トランプ米大統領が日米安保の「不公平」を叫びはじめた。防衛面で在日米軍に強く依存するわが国はどう対応すべきか?短期的には「静観」が最善手とみるのは米国在住作家の冷泉彰彦氏。ただし中長期的に、トランプの気まぐれに狼狽する情けない状況から日本が脱するためには、国内の「保守」「リベラル」「ノンポリ」勢力それぞれが抱える矛盾の解消が欠かせないとしている。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日米安保と国是の本質を考える
トランプの「日本は米国を防衛する義務がない」にどう対応すべきか?
ある程度は予想されていたこととはいえ、トランプ大統領が「日米安保は不公平」ということを言い出した、その衝撃は小さくはありません。
「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守らない」「いかなる状況下でも日本は米国を守る必要がない」と指摘した上で日米安保は「興味深いディール(取引)」だ、つまりアメリカ不利、日本有利の不公平なものだと言ったのです。
そのうえで「一体誰がこのようなディールをするのか」と皮肉を言ったり、そのような安保条約に守られながらも、日本はアメリカで大もうけしている、などという暴言も吐いていました。
とりあえず、非常に刺激的な発言ではあります。ですが、石破総理にしても与野党、あるいは霞が関にしても、狼狽して大騒ぎをするのは、相手の「思うツボ」です。ここは冷静に3段階に分けて考えておきたい、そのように思います。
日本の対応(1)まずはスルーする
まず第1段階は「静観」です。華麗に、というよりも静かにスルーするのです。当面は、何としてもこの姿勢が肝要です。
どうしてかというと、とにかく、トランプ氏は何も知らないで言っているわけです。例えば、今回の発言にしても答えはちゃんとあるわけです。まず「ディール」をしたのは、狭い意味ではトルーマン大統領(民主)で、それに次の大統領であるアイゼンハワー(共和)が追認して、しかも条約改定を成立させて固めたわけです。
ですが、広い意味では日米安保というのは、それだけではありません。日米安保条約というのは、サンフランシスコ講和による日本の再独立、そして「ユナイテッド・ネイション」を戦時の連合軍、連合国から恒久組織である国際連合に改組するという「戦後処理の枠組み」の一つとして成立したわけです。
ですから、広い意味では国際連合条約の締結国全員ということになります。
そして、アメリカ側では、トルーマンが結んで、アイゼンハワーが固めたというだけではありません。その後のすべての大統領、つまり1期目のトランプとバイデンを含めた全大統領が、追認し、運用してきたのは間違いないでしょう。トランプ氏は、そうした前提を無視して喋っているのですから、合衆国大統領としての発言ではなく、「中のタダの人」が勝手に喋っているだけです。ですから、マトモに受けるのは意味がありません。
もちろん、トランプ氏というのは、記憶力は良い方ですし、良くも悪くも言ったことについてはブレません。ですから、今後の様々な展開の中で、この「日米安保は不平等」ということを持ち出す可能性は十分にあります。
ですが、この「不平等発言」の際にも「日本との関係は良い」ということは言っていますし、少なくとも第一次政権の際に安倍晋三氏と交渉している間は、安倍氏の説明で納得していたのは事実だと思います。ですから、今回の発言が飛び出したからと言って、すぐに動揺する必要はないと思うのです。
日本の対応(2)時間切れを狙う
2つ目は、仮にトランプ氏が相当真剣に「日米安保条約は壊してやろう」とか「在日米軍は引き揚げてやろう」と思っていても、時間的には間に合わない可能性があるわけです。4年の任期というものがまずあり、仮に「トランプ政治が大成功」ということにならない限りは、次の政権はもう少し常識的な政権になる可能性が高いと思います。
そう考えると、とにかく大きなトラブルを起こさず、起こされず、時間をやり過ごすことが、現在の日本にとっては何よりも上策になります。
この時間軸の問題ですが、今現在はトランプ流の「ぶっ壊し」がドンドン勢いを持っており、まったく手がつけられないような印象を与えます。ですが、意外なところでスローダウンは始まっているわけで、そう考えると今回の事態に対しては、余計に冷静に見ておく必要を感じます。(次ページに続く)