歴史的大失態。ハマスの「イスラエル攻撃」に回った米バイデンの9000億円

 

イランからハマスに流れた「バイデンの9000億円」

3点目ですが、イスラエルとアメリカの油断という問題が指摘できます。まずイスラエルですが、ネタニエフという人は保守強硬派で有名です。ですが、今回の政権では、成長著しい平時の経済を止める訳にはいかない中で、軍事的な強硬姿勢を打ち出せずにいました。そんな中で、ロシアの影響力低下を計算して、北のシリア、レバノン方面におけるヒズボラへの攻撃をチョコチョコやっていたのです。また、西岸でのトラブルへの対処はしていました。

その一方で、南部のガザでこのような陰謀が着々と準備されていたことについては、恐らくはイスラエル建国以来最悪の「諜報活動の失敗」だという批判があります。まだ現時点では断定はできませんが、イスラエルでは「攻撃を受けてネタニエフを中心に団結する」モメンタムよりも「攻撃の兆候を見抜けず戦争を回避できなかった」責任から首相を批判する声のほうが大きくなるかもしれません。

アメリカの油断はもっと本質的なものです。まず2017年から21年のトランプ時代には、アメリカとイランの関係は最悪でした。トランプの意図は、アメリカの保守派における革命以来のイランへの憎悪を政治利用するだけであり、この地域の将来像などは全く関心外でした。従って、制裁継続、攻撃の威嚇、要人の暗殺、在イスラエル大使館のエルサレム移転など、とにかくアメリカの保守の喜ぶ行動を積み重ねただけでした。

一方これを引き継いだバイデンには、オバマがやったように制裁解除へ向けての工作をする覚悟はありません。トランプが引きずり出したアメリカの保守世論を前提にすると不可能と判断したのだと思います。ですが、トランプとは違って、イランへ憎悪をぶつけるだけでは済まないと思ったのか、ある歴史的なミステイクを起こしてしまいます。

それは、今年、2023年の8月に合意されて9月に実施された、イランに抑留されていた5名のアメリカ人の交換という措置です。交換というのは、身代金を払うのではなく、6ビリオン(60億ドル=9,000億円)という「制裁により凍結されていたイランの資金」の凍結解除を行うというものでした。

バイデン政権は、この6ビリオンは、まずイランのカネであるから、元来の所有権はイランにあるということ、また実際にカタールの銀行口座から動かされていないことを確認したということ、合意ではこの資金を軍事目的に利用することは禁止されており人道目的の支出しか認められないという合意をしていたとしています。

事態の推移にもよるので、100%断定はできませんが。この9,000億円というカネが、イランからハマスに流れたということは十分考えられると思います。イランは、経済制裁を受けていますから西側とは自由にカネのやり取りはできません。ですから、巨額の支払いを外貨建で決済することは原則としてはできません。

ですが、このカタールにある金を担保にしてカネを借りる、その場合に政治的制約があるので担保としては半分とか4割とかということになるのかもしれませんが、そもそも巨額なカネです。この「バイデンの9,000億円」があるおかげで、ハマスに相当の援助を行うことは可能になったという説明は、本当のところは証明不可能であるにしても成立します。

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