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“偏愛”社員を生かす。ビックカメラ“マイスター制度”の顧客志向

日本を代表する家電量販店の一つ、ビックカメラが新たな人事制度「くらし応援マイスター制度」を昨年9月に導入。“偏愛”とも呼べるこだわりや特別な能力を持つ販売員を厚遇することで、顧客の潜在ニーズを掘り起こすことに成功しているようです。今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では、著者の理央さんが、競合に差をつけるために「潜在ニーズを見つけ出す4ステップ」をレクチャー。ビックカメラの戦略がいかに優れていて参考になるかを解説しています。

ライバルに差をつける潜在ニーズの発見と実践プラン ~ビックカメラの事例

今号の特集は「潜在ニーズの発見の方法と、その具体化・施策化」について考えていきます。潜在ニーズとは、顧客が現在分かっていないけれど、教えてくれたら嬉しいものを指します。

マーケティングでは、この潜在ニーズをライバルに先駆けて見つけ、それをいち早く施策として実施するのが重要です。そうすることで、顧客が本当に必要とするものを知り、値段の安さや、商品のスペック以外の部分で、買いたい、契約したい、という“買う理由”になります。

ところが、顧客が今は気づいていないので、ライバルはもちろん、あなたの会社でも気づいていないことが大半です。なので、以下のような方法で、潜在ニーズを見つけ出すのです。

  1. 顧客リサーチ~顧客へのアンケートやインタビューを通じて顧客の意見を聞きます
  2. ライバルの分析:競合他社の製品やサービスを調べ、それらが提供していないものをリストアップする
  3. マーケットトレンドの分析:業界や市場のトレンドから将来的なニーズを予測します
  4. 顧客フィードバックの収集:顧客からの製品やサービスの使用体験のフィードバックを集め、それを元に潜在ニーズを把握します

ここで気をつけなければならないのが、1のリサーチです。顧客が気づいていないニーズを探し出すので、リサーチで「何に困ってますか?」「どんな商品が欲しいですか?」とストレートに聞いても、返ってくる答えは、顧客が既に知っている“顕在ニーズ”だけ。なので、リサーチの段階では、あくまで顕在ニーズを洗い出すことを目的とします。

これは、2と3も同じで、1から3までのステップでは、現状を正しく知ることが目的です。ここで出てきた情報を鵜呑みにしては、ライバルがやっていることと同じになります。そこで、4が最重要になるのです。

顧客の自然な行動を観察する際に、「こんなことに不満を持っていそうだ」「ここに悩んでいるかも」という仮説を立てます。この辺りはカスタマージャーニーのアプローチで、顧客がニーズに気づいて、買うまでの心理と行動のプロセスを洗い出し、そこから仮説を出すといいでしょう。

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【企業の実践事例】
この潜在ニーズを具体化して、実際に顧客サービスに活用している事例を紹介します。以下、日経MJ23年4月17日からの引用です。

ビックカメラは、22年9月に、「くらし応援マイスター制度」と呼ぶ、新たな人事制度を導入した。

 

専門知識を持つ現場の販売員に報いるのが狙い。販売実績や保有資格などの基準を満たせば、マイスターと認定し、店舗の各階を取り仕切る「フロア統括」と、同等の給与を支払う。

 

さらに、管理職である副店長や店長並みに、処遇される上級マイスターも新設を予定している。

このくらしマイスターの人たちは、単なる専門分野に詳しい人、というだけでなく、記事によると、耳を見ただけでぴったりなイヤホンを、お薦めできるオーディオ担当者とか、世界を飛び回って、自分で撮った自作写真集を、展示するカメラ担当者といった具合に、かなりニッチで“偏愛”に近い人たち、ということになります。この愛という表現がぴったりですよね。まるで「マツコの知らない世界」に出てくる方々のようです。

このビックカメラの専門性を持つ店員さんたちは、商品とサービスを提供するために、かなりニッチなエリアの専門的な知識を持っています。しかも、メーカーから派遣された社員と違い、幅広いメーカーの知識がある、ということも顧客にはメリットです。

彼らは顧客が購入する製品に関する質問に答え、商品を選ぶためのヒントを提供できます。また、顧客が商品を試すこともできるので、それが望むものであるかどうかを、事前に確認することができます。

家電製品の使い方以外にも、想定されるトラブルシューティング、接続などのやり方や、購入後のIT関連のトラブルなどにも詳しいので、事前に予測して、伝えることも可能ですよね。

なのでこのサービスは、顧客が「くらし」に関連するトラブルに直面した時に、迅速で効率的な解決策を提供することができる、といえます。顧客は、マイスターのサポートを受けることで、未然にトラブルや課題を解決することができるので、まさに「くらし」をより豊かにすることができるのです。

ChatGPTを使えば、それくらいできますよね、という声が聞こえてきそうですが、これを人が温かく、しかも愛情持って説明してくれたら、やはり買いたい、という気持ちは強くなりますよね。

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【ビックカメラから学べること】
このようなサービスは、単にリサーチで「どんなサービスが欲しいですか?」と聞いても出てきづらいのです。

顧客が欲しいと思い、比べ、何にするか決め、買う、という一連の顧客体験の中で、「何ができるか?」という仮説を立てていき、「今はないけれど、あれば顧客が嬉しいこと」を、自社で見つけていくしかありません。これが潜在ニーズの発見方法です。

もう1点は「このアイディア」を実現したこと。偏愛のある社員を配置する、という突飛なアイディアを、大企業が会社として実施するには、多くのハードルがあったに違いありません。しかも、給与体系や評価まで、変更しなければならないため、労力もかかります。

画期的なアイディアは、面白い!とはなりますが、やってみよう、というところまで持っていくために、社内外の多くの人たちを説得しなければなりません。その中には、マーケティング部以外の人たちも、多くいるはずです。

社内が顧客志向になっていなければ、実現しないことが大半なのです。顧客の潜在ニーズの発見と、その実施までに関して、大いに参考にできる事例です。

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image by:Mirko Kuzmanovic/Shutterstock.com

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