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「安倍さんのおかげで、生活が苦しくなったよ」国民いじめアベノミクスの発案者、リフレ派三流学者の遁走を許すな

故安倍元首相、黒田元日銀総裁のコンビが推し進めた「アベノミクス」と「異次元緩和」。安倍氏は生前、その“果実”を示すエピソードとして「給料が上がって、発泡酒がビールに変わったんだよ」という“市井の声”を好んで披露していた。ところが11年後の現在、国民の大半が実感しているのは「安倍さんのおかげで、生活が苦しくなったよ」だ。鳴り物入りの政策は、なぜ無惨な結果に終わったのか。経済に疎い安倍氏に頓珍漢なデタラメ理論を吹き込んだA級戦犯=リフレ派三流学者たちの大罪をジャーナリストの高野孟氏が暴く。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:裏口からコソコソと出て闇に紛れて消えていくアベノミクス/「異次元緩和」の11年間とは一体何だったのか?

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

アベノミクスと異次元緩和 11年後の余りに無惨な現実

結局のところ、アベノミクスは、この11年間の政府・日銀の経済・財政・金融政策によって何が達成されたのかされなかったのかをキッチリと総括して国民に分かり易く説明し、この国の将来に確信を与えた上で、表玄関から堂々と「出口戦略」に従って退場していくべきであったが、そうはならなかった。

まるで、目立たないよう裏口からコッソリ抜け出て闇に紛れて消えて行こうとするかのような、3月19日の日銀金融政策決定会合での「マイナス金利解除」だった。

およそどこの国の政権でも、まず第一に達成すべきは、国民が少しでも暮らしが楽になった、豊かになったという実感が持てるようにすることである。

その最も単純明快な基準に照らすと、3月22日に内閣府が発表した「社会意識に関する世論調査」で「今の社会で満足できない点は?」との問いに対し、飛び抜けて多い答えが「経済的なゆとりと見通しが持てない」の63.2%で、この設問を始めた2008年以来最高だったというのは残念極まりない結果である。それに次ぐのは「子育てしにくい」28.6%、「若者が社会での自立を目指しにくい」28.2%、「女性が活躍しにくい」26.2%。

また同じ調査で「現在の日本の状況で悪い方向に向かっていると思う分野は?」の問いには、1位「物価」68.4%、以下「国の財政」58.4%、「景気」58.1%だった。

それだけではない。西野智彦が『ドキュメント異次元緩和』( https://www.iwanami.co.jp/book/b636775.html 岩波新書、23年12月刊)で書いているように、アベノミクスの11年を通じて、

▼日本経済の潜在成長率は0.8%から0.3%に低下、
▼1人当たりGDPはG7で最下位に沈み、
▼名目GDPもドイツに抜かれて4位になり、
▼1人当たり労働生産性はOECD加盟国38カ国のうち29位と低迷し、
▼平均年収では韓国にも追い抜かれ、
▼円安と資源高、そして産業空洞化で貿易赤字が常態化

した。

……これが、安倍さん、貴方が残した日本の惨状なのですよ。

「賃金と物価の好循環」という嘘

「経済的なゆとり」の感覚が持てず、物価上昇と景気悪化に悩み、国の財政破綻をも不安視する人が6割から7割近くを占めるというのに、どうして政府・日銀はアベノミクス長年の目標「賃金と物価の好循環が実現する見通しが立った」(植田和男総裁)などと嘯(うそぶ)くのだろうか。

直接には、15日に連合労組が発表した今春闘の賃上げ率が5.28%で、33年ぶりの高水準だったことに意を強くしたためと解説されているが、連合が組織するのは全労働者の16.5%、999万人に過ぎず、しかもその3分の2は従業員1000人以上の大企業に職を得ている正社員で、ほぼ富裕層かそれに近い恵まれた人たちである。

植田は、中小企業の実情も調べ、賃上げがそこにも及んでいることを確認したかのことを会見で語っているが、企業数の99.7%、従業員数の67.7%を占める中小企業が政策の中心に据えられた試しはない。

それどころか、3月初に明るみに出た日産の一件が示すように、大企業は下請け中小企業に違法な受注代金の減額を強要して不当な利益を得、その一部を大企業従業員の賃上げの原資にしている有様である。ちなみに、日産は今春闘では組合が求めた月1万8000円のベアを満額回答している。

他方、物価上昇は、一昨年の消費者物価指数2.3%、昨年のそれは3.1%となったが、これはアベノミクスの成果ではなく、戦争とも絡んだ原油高と円安の影響によるもので、しかも、人々の実感が示すように、鶏卵28.7%、外食ハンバーガー14.6%、宿泊料17.3%など身近なものほどビックリするような上昇ぶりで、それに賃金が追いついているとは到底言えない。「好循環」とはどこの話かということになっている。

最初からボタンを掛け違えていた

さて、アベノミクスが最初からボタンを掛け違えた頓珍漢な政策構想であることについては、本誌は、安倍晋三がそれを言い始めた2012年秋の総選挙の時から指摘し続けているので、繰り返しを避けたいが、アベノミクスはそもそも、

  1. 日本は長期デフレに陥っている、
  2. デフレは「貨幣的現象」すなわちモノに対してカネが不足しているのであるから、日銀にカネをじゃんじゃん刷ってばら撒かせる。
  3. すると、クルーグマンが言うように人々は近い将来のインフレを予想して、今のうちに家や車を買うなど消費に走るので、たちまちデフレから脱出できる。

ーーという、浜田宏一や岩田規久男らリフレ派エコノミストの珍理論に立脚していて、その意味で始まる前から失敗が約束されていた。

彼らが「デフレ」と認識していた経済の停滞は、その3年前の2010年に藻谷浩介が『デフレの正体』(角川書店)ですでに解き明かしていたように、日本が他のどの国よりも急激に人口減少社会=需要減退経済に突入しつつあるという構造的な変化に全ての制度も政策も対応できていないことによるものである。

それを、統計数字だけ眺めて机上の空論を弄んでいる三流学者らがデフレと誤認し、しかも「お札をじゃんじゃん刷ればいい」という粗暴極まりない出鱈目な処方箋を出し、それを経済に疎い安倍が鵜呑みにして政権の目玉に仕立ててしまった。

当然、いくらやっても「2%の物価上昇」という目標は達成されず、それで困った日銀官僚が編み出した小手先の絆創膏的な弥縫策が、

▼「オーバーシュート型コミットメント」、
▼民間銀行が日銀に預ける当座預金の一部への「マイナス金利」導入、
▼「イールドカーブコントロール」、

……とかいったことだった。

こういうカタカナ言葉を専門家が振り回し、マスコミがその手先となって分かったような解説で目眩しを振り撒くと、一般国民はますます何がなんだか分からなくなり、その朦朧状態の中で「2%達成」はさらにどこまでも先送りされ続けて来たのだった。

最後のイチジクの葉がパラリと

だから、この3月19日になって「マイナス金利」が解除されたと言われても何のことか、ほとんどの人は気にもせず、気にしたとしてもどういう意味かが分からなかったのだと思われる。

まあ、俗っぽい言い方をさせて頂くならば、「マイナス金利」とは、アベノミクスという裸の王様の醜悪な局部に絆創膏で貼り付けられていた最後のイチジクの葉で、それがとうとうハラリと落下したということである。

マスコミはこの前代未聞の薄汚い醜聞を、そうとは報じない。

なぜなら、朝日は原真人編集委員という正気の人がいて早くからアベノミクスを根本的に批判してきたのでまだマシだが(原の最新論評は、21日付同紙「異次元緩和/11年目の転換」連載第1回を参照のこと)、他紙はほとんど腰砕けのヘロヘロ解説だし、日経に至っては終始、安倍・黒田の狂った路線への同伴者・支援者として振舞ってきたので、経済紙にもかかわらず、まともな総括記事を出せないでいる。

こんなふうにして、日本を駄目にしたアベノミクスという10年がかりの馬鹿話は、できるだけ人目につかないように葬り去られようとしているのである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年3月25日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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