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Google日本元社長が抱いた違和感。X(旧Twitter)新CEOが動画で見せた“苛立ち”

今年6月、イーロン・マスク氏によりX(旧Twitter)にCEOとして迎えられたリンダ・ヤッカリーノ氏。NBCユニバーサルの広報担当責任者として辣腕を振るった彼女ですが、現在X社でどのような立場に置かれているのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、ヤッカリーノ氏のインタビュー映像から読み取れる、マスク氏と彼女の関係性を解説。さらに今後のヤッカリーノの行く末を予測しています。

かつての部下に嫌がらせも。イーロン・マスクに振り回されるX(旧Twitter)の新CEO

5月26日に配信した本メルマガ第6号で、X(旧ツイッター)の新しいCEOに決まったリンダ・ヤッカリーノを取り上げましたが、Xも相変わらずイーロン・マスクばかりが悪目立ちしていて、ヤッカリーノの存在感はまったくありません。その後上手くやっているのかが気になり調べてみました。

読者の中にもXのユーザーは多いと思います。買収後のXで何が起きているのか、今後Xはどのようなアプリになっていき、またXはどのような言論空間になっていくのか等々、大いに興味があるのではないかと思います。是非、あらためて第6号と合わせて読んでいただければと思います。

ヤッカリーノの最新の発言は、9月27日に、「Code2023」というイベントに彼女が登壇した時の動画(「Linda Yaccarino defends Elon Musk, X, and herself at Code 2023 [FULL INTERVIEW]」)が公開されていますので、それを見るのが良いと思います。彼女はこの動画の中で、昨年イーロン・マスクが買収した後、去っていった主要広告主の大半が戻ってきていて、損益分岐点に近づいており、2024年初頭までには黒字になるだろうという見通しを述べています。しかし、動画を見るとわかるように、彼女は終始落ち着かない態度で、自信が無さそうだったり、急に強気になったりで、インタビュアー(CNBCのジュリア・ブースティン)とのやり取りも噛み合わず、何だかイライラしているような印象を受けます。

理由の一つは、彼女が登壇する直前のセッションで、イーロン・マスクから不当な個人攻撃を受けて大炎上した、旧ツイッターの元「信頼性および安全担当責任者(Head of Trust and Safety)」だったヨエル・ロスがサプライズ登壇し、「Xはユーザーや広告主を失いつつある」などと批判したことでの動揺があったようです。ヨエル・ロスが登壇したセッションの動画(「Yoel Roth warns new X CEO about Elon and company status [FULL INTERVIEW]」)も公開されています。

ヨエル・ロスは8年間旧ツイッターに勤務し、イーロン・マスクが旧ツイッターを買収した5週間後にツイッターを辞めました。最初、マスクはロスを好評価していたようですが、辞めたことを根に持ったのか、ロスの過去のツイートや、2016年のペンシルバニア大学での博士論文を持ち出して、彼が小児性愛の支持者であるというデマを拡散しました。マスクは、自分を裏切った相手や敵と見做した相手には、平気でこういうえげつないことをよくやります。その結果、ロスのもとには殺害予告が相次ぎ、彼は家族(ロスはゲイで、動画の中ではパートナーの事をmy husbandと呼んでいます)とともに住居を何度も変わることを余儀なくされたということです。

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ロスがヤッカリーノに残した「警告」

ロスは、インタビュアー(このイベントの共同開催者のカラ・スウィッシャー)から、ヤッカリーノへのアドバイスはあるかと聞かれ、「あなたのボスが私にしたことを見てください。私は彼や会社を攻撃したことなどないのにやられました。あなた自身もまた、同じリスクに晒されていることを心配した方がいい」とヤッカリーノに警告を残しました。後でそれについて聞かれたヤッカリーノは、ロスとはすれ違いでお互いに面識がないことと、Xは、今や旧ツイッターとは違うルールで運営している新会社であるということを強調して、「マスクとは何でも話しているし、Xの仲間は素晴らしくて自分は守られているので心配には及ばない」というように返しています。

また、ロスが、買収後の旧ツイッターの投稿数が75%減ったと発言していましたが、それは間違いで逆に投稿数が増えた日や月も多いと反論しています。しかし、これにはインタビュアーがデータを示して、買収直後には増えたものの、その後はアプリのダウンロード数やアクティブユーザー数が減っていると指摘しています。その指摘に納得しないヤッカリーノに対して、インタビュアーは繰り返し統計データを示すように求めますが、ヤッカリーノはスマホでデータを探すそぶりをしただけで明確なデータを示すことができませんでした。

このインタビュー動画でひどく違和感を覚えた箇所があります。マスクは先日、「ボットを排除する唯一の手段として、Xの利用者全員から月額費用を徴収する計画である」と発言して話題になりましたが、その計画について尋ねられたヤッカリーノは、何の話かピンとこなかった様子で、「繰り返してもらえますか?」と聞き返したのです。それでインタビュアーは、「マスクはこの話を発表前にあなたに相談しなかったのですか?」と尋ねると、「私たちはすべてを話し合っています」と答えたのですが、実際はこの件を知らなかったように見えました。

インタビュアーのジュリア・ブースティンは、ここで、「あなたは広告のプロとしてXに呼ばれたと思うが、広告で支えられているフリーコンテンツにバックグラウンドを持つ人なら、この有料化という話に驚くのが普通だと思うし、あなたはCEOとして招かれたけれども、実際にマスクから重要なことを相談されているのか?」と容赦なく切り込みます。そして「プロダクトに関してはすべてマスクがみていてあなたにはレポートされていないわけだから、あなたはCEOというよりもCOOか、名前だけのCEO(CENO:CEO in Name Only)なのではないのか?」と厳しく畳み掛けます。

CENOという言葉が初耳だったヤッカリーノは、明らかにイライラしながらも、「プロダクトやテクノロジーに関してはマスクがみるのが当然で、Xはフラットな組織であり、自分はユーザーエクスペリエンスから始まってありとあらゆることをマスクと話しているし、ストラクチャー(組織構成、肩書)など気にしていない」と述べています。

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心配が尽きぬヤッカリーノの行く末

インタビューの終盤は、ADL(Anti-Defamation League)の話に移ります。ADLというのは、米国最大のユダヤ人団体です。米国にユダヤ人団体はたくさんありますが、ADLは左派系で民主党がバックになっている団体です。このADLは、自分たちの利害に反する相手に誰彼構わず「反ユダヤ主義者」のレッテルを貼って排除しようとすることで悪名高いのですが、イーロン・マスクのことを反ユダヤ主義者と断じています。反ユダヤ主義者とは、ナチやヒトラーと同類という意味になります。そしてXのボイコットキャンペーンを続けているのですが、これに怒ったマスクが反撃に出ています。「自分は反ユダヤ主義者ではないのに、ADLのせいでXの米国での広告収入が60%減となっている」として提訴をちらつかせています。それをきっかけに、Xのインフルエンサーなども巻き込んだバトルが勃発していますが、X上の、 #BanTheADL というハッシュタグは、そのバトルによるものです。

動画の中でジョナサンという名前が出て来ますが、現在のADLのトップであるジョナサン・グリーンブラッドのことです。オバマ政権時代にオバマの特別補佐官を務めた人物で、彼の下でADLは左翼化したと言われています。ヤッカリーノの役割は、広告ビジネスの専門家として、広告主との関係を再構築することにありますから、このADLによる広告ボイコットの件は避けて通れない話題なのです。

ヤッカリーノは、「訴訟は避けたい」と融和的なスタンスで話し合いを継続していると述べますが、一方で、マスクが法的手段に出ると発言していることとの矛盾をインタビュアーに突かれます。少しマスクに黙っていて欲しいと思わないか、などと聞かれますが、言論の自由を持ち出して、マスクに対して擁護的な回答をしています。

XとADLの対立の本質は、自由な言論空間にこだわるXと、ユダヤ人をヘイトから守るという名目のもと、自分たちに都合の悪い言論を抑圧したいADLの対立という構図になりますが、Xも自由な言論空間を標榜していながら、マスクがやはり自分に都合の悪い言論を押さえようとする傾向があるので、どっちもどっちのエゴのぶつかり合いといったところです。

インタビュー全体を通じて、ヤッカリーノは、自身がX社で働き始めてからわずか12週間しか経っていないとか、100daysという言葉を何度も繰り返していました。ブースティンの質問に正面から答えられないことも多かったので、現段階では自分にできることにまだ限界がある、と言い訳をしたかったのでしょう。彼女が、プラットフォームの運用からマスクが引き起こす混乱まで、一貫してXに対するさまざまな懸念を退けながら広告主との関係改善に尽力しているのは間違いないのでしょうが、マスクの下で働く限り、彼に振り回され続け、そのたびにさまざまな尻拭いをさせられることになるのは目に見えています。

今回の動画を観た個人的な印象としては、既にマスクとのコミュニケーションも上手くいっていない様子ですし、遠からず疲弊して辞めてしまうか、あるいは、マスクから引導を渡されるのではないかと感じました。あくまでも現段階での個人的な印象なので外れるかもしれませんが、引き続き注目していきたいと思います。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年10月6日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。

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image by: Anderson Nascimento / Shutterstock.com

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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