勃発から20ヶ月が経過するも、依然として出口の見えないウクライナ戦争。世界の目も、ハマスのイスラエル急襲により緊張が高まる中東に向いているのが現実です。そんな状況に懸念を示すのは、日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さん。津田さんはメルマガ『国際戦略コラム有料版』で今回、ウクライナ戦争の最新の戦況を紹介するとともに、各国の「支援離れ」や「ウクライナ忘れ」の可能性を指摘しています。
ガザ危機の陰で未だ続くウクライナ戦争は現在どうなっているのか?
ロ軍はアウディーイウカ要塞の包囲を目論み、ドネツク市北側で大攻勢を掛けたが、損害の割りに占領面積が少ない。
また、ヴィクトル・アフザロフ氏がロ航空宇宙軍の新しい最高司令官に任命されたが、彼になり地上攻撃に合わせて、航空機近接支援を行うことになったのが、大きな戦術転換であろう。その分、ロ軍の攻撃力が増している。
クピャンスク・スバトバ・クレミンナ・リシチャンスク方面
ロ軍は、各所を攻撃しているが、小規模の攻撃ですべて撃退されている。弱兵しかいないので、ウ軍は簡単に撃退できるようである。
このため、ロ軍は航空優勢であることで、空爆を各地で行っている。ウ軍は、防御だけで攻撃を行っていない。ロ軍の地上攻撃は、航空近接支援を受けた地上攻撃も増えてきた。
バフムト方面
ウ軍はクリシチーウカ、アンドリーイウカの東に攻撃しているが、前進できないでいたが、アンドリーイウカの東で鉄道線路を越えて攻撃し、オドラジウカに迫っている。
クルディミウカの市街では戦闘中だが、奪還はできないでいる。もう1つがゼレノ・ピーリャを攻撃している。
ロ軍は、ボフダニウカ、クロモベ、クリシチーウカで地上攻撃をするが、撃退されている。
ドネツク市北側方面
10月20日からも大攻勢をかけている。ロ軍は1個旅団を失ったが、アウディーイウカの北側で一定の成果が出ている。このまま、北側の攻撃を継続し、もう少し進むと、アウディーイウカ要塞への補給ができなくなり、アウディーイウカからウ軍は撤退も考えないといけなくなる。
しかし、アウディーイウカは、戦略的な重要性はない。それとも、オリヒウ軸からウ軍数個旅団を増派して、アウディーイウカで、ロ軍の大部隊を殲滅することを選ぶかどうかである。
ロ軍は、部隊配置を全体的に見直している。各地で部隊再編中であり、このアウディーイウカに精鋭部隊を集めている。
しかし、ウ国防省は、ロ軍がアヴディーイウカへの攻撃ですでに約4,000人の兵士を失ったと報告した。
甚大な損失にもかかわらず、ロ軍はウ軍の陣地を襲撃し続け、そのたびに部隊を突撃させて、死者数を増加させている。バフムト攻勢時と同じような攻撃方法であり、装甲車もなくなり、徒歩での突撃になっている。
このため、ロ軍の突撃隊「ストームZ」の部隊長が戦闘拒否をしているし、ロ軍の指揮官が、ウ軍の砲撃から逃れようと撤退を求めたストームZ部隊全員を処刑すると脅した。このため、反乱を起こした部隊も出てきている。督戦隊とストームZの戦闘であろう。
ここから戦艦「ポチョムキン」の水兵反乱と同じような革命が起きる可能性も出ているようにも見える。
ドネツク市南側方面
ロ軍は、マリンカとノボミハイリウカに対して、航空近接支援を受けた地上攻撃を行った。しかし、ウ軍は撃退している。
オリヒウ軸
ウ軍は、この方面で前進できなくなってきた。コパニ方向で前進できているが、他地域では、攻撃もしていない。ロ軍も部隊再編中で攻撃をしない。ここの精鋭部隊をアウディーイウカに回している可能性が高い。
ベルボベの北にある高台をウ軍は包囲しようとしているが、そのウ軍にロ軍は攻撃してきて、攻撃をけん制している。
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ヘルソン州方面
ウ軍は、アントノフスキー鉄道橋付近、クリンキ付近、鉄道橋より上流付近で、渡河している。都合3ケ所で渡河した。3個海兵旅団の中から7個中隊が、ドニプロ側東岸で活動している。
鉄道橋から渡河した部隊はポイマまで前進している。東はヒケチャイウカ、ピテプネまで進出して、クリンキでの橋頭保を構築し、クリンチャを落とし、コザチ・ラヘリに向かっている。南はオレシュキー砂丘方向に前進している。
しかし、重火器をまだ渡河させていないことで、まだ本格的な渡河ではないようであるが、徐々に占領地を拡大している。
ロ軍は、増援部隊を投入すると思われるが、まだ到着していない。
その他の方面
ルハンスク展開のロ軍S-400防空システム3基がATACMSミサイル2機で破壊された。これにより、ルハンシクおよび、本土西部の防空に穴が開いた可能性がある。それと、トクマクではロ軍の電子戦装置が破壊されている。ウ軍のドローンの行動の自由を得ることが出来、今後の攻撃をしやすくする。
逆に、ロ軍航空機が機雷を敷設した。このため、キーウ港からの貨物船が出航できずにいる。しかし、穀物輸出はルーマニア経由で順調に行っている。
もう1つが、ウクライナ西部フメリニツキー原発にロ軍はシャヘドUAVで攻撃したが、この報復としてウ軍はロシアのクルスク原発にドローンで攻撃している。
ウクライナの状況
トランプ支持の福音派で共和党マイク・ジョンソン氏が、新下院議長になり、イスラエルへの支援を厚く、ウクライナへの支援を薄くするようであるが、プーチンが戦争に勝つことは許されないと述べた。ということで、すぐに支援がなくなることもないようだだが、援助額は少なくなる。
EUの500億ユーロ支援でもスロバキアとハンガリーがウクライナへの支援を拒否していることで、EU全体での支援もできない事態にある。
また、スロバキア新首相は、スロバキア単独での対ウ軍支援も停止するとした。ウクライナへの軍事援助がどんどん少なくなる可能性がある。
このため、ウクライナは自国生産にシフトする必要がある。このため、軍事装備生産大国への道を進んでいる。
しかし、英国は11日、1億ポンド(約1億2,100万ドル)以上相当の新たな軍事物資支援パッケージを発表し、続いて、米国は26日、1億5,000万ドル相当の新たな安全保障支援パッケージを発表した。ドイツも援助を積極的に行っている。しかし、米国の援助は、近々少なくなる。
それと、英国防省は27日、ロ空軍で長距離爆撃を担う部隊がウクライナに対し、巡航ミサイル攻撃を1カ月以上、控えていると分析した。ミサイルを備蓄し、冬場に電力インフラを狙う準備をしているとの見方を示した。イラン製の無人機を併用し、インフラ攻撃を繰り返す恐れがあるとウ政府に警告した。
もう1つ心配なのは、中東戦争に世界の目が行くことで、ウクライナが忘れられるということである。事実、このコラムでも比重が中東戦争の方に傾いている。
マルタで第3回「平和の公式」首脳補佐官級会合が開催されているが、66カ国がウクライナ和平案協議に参加しているにも関わらず、話題にならない。
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ロシアの状況
プーチンが死んだという噂が拡散している。SVR将軍の投稿であり、ロシア内での権力闘争の可能性も噂されている。ペスコフ報道官は全面否定している。プーチンの死は局面を大きく変える可能性があり、注視が必要である。
27日、ロシア中央銀行は政策金利を13%から15%に引き上げた。10月のインフレ率は6.6%に上昇しており、ルーブルの下落を止めるために利上げは必要である。
ヨハネの黙示録でも、ロシアがイスラエルを攻撃する記述があり、ウクライナから撤退して、イスラエルに向けて攻撃する可能性がある。特にパトリシェフ安保書記とゲラシモフ総参謀長は、負けているウクライナ戦争を止めたいと望んでいる。
プーチンは戦争継続であり、パトリシェフ書記と意見が違っている。
メドジェーエフは、25日「1月1日から10月25日までに約38.5万人(契約軍人30.5万人+志願兵8万人)が軍に入隊し、毎日1,600人以上が軍との契約に署名している」と述べた。この数字が事実なら「ウクライナでの損失」を十分カバーできることになる。ロ軍は60万人体制でウクライナ侵略を続けている。
しかし、備蓄兵器も徐々になくなっているし、イラクは中東戦争で武器をそちらに回す必要から、ロ軍に提供できなくなるので、戦争継続もむずかすくなってくる。
一方、ウ軍は100万人体制でこの戦争で戦っている。F-16も2024年春には手に入ることになるので、装備品での格差は大きくなる。航空優勢もなくなる。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年10月30日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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