意外に短命?トランプのスローダウンはもう始まっている
スローダウンということでは、まず、体制内の動揺が意外にも早く始まっています。例えば、第一次トランプ政権の際に、彼としては筋金入りの保守派として最高裁に送り込んだと思っていたエミィ・コニー・バレット判事が、意外にも反旗を翻しました。USAID(アメリカ開発局=世界への支援金交付の官庁)による世界への援助を停止するのは「違憲」という判断に乗ったのです。
これでロバーツ長官とリベラル判事3名と共に5名の多数派が形成されて、画期的な違憲判決が出されました。その直前に、バレット判事は、上下両院議会による大統領施政方針演説に「三権のうちの司法権の代表」として参加していたのですが、その際にトランプ氏と握手したときに冷徹な表情をしていたので、「なるほど」という声も出ているのです。
体制内の動揺ということでは、トランプ氏が内閣の重要な役目を授けていたマルコ・ルビオ国務長官が、政府のリストラ案をめぐって、イーロン・マスクと舌戦になったともっぱらの噂です。どうやら、自分の所轄の国務省、そして問題のUSAIDなどにマスク氏が手を突っ込んでくることに対して「指揮命令系統の乱れ」を問題視したようです。
ただ、ルビオ氏に関しては、問題のトランプ=ゼレンスキー会談の舌戦に際しても、トランプ、ヴァンスの次の席で至近距離で参加していたにもかかわらず、死んだような冷たい目をしていたとして話題になっていました。また、先週の施政方針演説の際に「パナマ運河奪還」について「マルコ、君の役目だからな」とトランプが言い放った際に、同じように冷たい目をしていたのが印象的でした。
もっとも、トランプ氏は、ルビオ氏が「100%トランプ派ではない」ことは承知しているようで、施政方針演説でも「マルコは、100対ゼロで承認されているから、やってくれるだろうが、100対ゼロというのは多少心配でもある」というようなことを言っていました。上院の民主党も全員賛成した人事というのは、トランプから見ると「心配だ」ということらしいです。
というわけで、政権内部にはすでにガタが来ているのですが、もっと重要なのは経済への影響です。先週末にトランプ大統領は、FOXビジネスニュースのマリア・バートロモ記者のインタビューを受けた際に、「リセッション(不況)」突入の可能性を否定しませんでした。
バートロモ記者といえば、90年代末のITバブル、そして2000年のその崩壊から911と激動のアメリカ経済の光と影を、CNBCの看板キャスターとしてレポートし続けたベテランです。その後は、FOXに移籍して、熱心なトランプ支持の視聴者を相手に仕事をしてきています。ですから、トランプ氏としては、気安さもあり、またウソもつけなかったのでしょう。
ですが、「リセッションもあり得る」というのは、これは大変な発言です。では、大不況を覚悟しながら、今後も関税戦争を仕掛け、「アメリカファースト」のメチャクチャな政策を続行するのかということになると、それは違うと思います。現在は発足直後ということもあり、勢いに任せて「政府のリストラ」を過激にやり、外交では同盟国であればあるほど「カネを奪うヤツ」だと敵視しています。
こういった無茶は、そう長くは続かないのであり、そうした流れの中で日米安保を考えてみると、これを破棄するというのは時間軸の中で現実的ではないと思われます。何よりも、日米安保を破棄するというのは、そのまま西太平洋を中国の海にすることであり、そうなればアメリカ経済の根幹が崩壊するということもあります。(次ページに続く)