65歳より前に年金を貰える繰り上げ制度ですが、どの程度減額されるものなのか気になる人も多いかもしれません。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが繰り上げ制度とはどんなものなのか、事例を用いて解説しています。
年金の繰上げによる年金減額と、障害年金や遺族年金はどうなるのか
1.老齢の年金は原則として65歳から受ける事になるが…
年金は一定の支給開始年齢になった時に請求により受給が開始される事になります。
一昔前までは厚生年金や共済年金であれば60歳から支給されて、国民年金は65歳から支給が始まるという流れが一般的でした。
しかしながら日本人の平均余命が急激に伸びていく中で、60歳から厚生年金を貰うのは早すぎるとして平成6年改正により、60歳から65歳までに引き上げる法改正がなされました。
実際に60歳から65歳までに引き上げるスケジュールが決まったのです。
本当は65歳までに引き上げるという重大な課題は昭和55年改正の時に決めるはずでしたが、定年がまだ55歳だったり、労使や野党からの反発が強すぎて叶いませんでした。
自民党も、そのような反発が強いと選挙に影響するので見送る事ばかりやってきました。
よって、その後の昭和60年改正、平成元年改正ともに支給開始年齢の引き上げは見送られてきましたが、平成6年になると「定年」は60歳にするという事が決まりました。
そして平均寿命が80歳に到達してきたため(女子は昭和60年、男子は平成25年に到達)、人生において60歳から65歳までは働いて、65歳からは年金生活に入るのが望ましいという考えが強くなってきました。
雇用を整備するとともに、平均余命も随分延びてきたため、平成6年になりようやく支給開始年齢の引き上げが現実化します。
なお、昭和60年改正時に支給開始年齢は引き上げられませんでしたが、昭和61年4月から新年金制度になった事で、「厚生年金も国民年金も65歳からの支給とする」という伏線が張られており、今後にそのスケジュールを決める事が暗示されていました。
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さて、今現在もまだ支給開始年齢は引き上げられている最中ですが、2025年になってようやく男性に関しては新規で65歳前より厚生年金を貰うという人がいなくなりました。
女性は2030年以降に65歳前に厚生年金を貰うという人がいなくなります。
という事は2030年以降に年金の受給権発生する人は全て65歳からの支払いになるのかというと必ずしもそうではないです。
年金制度には「繰上げ制度」というものがあるからです。
この繰上げ制度があるとこれから65歳からしか貰えないという人であっても、60歳から貰えたり、あるいは62歳とか64歳5ヶ月みたいな時に請求して受給を開始する事ができます。
なお、人によっては65歳からすら年金はいらないよという人がいるので、逆に繰下げ制度というのが用意されています。
65歳の年金をしばらく貰わないという繰下げは本来は70歳まで使える制度でしたが、令和4年4月以降の改正で75歳までに引き上げられました。
よって、今の年金制度は原則は65歳からの受給だけど、10年以上の年金受給資格期間があるなら60歳から貰う事もできるし、75歳まで遅らせる事もできる事になっています。
「なーんだ、じゃあ60歳から貰おう」と考える人もいますが、本来の年齢より早めるのでデメリットが用意されています。
今までも書いてきた事ではあるのですが、それは年金が減らされるという事です。
1ヶ月早めるごとに0.4%(昭和37年4月1日までの生まれの人は0.5%)減額されます。
65歳の年金を60歳から貰うとすると60ヶ月早めるので、0.4%×60ヶ月=24%の減額となります。
65歳で100万円だったら76万円まで減ってしまうという事ですね。
それが一生続くという事です。
現代は65歳の人の平均余命が90歳前後なので、わざわざ年金を減らすメリットはあまりないと思われます。
できる事なら逆に増やす、年金の繰下げが時代に合ってるのかなと思います。
さて、今回は年金の繰上げ事例を考えてみましょう。
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2.65歳からの年金を繰上げで早めに貰う。
◯昭和38年6月2日生まれのA男さん(令和7年は62歳になる人)
・1度マスターしてしまうと便利!(令和7年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和7年版)。
15歳年度末の翌月である昭和54年4月から昭和60年2月までの71ヶ月間は厚生年金に加入する。この間の平均標準報酬月額は25万円とします。
(20歳になるのは昭和58年6月なので、昭和60年2月までの21ヶ月間が老齢基礎年金に反映します)
昭和60年3月から平成4年7月までの89ヶ月間は全額免除(老齢基礎年金の3分の1に反映)。
平成4年8月になると会社員の女性と婚姻し、平成15年7月までの132ヶ月間は国民年金第3号被保険者になる。
平成15年8月から61歳年度末の令和7年3月までの260ヶ月間は厚生年金に加入する。この間の平均標準報酬額は58万円とします。
(60歳の前月である令和5年5月までの238ヶ月が老齢基礎年金に反映)
さて、A男さんは生年月日としては65歳から厚年も国年も受給する人です。まだ2~3年ほど先という事になりますね。
ですが、A男さんは関節の病気により動く事が不自由になってしまったので(障害手帳あり)、自己都合退職する事になりました。
退職後の令和7年4月にハローワークに行って、就職困難者として5月から令和8年4月まで360日分まで失業手当を受給しました(1年以上の雇用保険期間がある人は360日受給)。
令和8年5月からは失業手当も無くなるので、貯蓄だけでなく何かもう少し収入が欲しいと思ったので年金の繰上げを希望する事にしました。
本来の65歳の前月(令和10年5月)よりも繰り上げ請求月である令和8年5月は25ヶ月早める事になります。(繰上げ減額計算は請求月から65歳月の前月までで数えます)
その前にA男さんの年金記録をまとめます。
・厚年期間→71ヶ月+260ヶ月=331ヶ月(基礎に反映するのは21ヶ月+238ヶ月=259ヶ月)
・全額免除(平成21年3月までの期間)→89ヶ月
・国民年金第3号被保険者期間→132ヶ月
年金受給資格期間10年は満たしていますので、年金の繰上げをする事ができます。
まず65歳時点の通常の年金額を計算します。
・老齢厚生年金(報酬比例部分)→25万円×7.125÷1000×71ヶ月+58万円×5.481÷1000×260ヶ月=126,469円+826,535円=953,004円
・老齢基礎年金→831,700円(令和7年度基礎年金満額)÷480ヶ月×(259ヶ月+3号132ヶ月+全面89ヶ月÷3)=831,700円÷480ヶ月×420.667ヶ月(小数点3位未満四捨五入)=728,893円
・老齢厚生年金(差額加算)→1,734円(令和7年度定額単価)×331ヶ月ー831,700円÷480ヶ月×259ヶ月(20歳から60歳までの厚年期間)=573,954円ー448,771円=125,183円
・加給年金→415,900円(令和7年度価額)
よって、65歳時点の年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分953,004円+差額加算125,183円)+加給年金415,900円+老齢基礎年金728,893円=2,222,980円(月額185,248円)
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3.繰上げ請求による年金額の減額。
これを令和8年5月に繰上げ請求します。
そうすると65歳前月である令和10年5月までに25ヶ月間早く受給するので、25ヶ月×0.4%=10%減額になります。
よって、
・繰り上げ報酬比例部分→953,004円×90%=857,704円
・繰り上げ差額加算→125,183円×90%=112,665円
・繰り上げ老齢基礎年金→728,893円×90%=656,004円
ただし、差額加算の減額分12,518円は報酬比例部分から差し引き、差額加算自体は全額支給する事になっていますので注意。
なので、令和8年5月の翌月分から支給される年金総額は老齢厚生年金(繰上げ報酬比例部分857,704円ー差額加算減額分12,518円+差額加算125,183円)+繰上げ老齢基礎年金656,004円=1,626,373円
65歳(令和10年6月)になると加給年金415,900円が付いて、年金総額は2,042,273円(月額170,189円)となります。
65歳時点で見ると月の年金額が15,000円ほど減る結果となりましたが、この減額は一生続くので特に何もなければ(再就職するような事がなければ)この年金額が続く事になります。
なお、加給年金は減額対象外であり、配偶者が65歳になった時に消滅する事になります。
まあ、年金の繰上げのデメリットはこの年金額の減額が有名ではありますが、その他に気をつけるところはあるのでしょうか。
気を付けるとすればそれは障害年金です。
A男さんには関節の病気で動く事が困難になっていました。
4.年金の繰上げ後の障害年金請求希望と遺族年金は?
ちなみにA男さんはーーー(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2025年5月7日より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください)
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