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なぜ日本人には「人を下戸にする」D遺伝子が多いのか?酒好き池田教授の考察

正月だけは朝から酒を飲んでも許されるという感覚が日本人にはあるもの。ただし、酒をまったく受け付けない下戸(げこ)体質の人は、どんな日だろうが御免被りたいのがお酒です。こうした上戸と下戸が遺伝子によって決まるのはよく知られていること。白人や黒人には一人もいないとされる下戸が日本人に多いのはなぜなのでしょうか。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、37年間1日も欠かさずにお酒を飲み続けているというCX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの池田教授が、好きな日本酒や家族とお酒のエピソードとともに、日本人に下戸が多い理由について考えています。

正月は朝から酒を飲む

いつもは夕方の5時にならないと酒を飲みださないのだけれども、正月の3か日だけは例外で、朝からちょっとだけ酒を飲む。この何年間は、昔の教え子が暮れになると送ってくれる、福井県大野の大吟醸・南部酒造「究極の花垣」を飲む。最近私が飲む大吟醸では一番美味い酒の一つである。精米歩合は35%。かつてこの酒造には畠中喜一郎という名杜氏がいらして、私はこの人の銘のラベルが張ってある大吟醸の空き瓶を持っている。「花垣杜氏 畠中喜一郎 槽搾り中汲み大吟醸(ふなしぼりなかぐみだいぎんじょう)」。これは精米歩合40%だけれども、「究極の花垣」を凌ぐ無茶苦茶美味い酒だった。

最近は一番いい大吟醸の精米歩合は、だいたい35%だが、磨けば磨くほどいいってもんじゃない。中には17%なんて酒もあるけれども、そんなに磨いてももったいないだけだ。どんどん磨いていけば、最後は1%になってしまい、ついには0%になってしまう。0%じゃ酒はできない。

最近、銘品のウイスキーは空き瓶にも驚くほどの値が付くと聞いているので、もしかしたらこの空き瓶も結構高いのかもしれないな。少し前まで贔屓にしていたのは旭川の高砂酒造(「国士無双」という酒が有名)の「雪氷室一夜雫」という酒だったが、作り方が変わって、「旭神威」という酒になったので、飲むのを止めてしまった。ちなみに高砂酒造は日本で二番目に北の酒造である。一番北の酒造は増毛にある「国稀」だ。

去年の暮れに風邪をひいて微熱があって、布団の中でうつらうつらしていたのだけれども、酒だけは毎日飲んだ。一番熱があった日は38度くらいだったのだが、とりあえず、酒を飲まないと連続飲酒記録が途絶えてしまうので、0.2合くらい飲んだ。

前も書いたかもしれないが、私が直近で、酒を飲まなかった記憶があるのは1987年の2月のある日で(日にちは忘れた)、それから毎日酒を飲み続けているので、連続飲酒記録はそろそろ37年を超える。ここで止めると連続記録が途絶えるので、意地で飲んでいるわけである。熱っぽい喉に冷酒が染みてこれが結構美味いのだ。私は風邪をひくと大体喉に来て、風邪が大方治った後でも、咳が残ることが多い。痰が切れて咳が収まり、それでやっと全快になる。今回の風邪はもう少しの辛抱だ。

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私は今はたいそうな酒飲みだが、若い時から酒飲みだったわけではない。そもそも親父は基本的に下戸だったし、おふくろも酒を嗜むことはなかったので、子供の頃は自宅で酒を飲む人はいなかった。正月になると南千住に住んでいる父親の弟が自転車に乗って年始の挨拶に見えて、この人が結構な酒飲みで、親父はお正月だからと、お酒をふるまっていたが、酒飲みが嫌いなおふくろは早く帰って欲しそうなそぶりであった。

親父はほとんど酒を飲まなかったけれども、父方の祖父(私が生まれる数年前に他界した)は酒飲みだったと聞いているし、母方の祖父も酒飲みだったので(私が子供の頃はまだ存命だった)、私には酒飲みの遺伝子が入っているのだろう。下戸かどうかを決定する遺伝子は2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子で、NN、ND、DDの3パターンがあり、NNはお酒に強く、NDはある程度飲め、DDは全くの下戸である。

日本人は56%がNN、NDが40%、DDは4%である(NDとDDを合わせた酒に弱い人は44%)。ヨーロッパ系の白人やアフリカ系の黒人は100%がNNで、酒が弱い人はいない。中国人は41%が酒に弱く、韓国人28%、フィリピン人13%、タイ人4%で、どうやら日本人が一番酒に弱いようだ。私の弟は全くの下戸なので、父親も母親もおそらく遺伝子の組み合わせはNDで、私は両親から共にNの遺伝子をもらいNNで、弟は両親から共にDの遺伝子をもらいDDなのだろう。

人類学的にはNNがデフォルトで、D遺伝子は比較的近年、東アジア人の中に現れたようだ。日本人に多いのは何か適応的な意味があるのだろうか。一説によれば、アセトアルデヒドが血中にあると、マラリア原虫や日本住血吸虫が体内で活動できないようで、これらの病原体が棲息する水田が多いところでは、下戸の遺伝子が有利になるという話だが、本当だろうか。そもそも下戸はお酒を飲まないことが多く、血中にアセトアルデヒドが増えることは余りないと思われるので、この説は疑問だ。D遺伝子は適応とは関係なく、遺伝的浮動の結果日本人の個体群中に拡がったのかもしれない。

ところで、人類はいつから酒を飲むようになったのだろうか。定かなことは余りよく分からないが、最古の酒はミード、ビール、ワインとか諸説ある。木の実やハチミツに酵母菌が入って偶然醗酵したのを見つけた人類が、試しに飲んでみたところから始まったのは確かなようだ──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2024年1月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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