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Organic cucumbers cultivation. Closeup of fresh green vegetables ripening in glasshouse

ホンマでっか池田教授が家庭菜園でキュウリを作らなくなったワケ

定年後に時間を持て余す高齢者の話をときどき耳にします。時間があることを喜びとするには、趣味を持つのが近道なのかもしれません。CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授は、定年後も舞い込む仕事を選別しながら、自由な時間を謳歌しているようです。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、出かけなければならない仕事をなるべく入れない理由として、絶好の昆虫採集日和を逃したくないからと説明。また、庭で作る野菜には相性があるらしいこと、キュウリを作るのをやめたワケなど、趣味の家庭菜園をとおしての気づきや楽しさを伝えています。

忙中時々庭仕事

定年になっても思ったほど暇にならないのは、本の執筆依頼といった仕事をあまり考えもせずに引き受けるからだ、ということはよく分かっている。外出するのは面倒なので、大学の非常勤講師とかカルチャーセンターとかの定期的な仕事は、なるべく引き受けないようにしている。ずっと雨が降った後で、天気が快晴になって、今日は虫が出るぞ、という絶好の日に、出かけなければならない仕事が入っていると、とても損した気がする。

自然とは無縁の生活をしている都会人は、絶好の虫採り日和に、虫採りに行けない無念さは理解できないだろうね。わずかな間しか出現しない珍品のカミキリムシは1週間時期がずれるともう採れなくなってしまうので、絶好の日というのは年に数日しかないのである。虫を採っていると季節の推移に敏感になる。

ほとんどの仕事は、自宅でしているので、今日締め切りという仕事以外は、明日に延ばすことができる。勤め人と違ってそういう点では有り難い。「すまじきものは宮仕え」というのは、多くの人にとっては、上司に気を使ったり、心にもない報告書を書かねばならなかったり、もっぱら人間関係や、組織維持のためのブルシットジョブが、嫌だということだろうが、私にとっては、時間を拘束されるのが一番嫌なのである。そもそも私はブルシットジョブには縁がない。

月に2回このメルマガを書く。「池田清彦のやせ我慢日記」と「生物学もの知り帖」である。他にほぼ週1回配信のYou Tube「池田清彦の森羅万象」と週3回配信のVoicy「池田清彦の森羅万象」の録画と録音をしなければならない。それ以外に、出版予定の本のゲラ直しや、時々講演やテレビ出演もあるので、後期高齢者の仕事量としては多いほうだと思うが、ネタを探すのに結構勉強するので、ボケの進行は多少抑えられるかもしれない。

それで、楽しみは家庭菜園だ。庭に出て、自分が育てている野菜が元気なのを見るとうれしい。今年は、もっぱらミニトマトとパプリカを育てている。あと、ピーマンと唐辛子が少し。定年になったばかりの頃は、張り切っていろいろなものを育てていたのだけれども、どうも相性があるようで、一番ダメだったのはナス、次にキヌサヤ、そしてキュウリである。一番手間がかかって面白かったのはヤツガシラである。

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ナスは毎年挑戦したのだけれども、花は咲くのだけれども実が固くなってしまって、うまくいったためしがない。それで去年からナスの栽培はやめた。キヌサヤは大宮に住んでいる姉に勧められて去年初めて植えてみたけれども、うどん粉病がすごくて、嫌になってしまった。前と後ろの両隣のお宅も、同じ頃キヌサヤを栽培していたのだが、同じようにうどん粉病で真っ白になっていたので、去年はこの辺りでは、うどん粉病の菌(カビ)が蔓延していたのかもしれない。

姉に聞くと、彼女の庭のキヌサヤはうどん粉病になったことがないというので、有病地というのがあるのかしら。私が知る限り、うどん粉病に一番なりやすいのは百日紅(サルスベリ)で、この辺りで見かける百日紅の葉は、たいていうどん粉病に冒されている。人間には無毒なので、うどん粉病に冒された野菜を食べても健康には問題がないが、あまり気持ちがいいものではない。

キュウリは定年になった年に初めて植えて、大収穫だったので気をよくして次の年にも植えたのだが、ウリハムシが大発生して嫌になってしまった。キュウリが成り始めた頃、2・3匹、葉についていたのを発見したのだが、あまり真面目に駆除しなかったのだ。このくらいの数だったら大した被害にはならないだろうと仏心が出て、見過ごしていたのが仇となった。気が付いた時には100匹ほどの大集団になって、キュウリの葉が穴だらけになってしまった。

葉に止まっている大集団は、キュウリの支柱をトントンと軽くたたくと一斉に飛び立つ。それを、大きな捕虫網で掬うのだが半分くらいしか採れない。手で掴むと黄色い汁を出すが、手が黄色になるのを気にしないでどんどん潰す。毎日捕虫網を振って半分くらいは駆除するのだが、もはや手遅れで、次の日には元の木阿弥になってしまう。

それでキュウリの栽培もやめた。実はキュウリにはソラレンという物質が含まれていて、この物質は紫外線の吸収を高めてシミを作るので、朝や昼にキュウリは食べないほうがいい、という話を女房がどこかで聞いてきて、キュウリは夜しか食べないと言い出したので、それもキュウリを作らなくなった一因である。キュウリはぬか床に漬けて、朝食うのが一番うまいので、それがダメということなら、キュウリを作る元気が出ない。

もっとも、最近少し真面目に調べてみたら、多少食ってもシミができるほどの量は摂れないようだ。それでは、来年作ってみるかと言うと、どうも乗り気がしない。ミニトマトは20個ほどできてもすぐに食べてしまうけれど、キュウリが20本も同時にできると、始末に困る。

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ヤツガシラ(八頭)は私が子供の時の正月料理の定番で、お餅とヤツガシラと青菜のお吸い物を、仏壇やお稲荷さん(庭の隅にお稲荷さんを祀ってあったのだ)にお供えしていたのをよく覚えている。サトイモと同じ種の品種だけれど、大きな親芋の周りにぼこぼこと頭のような子芋がついているのが名前の由来のようだ。鳥にもヤツガシラという名の種がいて、頭に10個くらいの冠羽があり、日本では稀な冬鳥である。私はまだ見たことがない。

それで、野菜のヤツガシラである。ホームセンターで種芋を見つけて買ってきて、庭に植えておいたのだ。どんどん大きくなって葉っぱが茂ってきた。ヤツガシラの茎は乾燥させて芋がらとして保存しておくと、いろいろな料理に使えて便利だと聞いていたので、10月頃芋を掘る前に茎を切って、芋がらを作ったのだ。

茎を根元で切ってまず茎の薄皮をはぐ。爪で引っ掛けて薄皮を剥くのは結構楽しい作業だ。たいした力もかけずにヒュー、ヒューと皮が剥けていくのはなかなかの快感だ。指がアクで真っ黒になるけどね。これを干せば、保存食となる。私は自分で作った芋がらを、毎日少しずつみそ汁に入れて食べていた。1年くらい持つかなと思っていたけど、半年で無くなってしまった。茎を全部切った後、期待を込めて掘り起こした芋は全くダメで、サトイモほどの大きさしかなかった。

ヤツガシラの芋がらは別名ずいきと言う。子供の頃、近所の薬局に「肥後ずいき あります」という看板が出ていて、ガキ大将の悪ガキが、ニヤニヤしていたので、何か怪しい雰囲気がしたのだけれども、大人になるまで、「肥後ずいき」の何たるかは知らなかった。ハスイモというヤツガシラの近縁種の芋がらのことで、同じようにして作り、保存食となる。但し、有名なのは保存食の方ではなく「性具」としての用途の方だ──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年7月28日号より一部抜粋。この続きは7月分のバックナンバーをお求めください)

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image by: Shutterstock.com

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