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なぜ、国民民主党は大躍進したのか?玉木党首「演説」に隠された裏ワザをスピーチのプロが解説

衆議院選挙で大躍進し、今後の政権運営のカギを握るとされる国民民主党。実は、党首である玉木雄一郎氏の演説にスピーチのプロフェショナルである森さんは絶賛の声を送り、今回のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』では、玉木氏の演説のどこがすごいのかを解説しています。

「手取りを増やす」国民民主・玉木氏のプレゼン力

今回の衆議院戦で大躍進した国民民主党。

党首の玉木雄一郎氏YoutubeやXなどのSNSを巧みに活用し1日で24ヶ所!? 街頭で演説をする日もあったようです。

選挙戦最終日、ラストの演説は東京駅。溢れるほどの人が集まり皆がスマホのライトを振ってまるでコンサート会場のような盛り上がりでした。

選挙後、維新の党首、馬場氏は「玉木さんのプレゼン力がすごい」番組でコメントしていました。

確かに今回の国民民主党の訴求力は政界でなくとも目を見張るものがありました。

今回のメルマガ号外は国民民主党、玉木氏のプレゼンにスポットを当てます。

(注)当記事は実際に政党が示した政策内容に対してではなく、あくまでも人前で何かを訴求するスピーチやプレゼンの観点で書くものです。また特定の政党を支持するものではありません。ビジネスの世界でのスピーチやプレゼン力を考える上での参考事例として今回の選挙戦を取り上げております。

圧倒的プレゼン力の理由

スピーチやプレゼンでは

「誰が、何を、どう話すか」

これらの要素が大きく関係し合います。

今回の玉木氏はこれらの要素を最も備えたスピーカーと言えそうです。

というのも、奇しくも自民・石破総裁が「納得と共感」の政治を、と言っていたこれらを今回最も体現化していたのは他ならぬ国民玉木氏であったように感じられるからです。

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内容構成はフレキシブルに

この選挙戦はいわゆる裏金問題から始まりました。

国民民主も他党同様、序盤の選挙戦ではこれが主な主張でした。

しかし選挙戦が進むにつれ、国民が最終的に求めているのは批判ではなくいかに国民生活を良くするかという「政策」であると玉木氏は気づいたと言います。

そこで主な訴求内容を「自民批判」から「政策」へとシフトし、話す内容の順番を変更していったのです。

聞き手が何を求めているのか? ニーズ、さらにはシーズを敏感に突き止めそれに応えて発信する。

この点がまず、今回の国民民主の選挙における「プレゼン戦略」が当たった理由の1つでしょう。

自分ごとにできるキャッチブレーズ

2つ目の成功の理由はなんといっても「手取りを増やす」シンプルでわかりやすい言葉キャッチフレーズにしたこと。

訴求点を1つにしたワンイシューにしたことも勝利の要因ですが、さらに言葉選びにおいて3つの秘密が隠されています。

1)給料や収入を増やす、ではなく「手取り」

手取りという飾り気のない言葉をそのままストレートに表現したことでリアルな生活を表現でき聞き手への訴求力を高めています。

2)「手取り」の背後にあるもの

手取りと表現することで、背後にある税制、税金、またその仕組みを作った組織、ひいては今の政治に対するアンチテーゼも感じています。この点も、人々の心に響いた理由でしょう。

3)「増やす」というポジティブな行動

増やしていくというポジティブな矢印は未来の明るさが感じられます。

そして、実行するという党側の意志も感じられます。

一方でいうと自民は「ルールを守る」といったようなキャッチフレーズでしたね。

攻めと守りの点では、まさに「守り」ですから、パワーが内向きな印象も。

尚且つルールを守ることはそもそも社会生活では当たり前のことであって、現時点で国民に何らかのベネフィットとなる表現ではない、という印象がありました。

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アクションプラン:演説での提案概要

キャッチフレーズが絵空事で終わらないよう、具体的なアクションプランを表現した点です。

ここがまさに玉木氏の真骨頂。人々の心にぐさっと刺さった要因だと思われます。

玉木氏の演説における手取りを増やす訴求のロジック、一例を以下に記します。

・この選挙、政治と金だけで私も駄目だと思っている

・自民党が駄目なら、野党はどういう政策で自分たちの暮らしを良くしてくれるんだ?  我々国民民主党には大きな柱の一つ「手取りを増やす」経済政策がある

・現状、103万円の壁があり、働きたくても働けない、稼ぎたくてもできない、という現実が起きている。

・この給与所得控除の上限を引き上げれば、より収入を増やせる。

・民間の努力で賃金上がっている今。しかし国が税と保険料で取り上げてるから、実際手取りは増えていない。

・しかし国の懐はめちゃくちゃ豊かになっている。今年の8月の税収は去年の8月に比べて25.8%増。

・(聴衆に向かって)1年間で所得や賃金、年金が2割5分以上増えた人いますか?(ほとんどいない、という聴衆の反応)。国は税収を取り過ぎている。それらの税収は誰のものか?国のものでもない、政治家のものでもない、国民のものである。

・取り過ぎた税収を国民の皆さんのお手元に残す。つまり、手取りが増える。すると消費が拡大して、企業業績も上がり、利益も上がってまた賃上げができる

・政府はこの好循環を自から壊している。だから国民民主はこれを提案する。

・外国は、賃上げやインフレのときに、このような所得税の調整をしている。やってないのは日本だけ。また、このような提案は自民党公明党も、野党の立憲民主党も、どこも言ってない。言ってるのは国民民主だけ。

・皆さんの手取りを増やすためにも、この政策をやらせていただきたい。

なぜこの訴求が有効なのか、皆さんにとって価値があるのか。整然と論理的に話を進めていますよね。

元財務官僚だからこそ、の論理ではありますが、それをわかりやす~く言語化している点が、すごいと思います。

具体例で共感を引き出す

玉木氏は次に具体的に手取りを増やせないで困っているアルバイトをする大学生の言葉や、お店の店長さんの言葉を盛り込むなど、103万の壁で実際に困っている人の具体例を挙げて訴えました。

一般にスピーチやプレゼンでは、具体例を聞くと、話の内容にイメージが湧きます。そこから話が自分ごとになり、共感が湧きます。

ここまでスピーチを聞いてくると、この話は党の単なる訴えではなく国民である自分たちにとって必要なものであると自然と納得できていきますよね。

選挙後半戦では103万円の壁を変えることは、パートアルバイトの皆さんだけではなく、国民全員のためになる、として、訴求力を分厚くしていました。

巧み・・・・

そもそも政策を立てる時点で考慮してあったのだと思いますが・・・

きっちり言語化してある点が、見逃せません。

さてさてこうして冒頭でしっかりと聞き手の共感をひきだしたのち、いよいよ、選挙らしいスピーチ。

党から皆さんへのお願いに入ります。

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選挙のお願い

・そのために今回、何とかで議席を増やしたい。

・今、7議席。21議席になると我が党単独で、今私が言ったような103万を178万円にするような、所得税法の改正法改正の提案ができる。

・法律を単独で規定する権限ができれば、今私が申し上げた政策は夢物語ではなくて、政策実現の可能性がぐんと上がる。皆さんの手取りがぐっと増える。我々のために議席を増やしたいって言ってない。皆さんの手取りを増やしたいために議席を増やしたい。

私たちを勝たせてください、お願いします

と、よくある選挙のお願いをするのではないんですね、ここが。

自分たちのため、で終わっていないんです。

皆さんがより良い生活をするために、私たちは議席を増やしたい、と訴求している。

つまりこの選挙は、あなたの人生に大切なことなんです、と努めて訴えようとしており、それがすんなりと行われる話の流れなのです。

うむ~。唸りますね、この言語化力。

お願いの階段をひとつひとつ、共感を得ながら、上がっていくように、お願いを受け入れてもらえるように話を進めています。

巧み!

あ、これはずるい、という意味ではなくて、賢明である、という意味で、巧みです。

おそらく、心底から生まれてきた言葉なんだと思いますけれど。

そしてスピーチは最後の止めへ。

具体的な選挙行動を促す際の、大事な大事な部分。

というのも、国民民主にはここに弱みがあるから、ここで抜かるわけにはいかないのです。

小さな政党ゆえ、候補者がいない地域が圧倒的に多い。

そこで、玉木氏は、比例区での投票を促し、その際の記載文言も明確に示し、
さらにさらに応援拡散のお願いも、しっかりと盛り込んで訴求をしています。

・2枚目の投票用紙(つまり比例)は略さず、国民民主党と書いていただきたいなと思ってます。

・どうか皆さん、今日この話を聞いていただいた皆様、1人でも2人でもいいので、広げてください。LINEでも何でもいいので、広げてください。どうぞ皆さんよろしくお願いします。

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見事なロジック

手取りを増やす訴求に対して共感をしてもらい、政策が必要であることを納得してもらう。

そして投票行動に結びつけるまでの流れ。

大変にクリアでロジカルでした。

私はYoutube配信などで何度となく玉木氏のスピーチを拝聴しましたが、本当にこの点がお見事でした。

こうして客観的に分析して文字にするとちょっと冷徹にも見えますが、実際のスピーチは、全然そうではありませんでした。

というのも、玉木氏、至極自然体で話していたからです。

きちんと訴えながらも自然体で、その「人となり」が感じられるスピーチ。

今回では群を抜いていたように思います。

そして、選挙後の結果は、ご存知の通り。

票を獲得できたのは、政策の強さもさることなるがら、このような玉木氏の人間性がダイレクトに感じられる、
自然体の「伝え方」があったから、というのもとても大きいのではないか、と私は思います。

いわゆる政治家っぽくない雰囲気、どちらかというとビジネスの世界のリーダーのような印象を私は受けました。

それを支えていたのは今日ご覧いただいたようなロジカルな訴求力。

「手取りを増やす」というワンイシュー(ワンテーマ)に絞って伝え切っていこうとされたことが大いなる戦略の成功だったと思います。

ビジネスの世界においてプレゼンをされる際、どうしても通したい、わかってもらいたいということが必要な場合があります。

その際に大切なことは、

・訴える内容が論理的でわかりやすいこと

それに加えて、

・わかりやすい、を超えたレベルの「共感」「納得」をしてもらえること

さらには

・自然体で話せること

であることを、改めて、今回感じました。

皆様の何らかの参考になれば幸いです。

あなたのスピーチが素晴らしいものになることを願っています!

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image by: Shutterstock.com

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清泉女子大学英文学科卒後、大手印刷関連会社で勤務。その後、ジャズボーカリストの夢を叶えるが、挫折。外資製薬会社に転職しマーケティング部でハードな業務に取り組む中、外国人のスピーチやプレゼンに多く触れ、日本人リーダーの発信力向上の必要性を痛感。30年以上に渡る声の経験にマーケティング、イメージコンサルティング、コーチング、リーダーシップ各論を掛け合わせ、2011年「ボイスイメージ®コンサルティング(VIC)」メソッドを開発して独立。業務で聞いたクライアントのスピーチプレゼンの数は1万回以上(延べ数)。顧客の可能性を引き出すスパルタトレーニング、わかりやすい理論と分析、柔軟に対応できるコンサルティングを得意とする。

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【著者】 森裕喜子 【月額】 ¥770/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 22日発行予定

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