守ってもらえなかった「勇気を出して声をあげた通報者」
奇しくも今年2月、「組織の不正をストップ!従業員と企業を守る『内部通報制度』を活用しよう」という見出しの記事が、政府広報オンラインに掲載されました。
● 組織の不正をストップ!従業員と企業を守る「内部通報制度」を活用しよう
記事で一貫して主張していたのは「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫!あなたが不利な扱いを受けないように、ちゃんと国が決めてあるから安心して通報してね!」という、従業員や職員たちへの呼びかけでした。
しかし、「勇気を出して声をあげた通報者」は守ってもらえなかった。法律がある=守られる というわけじゃなかった。そもそも日本の内部通報制度には「通報した人を守る視点」、つまり告発者視点が著しく欠けているのに「法律があるから大丈夫!」という呼びかけは、いささか乱暴に思います。
内部通報した社員を守るために2006年に施行された「公益通報者保護法」の第3~5条には、内部告発を理由とした解雇、派遣労働契約の解除、その他の減給、降格といった不利な扱いを禁止すると書かれていますが、肝心要の罰則規定が明記されていません。
どんなに国が「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫!」と豪語したところで、「法の抜け穴」をかいくぐるのは可能です。「内部通報者に冷淡な国」と言っても過言ではないほど“その穴”は大きいのです。
例えば「匿名でもオッケー。いつでも通報してね」という制度が、組織にあっても密かに“犯人探し”をすることは可能ですし、実際には「ちゃんと調査してほしけりゃ、実名で通報してね」と、“圧”をかける組織は決して少なくありません。
「それでも言うしかない!これはおかしい!」と、心ある社員が勇気を出して実名で通報したところで、「当該行為は確認できなかった」などと否定し、通報者が自主的に辞めるような陰湿な手法を取ったりもします。
しかも、今回の兵庫県側の対応は「公益通報者保護法」を幹部が理解していなかったのではないか?と思えるようなものばかりです。
その結果、大切な命が奪われるのです。今回に限ったことではありません。これまでもあったし、今、この瞬間、勇気を出した人が苦しんでるかもしれないのです。
かたや世界に目を向けると、「内部通報者の保護を実質的なものにするための制度」が徹底されています。さまざまな角度から「内部通報者」が守られる仕組みが重層的に構築されている。
法律とは、弱い立場のものを守るためにある、と私は信じているのですが、残念ながら日本の法律は「大きいもの」「強きもの」の視点で作られているように
思えてなりません。「禁止」「罰金」などが法律に明記されるのを嫌う傾向があるのはいったいなぜ、なのでしょうか。
みなさまのご意見、お聞かせください。
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image by : X(@兵庫県知事 さいとう元彦)
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