またも「傍観するだけ」のロシアを非難したアルメニア
9月30日までの3日間で全12万人のアルメニア系住民のうち、10万人以上が本国アルメニアに向けてナゴルノカラバフを脱出し、来年の元旦を待つことなく、事態が収束するとの期待が示されたのですが、10月1日にアゼルバイジャン側がハルトゥニャン前大統領を含む300人以上を国際手配し、犯罪者として訴追するという行動に出たことで、再度、アルメニアとの緊張が高まっています。
アルメニアのパシニャン首相は「これはアルメニア系勢力を根絶やしにするためのアゼルバイジャン側の企て、テロである」と非難すると同時に、軍事同盟国であるロシアが“今回も”アルメニアを助けてくれなかったことを非難する声明を出しました。
これは今回の完全敗北を受けて、再度パシニャン首相への非難が国内で高まってきていることに対する対応と割り引くことは可能ですが、9月11日にはすでに小規模ながらアメリカ軍との軍事演習を敢行し、加えて隣国イランに接近して、アゼルバイジャン側に圧力をかける動きに出ています。
ちなみにイランは、皆さんもご存じの通り、アゼルバイジャンとは非常に近く、イランのシーア派の起こりはアゼルバイジャンであることが分かっており、今でもイラン国民の25%ほどがアゼルバイジャン系であることから、アルメニアがイランと接近することは、アゼルバイジャンに対して大きな疑念と心理的プレッシャーをかけることに繋がります。
でもどうしてイランはアルメニアに接近したのでしょうか?それはアゼルバイジャン政府が、イランにとっては宿敵のイスラエルからの軍事支援を(トルコの仲介で)受けることになり、それがイラン政府に「イスラエルは隣国アゼルバイジャンを通じてイランを攻撃する気ではないか」とイランを激怒させたからであると分析できます。
ナゴルノカラバフ紛争はアゼルバイジャン側の勝利に終わりそうですが、今後、アゼルバイジャンを核にトルコ、イランなどの地域大国を巻き込んだ情勢の不安定化につながることが懸念されます。
ちなみにナゴルノカラバフは、先述の通り、4,400平方キロメートルと決して広くはないのですが、石油と天然ガスパイプラインの回廊に近く、またロシア・トルコ・イランという強国の間に位置するため、コーカサス・中央アジア・欧州にまたがる地政学リスク・利害関係は自ずと大きくなることがお分かりになるかと思います。
少しこじつけと言えるかもしれませんが、今後、バルカン半島に並ぶ世界・地域の火薬庫になりそうです。
緊張に油を注ぐような真似に出たカザフスタン
コーカサスを世界の火薬庫にかえてしまう一端を担いそうなのが、スタン系の雄であるカザフスタンです。
トカエフ大統領が国内でデモに攻撃された際、プーチン大統領はロシア軍を派遣してトカエフ大統領の窮地を救ったため、トカエフ大統領はプーチン大統領に借りがあるため、無条件でプーチン大統領支持かと思いきや、ウクライナ侵攻を巡っては決してそうとは言えず、欧米諸国とその仲間たちによる対ロ制裁には加わらないものの、ロシアによるウクライナ東南部4州の併合は承認せず、これまでにもプーチン大統領が招集する会議でもあからさまに拒絶するそぶりを見せて、ロシアとの緊張を高めているように見えます。
その緊張に油に火を注ぐような真似に出たのが、先週9月28日にベルリンを訪問した際、ショルツ独首相に対して「カザフスタンはロシアの制裁回避・迂回を支持しない。そしてカザフスタンは対ロ制裁の方針に沿った行動を取る」と述べ、「カザフスタンは制裁を遵守するために関係機関と連絡を取っていて、制裁回避を目的とした行動が起きる可能性について、ドイツが心配する必要はない」と言ってのけ、ロシア、そしてプーチン大統領への決別を演出してみました。
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