インドとパキスタンが領有権を主張するカシミール地方で起きたテロ事件を発端に、激化する両国の対立。双方がミサイルやドローンによる攻撃を展開するなど、事態は泥沼化の様相を呈しています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、世界中で頻発する紛争の根本的原因を考察。さらに印パの衝突が、アジア太平洋地域を核戦争の震源地とする可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:自らが生まれ育った“土地”への帰属意識と戦争の関係-解決のカギ?!
印パ衝突に中国が介入か。迫りくる第3次世界大戦の足音
「土地とは尊厳と名誉そのもの。私は生まれ育った故郷で死ぬことが夢だ。よそから来たものたちに1ミリとも土地を譲るつもりはない」
これはガザ地域でイスラエルからの猛攻を何とかしのぎながら今も恐怖の下、暮らす人たちの思いです。そしてその思いは世代を超えて引き継がれています。
同様の思いは、恐らくロシアからの侵略と攻撃に耐え、今もウクライナに暮らすウクライナの人たちにも、インド・パキスタン・中国の三つ巴で領有権が争われるカシミール地方のそれぞれの支配地域に昔から暮らす人々にも共有されている、アイデンティティともいえる存在だと感じます。
これまで数多くの紛争案件の調停に携わってきた中で明確に感じ、理解するのは、人々の土地への愛着と執着、そしてその土地の収奪こそが紛争の根源に存在する要因であるということです。
よくメディアで紛争・戦争のニュースを見ると語られるのは、民族の違いや宗教・宗派の違いなどが戦争の原因という内容ですが、それらは起きてしまった戦争に対して何らかの“理解しやすい”理由や、政治リーダーたちが自らの決定を正当化するために用いる大義に過ぎず、戦争やいかなる争いの根本的な理由とは異なります。
紛争の根源にあるのは、土地やそれに繋がる資源(水、食糧、エネルギー資源、鉱物資源など)の所有権を巡る欲のぶつかり合いというのが実情だと考えています。
私たち人間に備わり、無意識に思考と行動をコントロールしている「もっともっと」という心理が戦争を引き起こしていると言い切ってもよいと考えます。
「あの川を流れる水を支配したい」「隣の国に埋蔵されている資源を獲得したい」という“隣の芝は青い”心理は、欲する度合いが高まると、時に私たちの冷静な判断力を奪い去り、力を持ってでも獲得したいという願望に変わり、それが武力侵攻につながることもしばしばあります。
今、現在進行形のロシア・ウクライナ戦争も、インド・パキスタンそして中国が絡むカシミール地方での紛争も、スーダンやコンゴ民主共和国での内戦、そしてルワンダとコンゴ民主共和国との争い(コバルトをはじめとするレアアースの権益など)もこの要素が背後にあります。
また戦争にはまだ発展していないエジプト・スーダン・エチオピアの間でのナイル川の水利についての(エチオピアが一方的に建設・稼働を決めたGreat Renaissance Damを巡るナイル川の水利権の問題)緊張の高まりも、同様の要素が土台にあります。
遡れば旧ユーゴスラビアの内戦の背景にも、この領土・資源欲が存在しますし、国際案件では、湾岸戦争やアフガニスタンへの介入の理由の一つにもこの“欲”の存在が元凶として挙げられます。
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