債務膨張か低成長か。中国経済を悩ます“究極の選択”に習近平政権が「中央経済工作会議」で打ち出した“回答”は

 

中国を襲った習近平政権の見通しを狂わせる出来事

習近平の打ち出した政策変更により、銀行の不動産セクターへの貸し付けは厳しく制限され、不動産購入者への借り入れのハードルも引き上げられた。

その他さまざまな購入条件にも制限が加えられたことで、不動産価格の高騰は少しずつ落ち着気を見せていた。だが、その矢先に習近平政権の見通しを狂わせる出来事が中国を襲うのである。

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)である。

不動産価格は、逆に人々に将来不安を引き起こすほどの勢いで下落した。

さらに水を差したのがコロナ禍の出口における戦略の遅れである。

2021年、いよいよポストコロナを人々が意識し始めると、中国国内には政府による大規模な景気対策を望む声が広がった。

しかし、習政権はこうした待望論に応えることはなく、相変わらず債務拡大に慎重な姿勢を貫いた。

コロナ禍のなかで達成された100年の事業、「脱貧困」が、再び逆流しないように力を注がなければならなかったことなど、事情はいろいろ指摘されるが、それでも全国人民代表大会や中央委員会総会などが行われる節目では、人々は景気対策を熱望し、その都度「今回も空振りだった」と失望の声を上げ続けてきたのだ。

この肩透かしが景気の足を引っ張ったのはいうまでもない。

コロナ禍では中国の貯蓄率は当然のこと高まった。その凍り付いた貯蓄がポストコロナでどっと流れ出すという当初のシナリオはここで狂ってしまうのだ。

中央経済工作会議は、人々が期待し続けた景気対策に、やっと政権が応えたという見方ができるだろう。

ブルームバーグが報じたように、トランプが大統領に返り咲くことで悪化が予想される貿易のダメージにも配慮した政策なのかもしれない。また規模などの点で物足りないとの指摘も一部にはある。

しかし習政権は一定の手応えを感じていることは間違いない。

というのも今春から随時打ち出された消費刺激策が、ある程度の効果を生んできたと考えられるからだ。

それが今回の中央経済工作会議にも表れている。消費の分野では「消費の振興と投資収益の向上に力を入れ」との表現が書き加えられているが、これは大規模な設備の更新と消費財の買い換えの政策(両新政策)が持続的に効果を上げるのにともない、消費市場は大きく回復・好転したと政権が考えていることの表れだ。

消費のけん引で政府が期待するキーワードは、この「両新」と並び「初発表経済」、ウインタースポーツを意味する「氷雪経済」、そして「シルバー経済」の三つだ。

買い替えについては以前のこのメルマガでも触れたが、EV(電気自動車)、家電ともに好調である。

債務問題は一旦横に置くことを決めた2025年の中国経済は本格的な回復期に入るのだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年12月15日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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