日本が対応を誤れば「北海道有事」が現実に
一つの仮説として、ロシアがウクライナで見せた暗黒面を前提として、ロシアは北朝鮮への影響力を通じて極東へ触手を伸ばしていると位置づけ、これと中国を敵対させるという軍略は成り立つかという問題があります。仮にそうなれば、台湾海峡や南西諸島は現状維持で安定するかもしれません。韓国との関係も安定するでしょう。
ですが、日米韓と台湾、中国が一つのグループとなり、北朝鮮とロシアというグループとの対抗をするというシナリオは、大きな問題があります。3つ指摘が可能です。1つは38度線に不測の事態が起きる可能性が増大するという問題です。2つ目は、北海道有事の可能性が高まることです。中国軍が友軍として北海道に入って抑止力になるなどというのも興味深いシナリオですが、その場合は樺太と沿海州を中国は狙うでしょうし、あまり良いことはなさそうです。
3つ目は、仮に中国を取り込んでも、あまりロシアを孤立に追いやると、現体制にしても、恐らくはより小粒となるその後継者も、西で妙な動きをするかもしれません。コーカサスやバルト海で実際に動きを見せることになると、これはやはり世界経済への影響が大きくなります。
ですから、この種の大胆な組み換えをしても決して全体は安定しないと思います。そう考えると、今から考えると、安倍政権の外交というのは、再評価されてもいいと思います。小泉純一郎が事実上拒否した中国との首脳外交を再開し、結果的には何も得るものはなかったにしてもロシアとの首脳外交で、少なくともロシアが北海道に圧力をかけるような雰囲気は許さなかった、これは重たい事実です。
つまり、中国ともロシアとも、最低限の首脳の信頼関係があり、それが抑止力とのミックス効果を生じて極東の「安全を保証」していたわけです。その再現は容易ではありません。何よりも、プーチンがウクライナで一線を越え、中国がこれに同伴し、今は和平仲介に動いている中では、この両国に対して、安易な宥和の態度を出すわけには行きません。
そうなのですが、岸田外交というのが余りにも単純化を志向しており、もう少しだけ元に戻すという微調整は必要と思います。現状を守り切る中で、中国とロシアとの間で、個人的な信頼関係や危機回避のホットラインを構築するというのは、非常に大切です。
日本の財政問題を「規律かリフレか」で捉えるのは間違っている
次に財政に関してですが、確かにリフレか財政規律かということでは、ほとんど政争と言っていいような対立があるようです。
そこで問題なのは、まず財政規律派の主張の核心がどこにあるのかという問題です。戦前の浜口雄幸と井上準之助に原点があるとも言えますが、財務省なり、そのサポーターである政治家にあるのは「存続への危機感」だと思います。
通貨を守る、財政を健全化する、この2つは確かに国家の存続には必要だという直感には自然なものがあり、これを否定するのは簡単ではありません。ですから、財務当局としては、どうしても魂の奥の部分にこうした発想を持つのだと思います。
現在もそうです。日本の国家債務というのは、GDP比でも金額ベースでも世界でも最悪の部類に属します。また、その債務の原因が少子高齢化であることも明らかです。そんな中で、財務当局が思い描くのは国家破綻への危機感なのだと思います。ですが、問題はそう簡単ではありません。簡単に箇条書きにして論点を整理することにしましょう。