なぜトランプ政権2.0は「難しい話はわかんねぇよ」ドリブンなのか?不法移民狩り、WHO・パリ協定離脱…劇場型政治のアクセルとブレーキを整理する

 

連銀任せのトランプ本人は「円高・ドル安」を特に望んでいない?

そんな中で、「トランプ氏本人」、そして「コアの支持者」も一応理解していそうな経済の指標は金利と為替だと思います。そして、為替レートの変動は日本経済を激しく揺さぶる要因にほかなりません。

では、トランプ政権が発足したことで、為替レートにはどのような方向性が見えてきたのでしょうか?

まず前提として踏まえておかねばならないのは、為替レートというのは最終的には思惑による投機マネーで変動することが「ある」ということです。仮に、トランプ大統領が明確に「ドル安を望む」とか「ドル高を望む」という発言をしたら、あるいはそのような気配を示したら、市場は敏感に反応すると思います。

制度的には不安定かもしれませんが、国際通貨市場というのはそのように出来上がっているので、これを否定することはできません。では、トランプ氏は果たして「ドル高」を望むのか「ドル安」を望むのかですが、これまでの言動を振り返ると、まったく正反対の2つの姿勢が見て取れます。

強いアメリカ、強いアメリカ経済

相手の貿易に有利な為替操作は許さない

前者は明確な「ドル高姿勢」です。一方で後者は明確な「ドル安姿勢」です。まったく正反対で、矛盾も良いところです。もちろん、歴代の大統領たちもこの矛盾の中で自由はありませんでした。ドル防衛と戦い、円の過小評価と戦った70年代から80年代のニクソン、カーター、レーガン、ブッシュの4人は、まさに為替戦争の闘士でしたが、クリントン以降の場合は「強弱の両方」を行ったり来たりという姿勢でした。

ではトランプ氏の場合はどうかというと、一期目の場合は日本の安倍晋三氏が明確に円安政策を打ち出していたので、これを全否定はせず、為替問題が大きな争点や決裂にはなりませんでした。

では、この先、トランプ政権下における為替はどういった方向性を持つのでしょうか? 基本的には、連銀の金利政策が大きくモノを言うのだと思います。まず、連銀のパウエル議長は現状を「景気の加熱が続く中での好況の出口期」と認識しています。ですから、基本は金利引下げを続けてきました。その中で、

「金利引下げを遅らせることで、景気の過熱を微妙に冷やす」

という高等戦術を続けています。ですが、そのパウエル氏は昨年末から、この景気は簡単には冷えないどころか、加熱に転じているという見方を始めています。そのうえで、

「仮に景気が加熱するのであれば、利上げも辞さない」

としています。現時点では、トランプ氏はこれには噛みついてはいません。もしも、パウエル氏が「自分の言うことを聞かない」ということになると、今のトランプ氏は一期目のとき以上に厳しく介入します。自分が任命したパウエル氏ですが、平気でクビにするかもしれません。

ではその兆候があるのかというと、現時点ではこれはありません。ということは、連銀は独自の判断で金利政策を変更する可能性のほうが高いと思われます。

その場合ですが、「アメリカが利上げする」と「日米金利差が拡大するので円安になる」というのは、恐らくそうだと思います。ですが、先週のように「日本が利上げして日米の金利差が縮小」した場合に、それほど円高にならなかったのはなぜかと言うと、もっとファンダメンタルな部分で円安要因がジワジワと強まっているということが考えられます。

そう考えると、為替レートに関しては、基調はゆっくりとした円安で、トランプ氏が方向性を打ち出すことは当面はないという考え方でいくのが良さそうです。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年1月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「イチロー氏殿堂入り、満票を逸した意味」もすぐ読めます

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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