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103万の壁は序章。玉木氏と石丸氏は「飲みニケーション政治の壁」を破壊できるか?馴れ合わぬ2人が日本に放つ正論パンチ

政治家同士が会う場所といえば料亭をはじめとする高級酒席。日本の政治は長らく、夜の酒席における「与野党の話し合い」で方向性が決められ、国会での討論は法案通過のためのセレモニーに形骸化していた。そんな馴れ合いの「飲みニケーション政治」を是正するのは、衆院選で躍進した国民民主党の玉木雄一郎代表と、夏の都知事選で旋風を巻き起こした石丸伸二氏なのかもしれない。「年収103万円」だけではない、日本の成長を阻む壁に立ち向かう2人の主張を元全国紙社会部記者の新 恭氏の解説でご紹介する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石丸と玉木の出会いが起こした政界の地殻変動

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国民民主・玉木代表と石丸氏の対談に「高級料亭」は似合わない

衆議院選挙で議席4倍増に躍進した国民民主党の玉木雄一郎代表が、今夏の東京都知事選で旋風を巻き起こした前安芸高田市長、石丸伸二氏と初めて会ったのは、今からわずかひと月前のことだった。

10月8日、場所は動画メディア「ReHacQ」(リハック)の撮影スタジオ。といっても、「ReHacQ」が二人の対談を企画したわけではない。

「風の噂で玉木さんと対談できるやに聞きました」という石丸氏の言葉を引き取って、玉木氏がこう続けた。

「会いたいといろんなところで言ってたんですよ。それをキャッチしてくれた人がいて・・・」

どうやら、こういうことらしい。政治情報サイト「選挙ドットコム」のスタッフが玉木氏の「会いたい」という意向を石丸氏に伝えた。それならと石丸氏はしばしば出演している「ReHacQ」に対談の話を持ち込んだ。玉木氏も「ReHacQ」に出演経験があったので、コトはスムーズに運んだようだ。

ふつう、政治家どうしが会う場所といえば高級酒席と相場が決まっている。昔はもっぱら料亭だったが、今では多彩な選択肢がある。

にもかかわらず、初対面で、しかも事前打ち合わせすらないガチンコ対談を、メディアで公開するかたちで行いたいというのは、いかにも密室政治を嫌う石丸氏らしい。その提案を、すんなり受け入れる玉木氏もなかなか剛の者だ。

もっとも石丸氏、玉木氏には、自身の動画番組を持つ人気ユーチューバーという共通点がある。

辛口の導入から白熱の議論へ

さて、「ReHacQ」の番組における二人の対談は、石丸氏の辛口トークからはじまった。

石丸氏「玉木さんにどんな思惑があって対談したいのか、謎です。現職の党首が興味本位で会いたいということはないはず」

石丸氏の人気を当て込んで接触を図ろうとする政治家はおそらく多いだろう。政治的に利用されることを警戒する石丸氏は、はじめのうち手探りで玉木氏と国民民主党の“本性”を突きとめようとする。

立憲民主党との政策の違いに関する質問に、玉木氏が「現実的な安全保障政策とエネルギー政策。とくにエネルギー政策です」と答え、原発の新増設を総選挙の政策に盛り込んだと述べたあたりで、石丸氏の表情が和らいだ。

「エネルギー政策は日本の課題の中でかなり重要だと思う。現実的にどうしていくかが玉木さんの発言にあったので安心しました」

国民民主党は2022年2月、通常国会が始まったばかりだというのに当初予算案に賛成する意思を表明し、その代わりトリガー条項の凍結解除によるガソリン価格の値下げを政府に迫った。当時の岸田首相も一時は前向きになったが、最終的には突っぱねられた。

「政権批判より政策実現」をモットーに自民党にすり寄ってみても、衆参合わせて17人ていどの小所帯では相手にされない。知名度が低く党勢が思うように伸びない現状も、もどかしい。そこを石丸氏が鋭くついて質問し、玉木氏は率直に答えていく。

「毎日が瀬戸際です。いつ消滅するんだといわれて4年もっている。最近では前原さんが抜けたり・・・。でも、選挙を就職活動にしないこと、対決より解決、対案と政策を出すことをめざし、正しい塊をつくろうとしています」

“正論パンチ”としての「年収103万円の壁」撤廃

選挙で勝ちたいがために政党を乗り換える政治家が目立っている。だが、政党は就職活動のためにあるものではない。政策が勝負だ。・・・やがて警戒心も解けたのか、石丸氏は質問をストップし、一週間後に公示が迫る衆院選での国民民主党の戦い方について提案を出しはじめた。

「正攻法で正論を言い続ける“正論パンチ”が必要ではないか」「弱者の戦い方として、ワンイシューでのぞむのがいいのでは」

自然に話題の中心となったのが、国民民主党の看板政策、いわゆる「年収103万円の壁」撤廃だ。

日本経済を停滞させる「ゾンビ税制」を変えるのに必要なこと

現在、年収103万円以下の勤労者は、その所得に課税されない。課税対象となる所得から、基礎控除48万円、給与所得控除55万円の計103万円を引くと、ゼロあるいはマイナスとなるためだ。

これらの控除を178万円まで拡大し、その金額まで勤務しても税金をかからなくする。控除が拡大された分、全ての人の手取りが増えるので、消費が活発化し、企業業績がアップ、結果として税収増につながるという政策だ。

「バイトやっている学生によく言われるんです。103万円以上になると課税されるので、働きたくても働けない。忙しい年末に人手不足になり店長が困っている」と玉木氏は言う。「103万円の壁」は、この28年間据え置かれたままだ。司会者を含めた3人から「ゾンビ制度」という言葉が飛び出した。

2時間近くにもわたる会談を、ネット動画番組が余すところなく伝え続ける。もちろん編集らしきものは一切ない。これは絶対に既存メディアではできないことだ。長時間、それに付き合う視聴者は大変だが、話している人の考えや人物像を的確につかもうと思えば、これにまさるメディアはない。

新聞は記事のストーリーに合わせて、発言のうち都合のいい部分を使うだけだし、テレビは厳しい時間の制約に従って一部の場面や言葉を切り取るだけだ。これでは不正確な情報を拡散させるだけである。

石丸氏は言った。「玉木さんは質問に対してはぐらかすことがなかった。この点だけでも信じられる政治家かなと思いました」

衆院選の期間中、玉木代表は「103万円の壁」撤廃、ガソリン代負担軽減などで「みんなの手取りを増やす」と、石丸氏の言う“ワンイシュー”に近い選挙戦を繰り広げ、若者を中心に支持を拡大した。

そのなかで、しばしば使われたのが対談中に出た「ゾンビ税制」という言葉だった。「学生やパートさんが、働きたいのに働けない古いゾンビ税制を変えたい」。

衆院選「最大の勝者」国民民主党はこのチャンスを活かせるか

10月26日夕。東京駅丸の内口前広場。都知事選で石丸氏が選挙戦最終日の訴えをしたのと同じ場所に、国民民主党の選挙カーがとまり、広場を聴衆が埋めつくしていた。

そこに玉木代表の姿はなく、なんと石丸氏がマイクを握っていた。

「東京都民!石丸伸二です。完全無所属、不偏不党。飲み会に行こうとして東京駅通ったらなんか人だかりができている。選挙カーが止まってて、あれっ?デジャブ。ついこの前、ここでやったな。もしかしてパクられてます?・・・皆さんに作戦を伝えます。多くの方は電車やバスで帰られる。その際、大きめの声で明日選挙だねと、30分から1時間、話し続けてください。その声が多くの勝者を生みます。皆さんの力でこの国を動かして見せてください!」

東京都知事選と全く同じ調子で聴衆に呼びかける。国民民主党の応援ではない。偶然通りかかったら、スタッフから声をかけられて、選挙カーに乗った。石丸氏はむろんそう言うだろう。既成政党に与しないのがポリシーだったはずだから。だが、誰が見ても、国民民主党にエールを送る行動であるには違いない。

このあと、東京駅に着いた玉木氏は石丸氏と入れ替わるように選挙カーに立った。当然、石丸氏が来るとは知らなかった素振りを見せた。

「さっき列車を降りたら石丸さんが話していたので、間違えて来たなと、帰ろうと思ったんですよ。選挙にもっと関心をもってもらいたいと石丸さんが言ってくれてありがたい」

今回の総選挙における最大の勝者は、国民民主党だといわれる。4倍に増えて28人になった衆院の勢力が、国会の意思決定におけるキャスティングボートを握るからだ。

少数与党となった自公政権は、野党と対立する法案を衆院通過させようとする場合、比較的政策の近い国民民主党に協力を求め、与党案に賛成してもらおうとするだろう。だが、国民民主党は政策ごとの与野党連携を打ち出している。つまり、政策が合えば与党、野党にかかわらず協力し合う姿勢だ。連立与党入りは急増しつつある支持者の失望を招くだけだ。

かつて自民党の甘言に乗り、自社さ連立政権入りをした社会党が急速に党勢を失っていったことが思い出される。それよりも、キャスティングボートを握っている国会の状況を生かし、野党のまま自らの独自政策を与党側にのませるほうが、政策実現の可能性が高い

“夜の酒席”と“なれ合い政治”から脱却できるか?

石破政権が頼りにしているのは、総選挙の敗北で内紛状態にある日本維新の会ではなく国民民主党だが、玉木代表は「103万円の壁」撤廃政策が蹴られるなら石破政権に協力しないと明言している。

国民民主党の協力がないと、石破政権は法案や予算案を通すのが難しい。

“基礎控除”を178万円へ拡大する国民民主案に対し、財務省は国、地方で7兆~8兆円の税収減になると主張し反対している。

しかしこれは、政策の実現性が出てきたからだ。玉木代表が主要メディアで引っ張りだこになり、エマニュエル駐日米大使が玉木代表との会談を切望しているのも、国民民主党の政治的な力が高まってきたからにほかならない。

自公が過半数を上まわっていたこれまで、国の政策は、いわゆる“族議員”に対する各省庁の説明と、それに基づく与党の政調会での議論でほぼ決まり、国会での討論はいわば法案を通過させるためのセレモニーにすぎなかった

また国会では、いわゆる“国対政治”が幅を利かせてきた。すなわち、夜の酒席における与野党の話し合いで、国会の議論の方向が決められてきた。

国会対策を担う与党の有力議員が酒食の力を借り、野党議員の顔を立てる形で丸め込んで“なれ合い政治”を続けてきた。人間関係や妥協の産物として政策が決まるのでは、民主主義とはいえない

日本維新の会が今回の総選挙でふるわなかったのは、政策活動費をめぐって「領収書の10年後公開」を主導し、「飲みニケーション政治」を是としてきた姿勢が露わになったからであろう。

玉木・石丸・新生維新。第三極の胎動は始まっている

ただし、国民民主党には、原発の新増設など政策面での疑問点が多々ある。電力総連や電機連合など大企業系の民間労組を支持母体としているがゆえの歪みがないとはいえない。

だが、与野党の数が伯仲した状況下において、与党にも野党側にもつかず、国会での目に見える協議、議論を通じ、政策ごとに一致できる党と協力していくというスタンスは、国会改革につながる試みとして注目に値する。

それだけ、これまでの国会が緊張感のない“なれあい政治”の場であったとも言える。

一方、石丸氏はあるプランを近く発表するという。ポップアーティスト、村上隆氏との動画対談で、「5年で日本を変えてみる」アイデアだと語った。新党の立ち上げにつながるのかどうかはわからないが、政界を激しく揺り動かす可能性がありそうだ。

そんな石丸氏と国民民主党の関係は今後、どうなっていくのか。また石丸氏と政策的に近いと見られた維新は馬場体制に見切りをつけ、本気で真の改革政党をめざしていけるのか。第三極の動きが、この国の政治を大きく変えていくことは間違いない。

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