なぜ“強いドイツ”は「劣化」したのか?動かぬ鉄道、学力低下、荒れる国土…かつての勇姿は見る影もなし

 

雪が溶けたら、今度は7日、8日と機関士組合が賃上げストに入った。組合側の要求は、555ユーロの賃上げ、各種手当の25%引き上げ、そして、同じ賃金で週の労働時間38時間を35時間に短縮すること。しかし、ドイツ鉄道側は当然、「賃上げは要求が大きすぎるし、この人手不足のご時世に35時間労働などあり得ない」と拒絶。そこで組合側は、1月8日から長期ストに入ると脅している。

利用者にしてみればストも困るが、労組があっさり合意して、その結果、運賃値上げというのも困る。そうでなくても、このお粗末なサービスで、ドイツの運賃は日本の新幹線並なのだ。要するに、ストの予告で脅されているのは国民である。

同じく12月の5日、OECDが3年に一度、15歳の生徒を対象に実施している学習到達度テスト「PISA」の結果が発表された。前年、実施されたもので、81ヵ国の69万人が参加し、「読解力」「数学応用力」「科学応用力」の3科目がマルチプルチョイスで問われる。

結果はというと、シンガポール、日本、韓国などアジア勢が上位を占めたのはいつも通りだが、2015年のPISAから下降中だったドイツは、3教科ともこれまでの最低記録となった。

ドイツではここ7~8年、教師不足に、ドイツ語を解さない生徒の増加も相まって、うまく運営できない学校が増えている。当然、学力は低下し、今回のPISAではついに、全ての科目が最低レベルに達しないという完全な落ちこぼれ組が15%にも上った。戦前より学校制度を誇ってきたドイツだったが、今や、卒業生の程度が低く、高度な職能を持った職人を育てられないという深刻な問題まで起こっている。

一国の力というのは、少数のエリートがいるだけではダメで、現場で小さな歯車となって働く一人ひとりが一定レベルの知識や能力を持ち、全体の中の自分の役割を把握していることが重要だが、学力の底辺が下がると、それが機能しなくなる。ミュンヘンの有名な経済研究所ifoは、今回のPISAに現れた数学能力の低下が、今世紀末までにドイツの国家経済に与える経済的損失を、14兆ユーロと推定した。

40年前、日独間の郵便は驚くほど正確で、両国とも、大きな歯車から小さな歯車までがちゃんと噛み合っていた。これこそが、この敗戦国2国が奇跡の経済復興を果たせた理由だ。

日本国内では今も歯車は噛み合っており、それどころか物流事情はさらに進化したが、ドイツの方はいつの間にか退化してしまった。送っておいたはずの資料が着かずに学会の発表に間に合わなかった話や、郵便物が行方不明になってしまった話は、私の周りでもしばしば聞く。着かないのでオンラインで追跡をかけると、相手が受け取っていないのに「配送済み」と表示されたというから、これでは混乱はさらに大きくなるばかりだ。先日、知り合いが日本からドイツに小包を送ろうとしたら、局員が「いつ着くか保証できません」と警告してくれたという。ドイツでは、鉄道も郵便もやはり途上国並みとなってしまった。

最近のドイツの弱体化は甚だしい。ただ、これは国民のせいというより、政治の影響も大きい。一番の原因は、政府が財政均衡に拘るあまり、内需を疎かにしてきたからだ。インフラ投資や設備投資が切り詰められれば、あらゆるところに支障が出るのは当然のことだ。

今や道路は穴ぼこだらけで、橋は老朽化。アウトーバーンの一部には、重量制限をかけなければならなくなった橋もある。鉄道のさまざまな不具合も、元はと言えば、多くは過度の節約による整備不良や、悪天候に対する備えの欠如が原因だ。また、民営化された鉄道や郵便は、当然、株主の利益が優先されるので、一時的に財政収支を悪化させる設備投資など、“有能な”経営者は手がけない。

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