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花粉症の原因は「抗生物質の濫用」か?東大名誉教授が突き止めた国民病の“真犯人”

多くの日本人にとって、「春」を憂鬱な季節にしているスギやヒノキによる花粉症。しかしその「真犯人」はそれらの花粉ではないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野さんが、腸内フローラ研究の第一人者である東大名誉教授・小柳津広志氏の著書等を引きつつ、花粉症の原因について考察。さらにその症状改善に「ゴボウ」が効くとする小柳津氏の説を紹介しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「花粉症」は花粉が原因ではない?抗生物質の乱用による免疫機能の破壊を修復するにはゴボウを食べればいいという真説

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「花粉症」は花粉が原因ではない?

スギやヒノキによる花粉症は今がピークで、テレビの朝番組などでも盛んに、マスクやゴーグルの着け方や、帰宅した時の衣服の払い方まで、微に入り細に入りノウハウが語られているが、これでは(症状悪化を多少とも防げるかもしれないが)このしつこい病を治すことは出来ない。なぜなら、スギなどの花粉は「原因」ではなく、抗生物質の濫用による免疫機能の破壊のために続々と発生した新しいアレルギー症状の1つで、それがその人の場合はたまたま花粉ごときに反応する形で発現した「結果」に他ならないからである。

ではどうしたらいいのか?「ゴボウをたくさん食べればいい」というのが、小柳津広志『花粉症は1日で治る!』(自由国民社、20年刊)が提唱している、まことに単純明快な真説である。

一種の「薬害」としての抗生物質濫用

小柳津(おやいづ)は書いている。

▼抗生物質が花粉症の原因かどうか断定できないが、明らかに花粉症の患者は抗生物質の普及で急激に増えた。

▼「花粉症はアレルギー体質の人がなる」と言う人がたくさんいるが、これは間違い。なぜなら、すべてのアレルギーは1950年代に抗生物質が使われるようになる前は、ほとんどなかったから、「体質」のせいではない。

▼1950年以降に生まれた、ほぼすべての人は抗生物質を処方されており、その年代の4,000万とも6,000万とも言われる人々が花粉症患者となって1,000億円を超える市場を生み出している。逆に、80歳を超えた(本書が出てから4年が過ぎているので、今だと80歳代半ば以上か)人に花粉症患者はいない。

▼アレルギーは、抗生物質が腸内フローラを撹乱したことで起こる。マウスを用いた実験では、抗生物質2剤を与えると、腸内フローラのおよそ80%が消失する。強烈な腸内フローラの破壊で、これが体内に炎症を起こし、花粉症だけでなくあらゆるアレルギーや病気の原因となる。

▼腸内フローラを修復し花粉症を始め様々な病気を直すにはフラクトオリゴ糖という特にゴボウに多く含まれている食物繊維をたくさん摂って酪酸菌を増やすことだ……。

小柳津は東京大学で微生物系統分類、腸内細菌学を研究したいわゆる「腸内フローラ」研究の第一人者。16年に名誉教授に退いた後、高齢者向けの減塩カフェ『カフェ500』を横須賀市長沢に開設する一方、フラクトオリゴ糖を主成分とした水溶性ドリンク剤『長沢オリゴ』を開発・販売し、花粉症はじめ喘息、皮膚炎などのアレルギーに悩む人たちを助ける活動をしている。

長沢オリゴ

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「花粉症」のネーミングが間違いの元

《直感的違和感》

私も、「花粉症」という症状が知られるようになった当初からその言葉自体に違和感を抱いていた。最初は「そりゃ違うだろう」という《直感的違和感》。理由は簡単。杉と言えば日本の風土に最も適合した林業の根幹であり、日本の木造建築を支えてきた優秀な基礎材である。秋田杉をはじめ天龍杉、吉野杉などの1,000年ブランドの産地だけでなく、全国各地にいくらでも生育していて、その花粉が人に害を及ぼすなどという話はかつて聞いたことがなかった。別の近代的な要因で人の免疫機能が衰弱したために杉花粉ごときに情けない反応を示すようになった、原因と結果の取り違えによる杉への冤罪だと直感したからである。

《環境複合汚染への想像力》

次に、英国の科学ジャーナリスト=アランナ・コリン『あなたの体は9割が細菌/微生物の生態系が崩れはじめた』(河出書房新社、2016年刊、後に河出文庫化)などを読み「広く大気汚染やケミカル物質危害が折り重なった《環境複合汚染による免疫機能不全》という見方に同感した。コリンは、色々な汚染の複合の根底に横たわるのは「抗生物質の使用」であり、それこそが様々な「アレルギーの原因」と断言している。

とすると、大都市の大気汚染やハウスダストや食品に含まれるケミカルなど問題を構成する色々な要素が単に横並びになっているのではなく、どのような《立体的な論理的=歴史的実体構造》を成しているかに分析の関心が向く。

植物生理学者の小塩海平『花粉症と人類』(岩波新書、21年刊)も読んだが、花粉症は「単なる健康問題ではなく、現代人のわがままな振る舞いによって環境生態系との間にねじれが生じ、そのきしみやゆがみが私たちの身体反応に変化をもたらした結果」と述べている。彼は、同署のタイトル通り「花粉=主犯」説に立つのだけれども、「花粉症は免疫アレルギー疾患として位置付けられるようになり、花粉だけでなく、埃やペット、卵や魚貝類、金属やシリコンなどに対して過敏な反応を示す人が増え、問題は人間の側にあるのではないかという疑問が湧いてくるようになった」と視野を広げようとしている(のにそこに踏み込まなかったのは惜しいと、閑中忙話の21年4月24日付で書いたこともあった)。

《抗生物質濫用こそ原因という本質論》

こうして私は次第に《抗生物質=根本原因説》に引き寄せられていき、ようやく小柳津の具体的な解決提案とその実践活動に出会って感動することになるのである。

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抗生物質の危険が急激に広がった理由

さて、言うまでもなく抗生物質の始まりは、スコットランドの細菌学者=アレグザンダー・フレミングが青カビ由来の物質が体内のある種の真正細菌の増殖を抑制し、やがて死滅させる効果を偶然発見したことにある。ハワード・フローリーとエルンス・チェインが1942年に製法を開発し、45年に工業生産に成功、第2次大戦で多くの負傷兵や戦争被害者を感染症から救った。また同じ頃、ウクライナ出身の米国人学者=セルマン・ワックスマンが結核に効く土壌微生物期限のストレプトマイシンを発見し、両々相俟って「抗生物質の時代」が幕を開けるのである。抗生物質(Antibiotic)という言葉自体、ワックスマンの造語と言われている。

ここに名前が出た人たちが相次いでノーベル医学賞を受賞したこともあって、抗生物質を「万能薬」であるかに崇める風潮さえ生まれ、米欧日で新たな抗生物質の発見・開発・普及の大競争が現出。日本でも1950年代からブームが始まった。が、そこには大きな落とし穴があって、たちまちのうちに抗生物質の大濫用時代に突入していくことになる。

もちろん、抗生物質そのものは「良薬」である。1950年代までは、結核をはじめ肺炎・気管支炎、チフス・コレラなどの胃腸炎、腎炎・ネフローゼなど細菌感染症は「死に至る病」で、それで亡くなる特に子どもたちが後を絶たなかったが、その後の10年間で急ブレーキをかけたように死亡率が低下した。そのため抗生物質神話はますます膨らみ、多くの医師が「風邪」というだけで特に子どもたちに最新で最強の抗生物質を投与し、また親の側でも熱や咳の症状は抗生物質を飲まないと治らず、重症化を防げないと信じ込んで医師に投薬を懇願するようになった。

実際、2008年に群馬県桐生市で開業した或る小児科専門医が驚いたことは、多くの小児科が専門でない医師が最新・最強の抗生物質を多用していることだったと述懐している。「ウイルス感染による風邪には抗生物質は無効であることを医師さえ知らず、多くの子どもたちが不要であるばかりか、副作用の危険も大きい抗生物質を内服させられている」と。

食物からも大量の抗生物質が体内に

加えて、抗生物質の家畜・家禽、養殖魚、果実・野菜の病気治療用としてだけでなく、それを低濃度で長期に与えることで飼料効率を向上させる成長促進剤としての利用も広がってきた。しかも皮肉なことに、家畜・家禽を狭い檻の中に身動きできないほど押し込めて糞の掃除もロクにしないような劣悪環境で飼育しても、抗生物質を与えていれば育ちがよく、そのため畜舎や鶏舎の清潔度を保つための手間が省けるというのである。

このような食品を摂ると口の中や喉が痒くなり、場合によっては全身の蕁麻疹、咳などの激しい症状に陥る人が出てきて、これも従来は「口腔アレルギー」など当人側の体質のせいにして、その食物を遠ざけるような対処をしているが、何のことはない悪いのは抗生物質入りの食物の側なのである。

長崎大学の山本太郎が試算した2012年の「我が国における用途別抗生物質使用量」によると、合計1,700トンのうち人の医療用に使われたのは520トン(30%)にすぎず、家畜医療用720トン(42%)、家畜・家禽・養殖魚用の飼料添加物用180トン(11%)、果実・野菜の農薬用を含むその他280トン(17%)と、食品生産上で使われて知らないうちに摂らされている量が遥かに多い(山本太郎『抗生物質と人間』、岩波新書、2017年刊)。

抗生物質がなぜ家畜などの成長を促し肥満をもたらすのかのメカニズムはよく分かっていないが、抗生物質が腸内に常在する微生物の活動を抑制しタンパク質が無駄に消費されるのを阻害しているためではないかと考えられている。戦後になって日本でも、子どもたちの背が格段に伸び、同時に戦前にはほとんどいなかった肥満児も目立つようになったが、これは必ずしも栄養状態が良くなって健康で頑強な子が増えたのでなく、家畜と同じく未解明のメカニズムに駆られた不健康な現象かもしれないのである。

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あまりに深刻な濫用の影響

同じ抗生物質を繰り返し多量に摂取すると、体内に「耐性菌」が増え、それが感染を起こした場合に通常の抗生物質では治りにくくなる。実際に最新・最強の抗生物質を飲まされ続けている子どもには耐性菌が非常に多く検出され、そうすると今度は、その耐性菌に効く抗生物質を開発しなけれならず、イタチごっこになって抗生物質の種類が増えていく。同じような光景は、コロナ禍を通じてワクチンのレベルで我々は目撃した。あのようなことが200種類以上も用いられている抗生物質のそれぞれで進行する。その結果、複数の薬剤に耐性を持つ多剤耐性菌や、ありとあらゆる薬剤に耐性を持つ悪魔的な万能耐性菌まで出現してしまった。

さらに、小柳津博士が重視するのは「自己免疫疾患」である。博士自身が「よく分からない(部分もある)が」と断りながら書いているものを、私ごときが上手く要約・紹介するのは難しいので、同書を読んで頂きたいのだが、敢えて一知半解で言えば……、

▼すべての病気は炎症を起こすが、その炎症を起こすアレルギーには4つの類型がある。

▼I型アレルギーは、即時型で、例えば花粉などの物質が粘膜の細胞に付くとすぐにヒスタミンを放出し、それがくしゃみ、鼻水、目の痒みを生じさせる。気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック反応など、比較的軽症ではあるが圧倒的に患者が多いポピュラーなものがこれに属する。

▼II型とIII型のアレルギーは、外から侵入した物質や自分の細胞の成分である「抗原」に対する「抗体」が出来て、それが暴走して「抗原」を攻撃したり包囲沈着したりして、自分で自分の臓器を痛めつけようとする重篤な「自己免疫疾患」を引き起こす。

▼II型には、橋本病(慢性甲状腺症)、重症筋無力症、血小板減少性紫斑症などの難病がある。

▼III型は、多くの「自己免疫疾患」が属するもので、(1)関節リュウマチ、(2)全身性エリテマトーデス、(3)シェーグレン症候群などの集合体である「膠原病」のほか、糸球体腎炎、全身性硬化症、間質性肺炎など。膠原病は原因不明だが、何らかの免疫失調により免疫細胞が全身至る所の膠原(コラーゲン)――(1)では関節を、(2)では関節、皮膚、腎臓、肺、中枢神経などを、(3)では唾液腺と涙腺を、それぞれ攻撃して炎症を引き起こす〔IV型は省略〕。

▼これら以外に、原因不明ではあるが腸の免疫失調が関係していると思われる「その他」として、クローン病、潰瘍性大腸炎、パーキンソン病、アルツハイマー病などがある……。

ひっくり返して言うと、昔は聞いたこともなくて戦後俄かに出現した数々の現代病≒難病の多くは、実は抗生物質の濫用が原因で腸内の免疫システムが破壊されてしまったために起きているのではないか?ということである。

「酪酸菌」にオリゴ糖の餌を与える

そこで小柳津が着目するのは「酪酸菌」である。炭水化物のうちの多糖類であるセルロースなど食物繊維は大腸で発酵・分解され、短鎖脂肪酸などとして吸収される。短鎖脂肪酸は(1)酢酸6、(2)酪酸2、(3)プロヒロン酸2の割合で吸収され、このうち酪酸菌が(「よく分からない」のだが)免疫ステムの司令塔であるTリンパ球=Tレグ細胞を増やし、それがあらゆる病気の元である炎症を抑制する。

酪酸菌を増やすのに最適な餌が「フラクトオリゴ糖」であることは博士の実験で経験的に分かっていて、それを多く含むのは「根菜類、野草、木の実、小動物、魚介類」など、農業が始まる以前の、端的に言えば“縄文食”である。それを博士は「ゴボウを1日1本食べなさい」と分かりやすく説くのである。それだけで「花粉症は早ければ5~6時間で治る」?私は花粉症ではないが、全ての免疫機能を強化したいので早速試してみようと思っている。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年4月15日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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