アメリカの司法省が、Googleのブラウザ「Chrome」事業の売却を含めた是正案を提出しました。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』ではケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川さんが、今の独占状況は米司法省が動かなくとも解消されるのでは?との見方を示しています。
米司法省がグーグルにChrome売却を含めた是正案を提出。分割よりも経営に影響を与えそうな生成AIサービスの進化
2024年11月21日、米司法省はグーグルが提供する検索サービスの独占を解消するため、ブラウザ「Chrome」事業の売却を含む是正案を米連邦地方裁判所に提出した。
この報道を受けて、日経電子版が提供するコメントを書き込める機能である「日経Think!」に「グーグルはスマートフォンの検索において、iPhoneからグーグル検索にユーザーを導いてくれるアップルに年間数兆円を支払っている。Chromeが別会社化しても同じビジネスモデルを適用するだけであり、意味がないのではないか」と書いた。しかし、その後の記事によれば、米司法省はグーグルのアップルに対する支払いも禁止するような是正案を出していることから、そうした穴は塞がれる可能性が極めて高いことがわかった。
米司法省はグーグルの独占的な立場を崩したいのだろうが、そんなことをして誰のためになるというのか。
すでにインターネットメディアはグーグルの検索や広告に依存しており、グーグルの影響力が低下するようなことがあれば、インターネットメディアも立ち行かなくなるだろう。
今流行の言葉である「オールドメディア」からインターネットに広告出稿がシフトしているなか、グーグルによる広告プラットフォームの影響が下がれば、広告を出す企業も顧客接点を失い、路頭に迷うはずだ。
ChromブラウザやOSが別会社化すれば、当然、資本的な余裕はなくなるわけで、世界中の学校で導入されているChromeBookにおけるセキュリティや機能強化はどうなってしまうのか。我が子が安心してインターネットを使えているのは一応、ChromeBookのおかげだったりする。これが無法地帯になれば、教育現場ではChromeBookから別のプラットフォームへの切り替えを迫られるかも知れない。
と懸念材料を上げてみたものの、グーグルを取材している立場からすると、恐ろしいぐらいにグーグルは縦割り組織であり、横の連携は想像以上にできていなかったりする。
そのため、Chrome事業が別会社となり、売却されたとしても、実際はあまり影響がないような気もしている。
ネットで調べ物をする際には、最も使い勝手がいいのはグーグルであり、いきなり他社サービスに乗り換えるというのもないだろう。メールやマップなどもグーグルの使い勝手が良いだけに、Chromeが別会社から提供されても、いまの状況は変わらないのではないか。
一方で、これから生成AIによる検索が増えてくることで、グーグルで調べなくても、生成AIに聞けば、余計な広告を見る必要も無く、知りたい情報がコンパクトに的確でわかりやすく手に入るという状況が増えつつあるのがグーグルにとっては頭の痛い問題ではないか。
もちろん、生成AIによる検索が増えれば、広告も表示されなくなり、グーグルだけでなく、ウェブメディア全体にも影響を及ぼしかねない。
生成AIの登場によって、米司法省が動かなくても、グーグルの独占状況というのは解消される方向にあるのではないだろうか。
この記事の著者・石川温さんのメルマガ
image by: gioele piccinini / Shutterstock.com