7月7日に行われた東京都知事選で「党の顔」蓮舫氏が惨敗した立憲民主党と、同日の都議補選で2勝6敗という「大惨敗」に終わった自民党。主要メディアは両党が負った痛手を盛んに報じていますが、彼ら以外が受けた大ダメージを指摘する声も上がっています。今回、毎日新聞で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さんは、維新の会や国民民主党といった第三極系とも言うべき政党が「役割を終えた」として、そう判断せざるを得ない理由を解説。さらに彼らの役割を奪う形となった石丸伸二氏の国政進出の可能性について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:都知事選と都議補選、第三極の壊滅
プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。
都知事選と都議補選、第三極の壊滅
7日投開票の東京都知事選と東京都議補選は、政権与党の自民党と野党第1党の立憲民主党の双方に、大きな打撃を与える結果となった。
自民党は、支援していた現職の小池百合子知事が順当に3選を果たしたものの、裏金事件の影響で「ステルス支援」に徹したため、勝利と党勢復活が直結していない。都議補選では、都連会長を務める萩生田光一前政調会長の地元・八王子で敗れたのをはじめ2勝6敗に終わり、選挙前から3議席減らしてしまった。
立憲民主党は都知事選で「党の顔」でもあった蓮舫氏が参院議員を辞職して挑戦したが、出馬表明から選挙までの短さもあり、小池氏のみならず前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏も下回る3位に。都議補選では唯一の自民党との直接対決となった足立区で勝利するなど一定の成果を収めたが、トータルでは敗北の印象が強く、躍進ムードにブレーキがかかった。
このように、実際に選挙を戦った2大政党の敗北感は、目に見えるだけによく伝わってくるが、この選挙で本当に「敗北」したのは、実はこの両党ではないと思う。野党第2党の日本維新の会をはじめ、2大政党のどちらにも与しない形で独自の存在感を発揮してきた政党が存在感を失った、というより、その役割を終えた選挙になったのではないか。
東京都知事選は、維新以下第三極系の政党にとって「チャンスを作れる」選挙でもある。選挙区の人口がめちゃくちゃに広く、無党派層の割合も多い。衆院に小選挙区制が採用され、国政で2大政党の動向に関心が向きがちになるなか、都知事選のような注目度の高い選挙で存在感を発揮すれば、党としての「勝ち」は見込めなくても、その後の国政のありように微妙に影響を与えることも可能だからだ。特に今回の都知事選は、この後比較的早い段階で衆院解散・総選挙が噂されているだけに、なおさらだ。
にもかかわらず、こうした政党の存在感は、都知事選でも都議補選でも皆無に近かった。
東京で存在感を示せず衆院選に不安残す結果となった維新
まず野党第2党の日本維新の会だ。小池氏が都知事選への出馬を正式表明した6月12日、維新は都知事選への独自候補断念を決めた。近畿以外に党の足場を十分に築けていない維新にとって、単独で選挙を戦い「惨敗」を印象づけるのは得策ではないと考えたのだろう。
維新は他候補に「乗る」ことで恩を売る選択肢も取れなかった。例えば小池氏。東京選出の参院議員でもある同党の音喜多駿政調会長は、小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」から離党した経緯があり、小池氏に「乗る」ことは極めて想定しにくい。そもそも、自民党の「ステルス支援」の方針がすでに明らかになっていた小池氏を支援すれば、維新は完全に「第2自民党」「自公維」という立ち位置となり、衆院選にも影響を及ぼしかねない。
では「野党統一候補」で戦えるかと言えば、それはもっと難しい。野党側の候補は野党第1党・立憲民主党の「党の顔」だった蓮舫氏だ。「立憲から野党第1党の座を奪う」ことをうたってきた維新にとって、蓮舫氏を「応援する側」に回れば、その大前提が崩れてしまう。
それなら「与党でも野党でもない完全無所属」の石丸伸二・前広島県安芸高田市長を推す形はどうだろう。正直、筆者はこの可能性はあり得るかと感じていた。大阪で議会を敵に回して叩くことでのし上がってきた維新にとって、石丸氏の安芸高田市での振る舞いは、妙に親和性が高く見えるからだ。
しかし、それは実現しなかった。音喜多氏は選挙後の7月8日になって、BSフジの番組で「選挙前に支援をお願いされた」ことを明かした。維新側が支援の条件として「政策協定を結んで推薦を取ってもらう」ことを望み、折り合わなかったという。
実現しなかった事前の交渉を公にされるのは石丸氏側もたまったものではないだろうが、思えばこの政党は、政治資金規正法改正案をめぐる自民党との合意の経緯を、馬場伸幸代表自身が暴露してしまったこともあるし、これがお家芸なのかもしれない。
結果として維新は、都知事選への「静観」を決める。自主投票ではない。「動くな」ということだ。この方針は「都知事選に関与しない」ことへの地方議員の反発を招き、ついには離党者まで出してしまった。
このように地方議員に動揺が走っている状態では、選挙をまっとうに戦うのは難しい。維新は都知事選の「不戦敗」だけでなく、都議補選では擁立した2人の候補がともに敗退した。野党第1党となるために不可欠な全国政党化、特に首都・東京で存在感を示す機会を失い、維新は衆院選に大きな不安を残す結果となった。
維新以上にどこにもなかった国民民主党の存在感
ついでにもう一つの第三極、国民民主党に軽く触れておく。同党は東京都連レベルで小池氏を支持すると決めた。支持団体の連合東京が小池氏の支持を決めていること、4月の衆院東京15区補選で小池氏が推す無所属候補をともに推薦しているので、当然と言えば当然だ。
しかし、都知事選での同党の存在感は、維新以上にどこにもなかった。自民党の支援を得ることに成功した小池氏にとって、もはや同党はさほど重要な存在ではなかったのだろう。都議補選にも候補者はいない。玉木雄一郎代表は選挙戦期間中に、実業家の堀江貴文氏のYouTubeチャンネルで、競馬か何かのように都知事選の得票を予想しまくっていた。
石丸氏に取った変わられた「第三極」としての役割
こうした「第三極」的な存在は、国政の2大政治勢力(現在なら自民党と立憲民主党)に飽き足らない無党派層の支持を吸い上げ、時にはそこから政治の新しい姿を映し出すこともあった。しかし今回、彼らの役割は、広島から突然現れた石丸氏に取って代わられた。
ちなみに、NHKの出口調査によれば、石丸氏に接近したという維新の支持層の票が最も多く流れたのは小池氏で、小池氏を推していた国民民主党の支持層の票が最も多く流れたのは石丸氏だったという。わけが分からない。
「第三極」としての両党は、そろそろ本格的に存在意義を失うのではないか。すでに2度の分裂を経験している国民民主党に続き、維新にも「与党寄り」「野党寄り」の路線の違いや「大阪組」「非大阪組」など、さまざまなミシン目が入り始めている。次の衆院選を乗り切れても、来年の大阪万博を機に、党のありようは大きく変質することになるのではないか。
「2大政党は古い」といい「既存の政党は時代遅れ」という。有権者には一見新しく、気持ちよく見えるかもしれない。しかし、このやり口はもう、平成に入った頃から30年、掃いて捨てるほど続いてきた。
「新しさ」だけを主張し、自分の立ち位置を明らかにすることなく与党と野党の立場を都合良く使い分けて政界を遊泳するような政党や政治家は、これまでもこの世界で長続きはしなかったし、両党もその流れの中にいる、ということなのだろう。
石丸氏により「第三極の世代交代」はなされるのか
さて、これで石丸氏がこの勢いのまま国政進出に向けて新党でも結成すれば、それは「第三極の世代交代」ということになるのだろう。だが、現時点でその可能性は小さそうだ。
石丸氏は都知事選の敗北直後、衆院広島1区からの出馬に関心を示して聞く者をあ然とさせたが、どこかの大政党に所属して「候補者の1人」におさまることを望むようには見えない。おそらく石丸氏は、政党組織を作って育てる発想を持っていない、究極の「自分ファースト」の政治家だ。1人でトップになれる首長選を好むか、さもなければ既存の国政政党に、党首として迎えられるよう売り込むか、そういうタイプなのではないだろうか。
少なくとも、おそらく次の都知事選に石丸氏はいないだろう。その時には第二、第三の石丸氏のような存在が、第三極的ポジションに彗星の如く現れ、一過性のブームを起こして去って行くのだろうか。筆者はもう、そんな「古いやり口」に飽きているのだが。
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