歴史的大失態。ハマスの「イスラエル攻撃」に回った米バイデンの9000億円

 

それほど報道としては出ていない「ハマスの事情」

だとしたら、これはバイデンの歴史的失態であり、カーターのイラン人質救出作戦失敗、レーガンのイラン・コントラ事件というアメリカの対イラン政策の失敗の歴史に新しい1ページを加えるかもしれません。ここからは推測ですが、バイデンはこの9,000億円で、イランを懐柔できるという計算ミスをした可能性があります。ロシアの影響力が低下する中で、サウジとイスラエルが接近する、これに対してイランが黙っていてくれることを期待して、このような巨額なカネを凍結解除した、そんな判断があるとしたら、これは大変です。

もしかしたら、国務省と国防総省は絶対的な意見がない、議会も下院は機能不全で上院はキーパーソンの1名は死去、1名は判断力低下という中で、周囲が良かれと思って「大統領に最終的な決断を」求め、バイデンが見事に判断ミスをしたということもありそうです。

一方で共和党も問題を抱えています。議会下院で、強硬派8名が結束してマッカーシー下院議長を解任に追い込み、現在は正式な議長は不在です。仮議長はいますが、国家機密へのアクセス権はないようで、次期議長選出以外の実質的な審議の進行は禁じられています。ということで、アメリカの議会下院としては臨時の決議などできない状況なのです。これもまた大変な油断というしかありません。

まだそれほど報道としては出ていませんが、4点目としてハマスの事情もあるのかもしれません。イスラエルの経済成長と、世界的な資源高などでイスラエルからの物資の価格が高騰し、地域経済の困窮が悪化していた可能性はあります。また、イスラエルに取られた人質を家族のことを考えると、そろそろ奪還したいので、なにか仕掛ける必要が切迫していたのかもしれません。

これも憶測ですが、イランに経済援助を求めたら、カネだけやる訳にはいかない、イスラエルに向けて、自分たちの代わりに派手な攻撃をしてくれることを条件に、戦費と生活資金を出すというようなオファーで、これを呑むしかなかったのかもしれません。とにかく、今回の攻撃の規模は、報復されるとガザが破壊されて膨大な犠牲を伴うスケールです。勝算があってハマス自身が喜んでやったということ「だけ」ではないように思われます。

さて、今後の展開ですが、まだ戦争が始まったばかりで展開を読むのは非常に難しいと思います。今後についてはランダムに10点ほど箇条書きで指摘しておきたいと思います。

1)バイデン政権に取っては、かなりのダメージになる可能性あり。現時点では、60億ドル凍結解除の問題は、FOXニュースなど保守メディアが騒いでるだけだが、全体に広がると大変なことに。この流れで、政権崩壊、出馬断念という可能性も否定できない。

2)トランプも同じように不利になるだろう。いかにも戦時の大統領には不適切というイメージがあるし、実際に大統領時代にイスラエルから知り得た安全保障上の機密事項をロシアに流していた疑惑もある。その情報がイラン経由でハマスに伝わっていた可能性もある。トランプは、長女一家がユダヤ教徒なのでイスラエル支持だとしており、エルサレムを首都と認識するなどと言っていたが、本音の部分はアンチユダヤの匂いがするというイメージもあり、不利になる可能性。

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