泄物が放り出されるからです。

今ってマジで衛生環境が良くなったんですね……(今でもシャンゼリゼ通りは臭いらしいけど)。

因みに エリザベス女王(一世)は月に1回入浴したいという人で、周りから「マジやばい潔癖症」扱いされていました。月一の入浴で病的な潔癖症扱いです。

……皆!疲れてる時は安心して風呂なんて入らずに飯食って寝よう!!(なお筆者はマジで疲れていたら入浴しないで飯食って寝てます) 

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image by: Shutterstock.com

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文系から理転して医学部へ、医者になってからも内科医から精神科医へ転身を繰り返している落ち着きのないADHD当事者、依存症家族、AC当事者、毒親育ちのノンバイナリー(無性)。持ち前の衝動性で書籍を書いたりしながら常勤医として奮闘中のバクが、世間の目がまだまだ偏見に満ちている精神科領域について医療者目線と当事者目線で語ったり雑談したりします。その他産業医目線での復職についてや、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の話、表ではいいにくいジェンダー問題や発達障害についての赤裸々なお話を不定期にお届け予定です。

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