健康に長生きするためには「定期的に受ける健康診断が大事」と考えている方が大半ではないでしょうか。しかし、ここ20年以上健康診断を受けていないと語るのは、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者である池田清彦さん。「薬を飲まないと長生きできません」といった警告には、健康のためかと思いきや、医師たちの裏の思いがあるからなのだそう。今回のメルマガでは、日本医療の「闇」を紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:やせ我慢日記~病気にどう対処するかは人それぞれ~
定期的に受診すべき?健康診断は金儲けのための罠という現実
2024年になって敬愛する養老孟司と内田樹ががんに罹ってしまった。養老さんは医師の免許を持っているのに医者嫌いで、健康診断も嫌いで少々のことでは病院に行かないが、2020年の初夏に心筋梗塞を患って東大病院にしばらく入院していた。どこも痛いところはないのだけれども、体重が激減してやる気が全く出ない。それで、自分から病院で検査をしてもらおうと思ったようだ。
私も健康診断はまったく受けないけれど、自分でこれは変だと思った時は病院に行く。自分の体を毎日観察していると、この痛みやこのだるさはいつもと違うということがわかる。勘が働くのだ。養老さんは昔の教え子の中川恵一医師に連絡して東大病院で検査を受け、心筋梗塞で即入院となった。あと少し遅れていたら、冠動脈が詰まって危なかったようだ。中川さんには「運がよかったですね」と言われたという。この辺りの事情は、養老さんと中川さんの共著『養老先生、病院に行く』(エクスナレッジ)に詳しく書いてある。
養老さんが医者嫌いだという気持ちはよくわかる。この本の中で養老さんは次のように述べている「なぜ病院に行くのに決心がいるかと言うと、現代の医療システムに巻き込まれたくないからです。このシステムに巻き込まれたら最後、タバコをやめなさいとか、甘いものは控えなさいとか、自分の行動が制限されてしまいます」。「今、病院に行こうとしたら、医療というシステムに参加せざるを得ません。いわば今まで野良猫のように生きていた自分が、家猫に変化させられるようなものです」。
エイズで死んだフランスの哲学者ミシェル・フーコーは生権力という概念を提唱したことで知られる。近代以前の権力は、権力の意志に歯向かう者は処罰するというものであったが、近代の権力は、そういった直接的・暴力的な統治ではなく、人々の生に積極的に介入して、人々があたかも自分の意志によって権力の望む方向を選択するように導く装置になった、というものである。
日本の医療は生権力の典型で、公務員や企業に勤めている人は毎年健康診断を受けさせられ、かなりの人はそれでも飽き足らずに、自ら進んで人間ドックで検査を受け、やれ高血圧だ、やれ高コレステロール血症だと言われ、薬漬けになっている人も多い。欧米は、企業に従業員の健康診断を義務付けていない。それは自覚症状のない人が健康診断を受けても受けなくても、死亡率に差がないというエビデンスが出ているからだ。
私は天邪鬼なので、この20年以上健康診断は受けていない。早稲田大学に勤め始めた頃は、健康診断を受けるようにとの催促の知らせが頻繁に来たが、無視しているうちに来なくなった。養老さんが東大の教授だった頃、健康診断の受診率が一番低いのはーーー。(『池田清彦のやせ我慢日記』2025年1月10日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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