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週刊文春“記事訂正”の罠にハマる中居正広とフジテレビの罪。日枝久の退陣は必然、やりなおし会見で露見した異常性

元SMAP・中居正広氏(52)の女性トラブルに、フジテレビの編成幹部が関与していたとされる疑惑について、『週刊文春』が初期の報道内容を一部訂正した。テレビのワイドショー系番組は、これを“重要な前提事実の訂正”だとして、あたかもフジの潔白が証明されたかのように小躍りで報じているが、本当に大丈夫なのか。本記事では元全国紙社会部記者の新 恭氏が、先日の“10時間超やりなおし会見”の内容を踏まえ、フジテレビ問題の核心とその“ドン”たる日枝久氏(87)の責任問題について詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:フジサンケイ・日枝帝国の落日

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日枝久氏が雲隠れ、フジテレビ“やりなおし会見”の異常

中居正広氏の“性加害問題”をめぐるフジテレビの“やりなおし記者会見”は1月27日の午後4時から28日午前2時過ぎまで延々10時間余りにおよんだ。

フジサンケイグループのドン、日枝久氏は姿を見せず、フジテレビの嘉納修治会長と港浩一社長が辞任を表明した。「トカゲのしっぽ切り」と受け取る向きも多い。

ひとまず、トップ二人の首を差し出して、鎮静化させたい、ということだろう。テレビカメラの撮影を禁止した1回目の閉鎖的な記者会見が批判を呼び、スポンサー企業が自社のコマーシャルを見合わせる動きがあっという間に広がった。

もはや中居氏だけの問題ではなく、女子アナウンサーを有名タレントに“上納接待”する悪しき企業文化があるのではないかと疑惑は膨らんでいる。グループ全体としては不動産収入の比率が高く、当面の心配はないようだが、CM差し止めが長期化するなら存亡の危機に瀕するだろう。

この状況についての社員説明会で、社員から経営陣の総退陣を求める声が上がった。フジテレビ労働組合は、取締役相談役の日枝氏を名指しして退陣要求した。企業風土を一から刷新するくらいの覚悟を示さなければ、世間は納得しないと社員たちはわかっているからだ。

なのに、日枝氏は責任をとらず、会見にも出席しなかった。それどころか、こんな報道すら飛び出した。

スポニチ本紙の取材では、23日の社員説明会の前に港、嘉納、遠藤の3氏がフジサンケイグループの日枝久代表に辞意を伝えていた。だが日枝氏は「こんなことで負けるのか、お前たちは!」などと一喝。出席していた幹部は「今回の問題を勝ち負けで考えているとは…」とあぜんとしたという。(スポニチ)

日枝氏がコトの重大性を理解しているとは思えない。フジの経営陣は日枝氏の怒りを恐れ、問題を矮小化しようとしてきたのではないか。

X子さんの性被害 経営陣も「非常に重い案件」と認識

報じられたなかから、ポイントとなる事実を時系列的に並べてみよう。

2023年6月、性被害を受けた女性は佐々木恭子氏(アナウンス室部長)にその旨を訴え出た。週刊誌報道では20代女性でテレビ業界に身を置くX子さんとされるが、同局の元女子アナらしい。

佐々木氏はすぐにその内容を当時の専務取締役、大多亮氏(現・関西テレビ社長)に報告した。大多氏は港浩一社長に同じ内容を伝えたと言っている。

女性は心身に大きなダメージを受け、23年7月から入院し、会社を休養した。その後、フジテレビを退社し、昨年10月、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたことをSNSで告白。「食べられなくなった。うまく歩けなくなった。うまく指が動かなくなった」と症状を明らかにした。

大多氏は「非常に重い案件で、ある種の衝撃を受けた」と語った。港社長も「人権侵害が行われた可能性のある事案」と認識していたと言う。

週刊文春の記事訂正に小躍りするフジテレビの「消せない疑惑」

交際しているわけでもない中居氏と女性が二人だけの密室で食事をした経緯について、週刊文春は、女子アナに対し優越的地位にあるフジテレビ編成幹部A氏が飲み会をセッティングし、ドタキャンしたと報じていた。

それが“上納接待”の悪習を想像させるもとになっていたが、フジテレビはホームページ上で「当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません」と声明を出し、“やり直し会見”でも港社長が「その日のできごとに社員は関与していないと判断した」と繰り返し述べて、文春報道を否定した。

どうやらこの件に関しては、報じる側にいささか勇み足があったようで、週刊文春は28日、訂正記事を出した。

以下は、その内容の一部だ。

昨年12月26日発売号では、事件当日の会食について「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていました。しかし、その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の”延長”と認識していた」ということが判明(中略)事件直前A氏はX子さんを中居氏宅でのバーベキューに連れて行くなどしています。またX子さんも小誌の取材に対して「(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」と証言しています。以上の経緯からA氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています。

いずれにせよ、社長も専務も「人権侵害の可能性がある重大事案」として受けとめたのは間違いない。なのにフジは、“事件”が起きた後も中居氏の冠番組を継続し、さらにはパリ五輪やワールドシリーズの特番に中居氏を起用し続けたのである。

「彼女のケア、プライバシーを守ることを最優先にした」「番組を打ち切る動きがはたして、彼女のためにどういう影響があるのか」(大多氏)とあたかも被害女性を守るためであるかのようにフジ側は言い訳するが、明らかにゴマカシである。

表ざたにしたら、刑事事件になるかもしれない。会社の責任も問われかねない。なにより、大物タレント・中居正広氏は番組作りに必要だ。なかったことにしたい。そんな利益優先の考えが女性の人権尊重よりまさっていたのではないか。

「A氏の関与はなかった」「女性のメンタルに配慮して中居氏の番組を継続した」という“防衛ライン”を死守する方針でフジは“やりなおし会見”にのぞんだのだろう。

しかし、はからずもフジテレビの記者が質問に立って「プライベートな領域を盾にして情報隠蔽しているのではないか」と自社のトップに問いただしたように、その意図は見透かされていた。400人をこえる会見参加者の醸し出す不穏な空気が和らぐことはなかった。

日枝久氏の正体。繊細かつ豪胆なテレビマンからクーデター首謀者へ

79社、4法人、3美術館で構成されるメディア・コングロマリット「フジサンケイグループ」は、フジテレビの取締役相談役、日枝久氏が代表をつとめている。

グループの大半はフジ・メディア・ホールディングスの子会社または関連会社であり、すでに相談役に退いた御年87歳の日枝氏に法的な代表権があるわけではない。それでもグループ代表の肩書を有しているのは、実質的な“支配者”であるからだ。

日枝氏は放送記者だった時期もあったが、主として編成・営業畑を歩んだ。43歳の若さで編成局長になったのは、いかつい顔に似合わぬ神経の細やかさと豪胆さを兼ね備えているからだろう。その後、社長にのぼりつめた日枝氏の不満は、当時、フジテレビ、産経新聞、ニッポン放送などの企業群を統括していたフジサンケイグループ会議議長の存在だった。

フジサンケイグループをオーナー一族が支配する構造を確立したのは鹿内信隆氏(元日経連専務理事)だ。鹿内氏は筆頭株主としてニッポン放送を支配、ニッポン放送はフジテレビの親会社となり、フジテレビは産経の筆頭株主となって、産経を支配下におさめるという図式だ。これにより、鹿内家はニッポン放送の株式さえ握っておけば、グループ全体に君臨できた。まさにメディアグループを私物化するための魔法といえた。

ところが、信隆氏の後を継いでフジサンケイグループ議長になった息子の春雄氏が急逝したことから、事態は急展開を始める。

信隆氏の娘婿、宏明氏が議長、会長に就き、グループ各社の経営計画や人事権を掌握して、独断専行、横柄な態度を見せ始めると、日枝氏は強い危機感を抱き、フジテレビはもちろん、産経新聞の役員らも巻き込んでクーデター計画を練った。首謀者は間違いなく日枝氏だった。

反乱は92年7月21日に突然起こった。産経新聞取締役会で、鹿内宏明氏は会長を解任されたのだ。これをきっかけに、宏明氏は孤立無援となりグループ議長やフジテレビ、ニッポン放送の会長職も辞任した。

これで鹿内一族によるフジサンケイ支配は終わった。その当時、産経OBの司馬遼太郎氏は「これで産経も“仲間立”の会社になれる」と私物化からの解放を喜んだものだったが、思い通りには進まなかった。

新たな支配者が、その後のフジサンケイグループを牛耳ることになる。言うまでもなく、新支配者とは日枝久氏である。その後の10年ほどはニッポン放送の大株主である宏明氏の影響力を殺ぐためニッポン放送とフジテレビの株式を上場するなど、経済合理性からいえば不可思議な戦いに明け暮れた。だが、ホリエモンによるフジテレビ買収を阻止し、長期支配の土台を固めてゆく。

日枝氏は“中居事件”の責任から逃れることはできない

度胸と押し出しの強さ、男気の厚さで知られる日枝氏は、間違いなく求心力のある経営者だ。しかし、一強時代があまりに長く続くと、弊害が生まれる。老いた権力者にモノが言えない企業風土が定着して、統治能力が劣化してゆく。

#MeToo運動がきっかけとなり、伊藤詩織氏の性被害事件、ジャニーズ問題などを経て、それまで見過ごされがちだったセクハラや性暴力の問題が日本のメディアでも広く取り上げられるようになった。フジテレビもその一つだったはずだが、経営者たちの人権感覚はアップデートできていなかったとみえる。

今回の問題について、港社長は日枝氏に相談したことはないと断言した。しかし本当だろうか。会見に出席したフジテレビ、フジ・メディアHDのトップ5人のうちの一人は「組織の上意下達、タコつぼ化」と自社の企業風土について語っている。その最上位に君臨するのは日枝氏である。

フジテレビは数多くのトレンディドラマとお笑い番組をヒットさせ、女子アナウンサーを最初に“商品化”した。売り物は軽佻浮薄さだ。それを引き出すのに長けたバラエティー番組のMCが、視聴率を稼げる大物タレントとしてもてはやされ、いつしかテレビ業界で覇権を握っていく。テレビ局がMCのできる有名タレントにこびへつらう風潮が、“中居事件”を生んだのだ。

限られた電波の使用権を国から与えられている放送局が、その公共性を無視して、被害女性の人権よりも、視聴率を稼いでくれる人気タレントとの関係や自社の利益を守ることに躍起となった。日枝氏はその責任から逃れることはできない。

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image by: フジテレビ | UK in Japan- FCO, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

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