石破内閣が正式に発足した。最短日程での衆院解散・総選挙には批判も多いが、スケジュールが動くことはないだろう。そこで確認しておきたいのが、自民党が政権を維持したとしても、政権交代が起こったとしても、わが国を取りまく国際情勢や経済状況を踏まえると、今後、日本が取り得る政策選択の幅は極めて狭いという点だ。米国在住作家の冷泉彰彦氏が、安全保障と財政問題の二軸から詳しく解説する。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:財政、安保、日本の選択
石破新政権発足の節目に、日本の安全保障と財政問題を考える
自民党の総裁選で石破茂氏が当選しました。
多くの見方として、小泉氏ではイヤなので決戦前に「小泉潰し」があり、決選投票では高市氏では危険なので「高市潰し」があった、結局は消去法の決定だという声があります。確かにそういった要素はあるのだと思います。
一方で個人的なイメージの問題として、石破氏の最後のスピーチが良かったとか、高市氏は謝辞ばかりで時間切れとなり評価を落としたといった論評もあります。
ですが、今回の総裁選の特徴ということでは、ただ一つの目的に向かって選挙が行われたと考えることができます。それは、
「直後の衆院選における旗印として有効(と思われる)人物を選ぶ」
だと思われます。ということは、要するに今回の選択というのは、直後の衆院選における民意を想定して「自民党としてできるだけ負けない」という判断で投票がされたわけです。となれば、やはりそこには政策の選択というものはあったのだと考えられます。
いずれにしても、石破総裁は最短日程での解散総選挙を宣言しており、10月27日投開票という本当に最短でのスケジュールで選挙になるようです。であるならば、今回はとにかく日本の選択肢ということを考えてゆくタイミングであると思います。今回の総裁選を確認しつつ、総選挙における選択を通じて、どのような政策の選択があるのか、特に今回は安保と財政について考えてみたいと思います。
日本の安全保障は「現状維持のためにどう立ち回るか」が最重要に
まず安保ですが、こちらには選択の余地はないように思います。冷静に考えてみれば、東アジアの現状というのは動かしようがないし、少しでも動かすことで大きな破綻が来るような微妙な均衡の上に成り立っています。ということであれば、これを「いかに動かさないか」というのが唯一の選択肢になると考えられます。
では、何もしないのが上策かと言うと、これは全く違います。
まず、朝鮮半島についてですが、38度線の問題については、日本としては南北統一というのは受け入れるのは難しいと考えるべきです。確かに、韓国には民族の統一を悲願とする感情があり、左派においては、それがイデオロギー的な求心力になっているのは事実です。
ですが、仮に何らかの理由で南北韓国が合併したとします。確かに民族生き別れという問題だけでなく、ドイツにできたことが韓民族にできないというのはプライドが許さないという感情は韓国にはあります。ですが、バブル崩壊に苦しんだ90年代には「とても北を吸収合併する余力はない」として、韓国では保守派を中心に「統一は無理」という判断を中心に据えていました。
それはともかく、日本の立場としては正面切って言う話ではないのですが、やはり統一には極めて消極的にならざるを得ないと思います。どうしてかというと、今の韓国は90年代とは比較にならないような経済力と技術力を有していますし、北朝鮮も一時ほどの経済の低迷からは、手段を選ばなかった結果、まあまあの改善を示しているようです。
そうではあるのですが、無理に統一をすると国家は大混乱に陥るのは目に見えています。南の人は北の人を差別するかもしれません。長い分断は語彙ベースでの言語の分断を招きました。さらに、北の出身者は南の資本主義社会に溶け込むのに苦労するでしょうし、そこで社会的なトラブルが頻発するのは避けられません。
その結果として、旧東独からネオナチが登場したように、旧北朝鮮から強烈な民族主義のようなものが登場して、例えばですが金王朝の一族の誰かが大統領になるというような劇画調の近未来が実現するかもしれません。そして、その統一による混乱を避けるためには民族主義を求心力として使うことになります。
そもそも、統一後の混乱という状況では、仮に南出身の職業政治家であっても、どうして「民族主義」というカードを切らざるを得なくなると思います。その場合のターゲットは日本になります。竹島だけでなく、対馬を狙い、壱岐を狙う、さらには関門海峡ゾーンを占領して租界にするとか、実力行使はともかく言葉の上では相当に強烈な毒吐きがされる可能性はあります。
仮にこの問題を日韓の問題として捉えるのであれば、日本がある程度我慢しながら舌戦を続けて向こうが安定するのを待つなどの持久戦もあるかもしれません。ですが、台湾海峡の危機やロシアの蠢動などと連携されてくると、日本も我慢がならなくなって異質の政権が異常な判断を行って自分から崩壊するという危険性も出てきます。
そう考えると、多少は申し訳ない(南北の家族分断、北における人権被害の放置)感じもしますが、南北は今のような形で互いに牽制し合っているのが日本の国益になります。
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