トランプ政権2.0は、「小難しいこと言われても俺らにはわかんねぇんだよ」というコア支持者たちの気分によって駆動(=ドリブン)しているようだ。不法移民の強制送還、WHO脱退、パリ協定離脱など、就任直後から矢継ぎ早に繰り出すトランプ大統領だが、米国在住作家の冷泉彰彦氏によれば、国際社会全体を敵に回すような政策は今のところ少ない。その一方で、アメリカ国内向け政策となると途端にトンデモ度が色濃くなるという。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ経済と為替レートの行方
トランプ大統領の劇場型政治 勇ましさの裏で“匙加減”も
トランプ政権が発足する中で、日替わりでさまざまな人事や大統領令のニュースが伝えられています。
基本的には、就任以前にアナウンスされていたことばかりで、社会としても市場など経済観点でも「すでに織り込み済み」の内容が多いのですが、全体的には2点の指摘が可能です。
1つは、やはり非常に強めの劇場型政治が立ち上がってきたということです。これは経済の観点から言えば、国民の期待が大きい「物価対策」が事実上不可能である中で、どうしても劇場型(あるいは激情型とも言えます。冗談ではなく)政治を繰り出していかねばならない事情があると理解しています。
もう1つは、少なくとも西欧や国際社会全体を敵視する政策はとりあえず控え目ということが指摘できます。
まず国際社会全体を敵に回すことはさすがに自重しているという部分ですが、就任演説で「カナダ併合」「グリーンランド強奪」についてはさすがに言及しなかった、これはまあ自重というよりも、どう考えても無理筋ということでしょう。ですが、少なくともNATO内での深刻な対立を招くことは避けられたと言えます。
もしかしたら、これはルビオ国務長官なり、ヴァンス副大統領なり(または、その両者)が止めさせた、という可能性もあると思います。
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WHO、パリ協定脱退…国際社会の受け止めは
さらに言えば、大声で言っていたWHO脱退も、まだ条件付きであるものの見直しを示唆しています。コロナ禍に関しての動き方に関しては、熱心なコア支持者でさえ「ワクチン開発をしたのは大将の汚点」だなどという「トンデモ」視点を今でも持っています。
また、ワクチン陰謀論の中心人物とも言えるロバート・ケネディ(RFK)・ジュニア氏を依然として「保健福祉省長官候補」として内閣に迎える構えです。もっとも、同氏の承認審議がすぐ予定されている中で、さすがに議会からの承認には失敗するかもしれません。それはともかく、WHOからの脱退というのはかなり深刻な問題です。
まず製薬はアメリカの主要産業の1つです。そして、RFKジュニアという人はアンチ医薬産業なのですが、それはともかく共和党の全体としては製薬業界にはフレンドリーです。製薬は完全にグローバルなビジネスですから、当然のことながらWHOとの連携は必要です。アメリカが脱退してしまうと、実務的に困る面が出てくると思います。
さらに、コロナのような弱毒性ウィルスではなく、SARSやエボラ出血熱など致死性の高い強毒性ウィルスが発生した場合には、国際的な連携が何としても必要となります。世界の主要国で北米大陸の中核にあるアメリカが、WHOを通じて国際社会との連携ができなければ地球全体が困るし、反対にアメリカだけが多くの死者を出すなどという可能性も出てきます。
一方で、国際的な枠組みではありますが、気候変動問題のパリ協定に関してはブッシュ政権も嫌っていたし、第一次トランプ政権の時も脱退していました。本当は気候の変動が激しさを増す中で、アメリカが脱退するというのは困るわけですが、この行動に関しては国際社会としては織り込み済みというところだと思います。