スマホが私たちの生活に必須となってから十数年が経過しました。その牙城に風穴を開けようとしているのが、ChatGPTを開発したOpenAIと元Appleのデザイナー、ジョニー・アイブがタッグを組んだ「次世代AIデバイス」です。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』の著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川さんは、この次世代デバイスがポストスマホとなり得るのかという可能性と課題を語っています。
オープンAIの次世代AIデバイスはスマホに勝てるのか
オープンAIと元アップル幹部のジョニー・アイブがタッグを組み、次世代デバイスを開発するという。アイブ氏が設立したio Productsの評価額は64億ドル(約9200億円)だが、日経新聞電子版によればオープンAIはすでに23%出資しており、残る全株を株式交換で取得する。次世代デバイスは2026年にも登場するとみられている。
日経電子版のThink!にも少し書いたが、オープンAIがデバイスを作ったとしても、AndroidやiPhoneに勝てるものを作れるかと言えば、かなり微妙なんじゃないかと見ている。
今週のGoogle I/Oを見ても明らかなように、これからのAIにおける競争軸は「いかにユーザーのデータをベースに利便性を提供していくか」に尽きる。
GeminiはGメールやカレンダー、ブラウザの履歴などを元にユーザーの情報を整理、要約し、必要なアシストをしてくれるようになる。グーグルのクラウドに預けた個人データが一気に整理整頓され、使いやすくなっていくのだ。
Apple Intelligenceも、大きく出遅れてしまっているが、目指すところはパーソナルコンテクストの活用だ。iPhoneやiPad、Macという閉じた端末のなかで、オンデバイスAIによって、ユーザーの情報を整理し、求めていることを提供していく。6月に開催されるWWDC25で、どこまで具体的な進捗が発表されるかは不明だが、Apple Intelligenceの強みは、iPhoneに詰まった個人情報だろう。
一方で、サム・アルトマンCEOとジョニー・アイブ氏がタッグを組む次世代デバイスは、当然のことながらChatGPTにアクセスするものだろう。一部では「画面のないデバイス」なんて言われている。
話しかけて操作できるのは魅力だが、見たい情報をどのように「表示」させるのか。
去年、MWCで身につけるAIデバイス「AI Pin」が展示され、その後、アメリカで販売されたが、酷評の末、どこかに行ってしまった。日本でもソフトバンクが導入するのではないかと言われていたが、無傷で済んでホッとしているだろう。
AI Pinも声で操作しつつ、必要な情報は内蔵されたプロジェクターで手などに表示するというものであった。クアルコムチップの処理能力が低かったのか、ソフトウェアの処理、認識性能などがイケてなかったのか、実際に使っていないので判断できないが、やはりベンチャー企業だけで作り上げていくのは限界があったのかもしれない。
そんななか、サム・アルトマンCEOとジョニー・アイブ氏はどんなデバイスを作ってくるのか。
単に「ジョニー・アイブのデザインだから格好いい」だけでは売れないだろう。スマホに代わる操作性、利便性を、ユーザーのデータを全く持たない会社が提供できるのか。2026年まで気長に待ってみたい。
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