台湾で高まる米国への不信感。帰ってきたトランプが大きく変えた「今日のウクライナは明日の台湾」の意味

 

早々と中国との間に安定的な関係を求め始めた東南アジアの国々

事実、トランプの衝撃はウクライナだけに向けられたものではない。

ロシアとの停戦の話し合いで蚊帳の外に置かれたのはEUもNATOも同じだ。さらに関税ではEUも狙い撃ちにされた。

関税に関してEUは当初、アメリカが激しく対立する中国を持ち出せば、米欧対立は回避できると考えていたようでもあった。

象徴的だったのは、EUのカヤ・カラス外交部長の「貿易戦争に勝者はいない。もし…、アメリカが貿易戦争を始めたら、笑うのは中国だ」という発言だ。

中国もいい迷惑だ。

しかし、関税でも安全保障でも、トランプ政権がそういう懐柔策に興味がないことは、ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス副大統領が欧州入りして語った「私が欧州に関して最も懸念する脅威はロシアではなく、中国でもない。その他のいかなる外的主体でもない」(CNN)と断じて幕を閉じた。

前出・ヘグセスも「ヨーロッパの人々は『アメリカのプレゼンスが永遠に続くと思い込むべきでない』」と突き放している。

トランプ政権に翻意を促すため中国を持ち出す手法は、新日鉄によるUSスチールの買収を実現したい米中のチームも用いたが、空振りに終わっている。

台湾海峡でもこれと同じことが起きるという予測は十二分に成り立つのだ。

台湾に対するアメリカの関心の変化は、すでに選挙期間中、トランプが「台湾はアメリカから半導体を盗んだ」と口にしていることからも風向きは予測できた。

つまり「今日のウクライナは明日の台湾」は、ここにきて本当になってしまう可能性が捨てきれないのだ。

こうしたなか東南アジアの国々は早々と中国との間に安定的な関係を求め始めた。顕著なのは、インドネシア、マレーシア、そしてタイだ。

そしていま欧州がここに加わるのか、その去就に注目が集まっている。

米政治誌『フォーリン・ポリシー』(2月20日)は、記事「トランプ大統領の欧州ショックが中国に活路を開く」でそのことを描いている。

もともと対中強硬派として知られ、EUの対中政策の積極的な転換(デリスキング)を主導してきたウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が発した以下の発言だ。

我々は、ここ数年行ってきたように、経済関係のリスク回避を続けていく。しかし、中国と建設的に関わり、お互いの利益になる解決策を見つける余地もある。そして、貿易・投資関係を拡大するような合意を見つけることもできると思う。それは、私たちが歩まなければならない微妙なラインです。

米欧はもちろん米中においてもその関係に一定の見通しが立つまでには、まだ見極めの時間が必用だろう。

しかしこの間の混乱は、世界がアメリカとの関係の「底」を覗く機会となった。

日米関係も「台湾有事」だけで成り立つ時代は終わるのだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年2月23日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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