習近平を高笑いさせるだけ。インドですら“中国外し”を断念した米国「トランプ関税」の逆効果

 

欧州のリーダーたちを慌てさせたヴァンスの発言

今年2月、ミュンヘン安全保障会議に出席したJ・D・ヴァンス米副大統領は、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を「適格な政治パートナーとして支持する」と発言し、欧州のリーダーたちを慌てさせた。

極右勢力の台頭が著しい欧州で、この発言が歓迎されるはずはない。ドイツだけでなく欧州全体でトランプ政権への警戒感が高まった。今回の30%の新税率は、その上でふっかけられた難題だった。

米欧間に生じた不協和音は、ゼロ・サム思考が好きな西側メディアの目には、「中国有利」と映った。

だが、そう単純な話ではない。というのも6月30日から7月5日まで中国の王毅外相がヨーロッパを歴訪したにもかかわらず、中国とEUとの意見の相違を和らげることはほとんどできなかったからだ。

それどころか訪問中、王毅がロシア・ウクライナ戦争にからみ「ロシアの敗北は見たくない」と発言したとして批判が巻き起こった。

王毅の訪欧を報じたフランス『ル・モンド』紙の見出しは、「中国とEUの関係強化は不可能」だった。

ただ、その一方で、EUの対中姿勢の変更を促す声がフランス政界から上がったのも事実だ。話題となったのはフランス国民議会欧州問題委員会から出された153ページからなる報告書(6月17日)だ。

文書はジャン=リュック・メランション党首が率いる「不服従のフランス」(LFI)から4名、マクロン大統領の中道政党「ルネッサンス」から3名、極右政党「国民集会」から1名というように計8名で構成される委員会の公式文書だ。

欧州が中国と歩調を合わせるべきとの主張は、いまのところ欧州では特殊な意見と受け止められているようだが、トランプ政権を前に中国との経済的な関係は強めていかざるを得ないのも一面の真実だろう。文書が指摘しているのも、そうした現実だ。

興味深いのは、EU以上に中国との関係をこじらせてきたインドの変化だ。

3月21日、ロイター通信はニューデリー発で、インド政府が「230億ドル規模の国内製造奨励制度を終了すると決めた」と報じている。「奨励制度」とは中国依存脱却を進める企業を獲得する取り組みで、4年前に始まったものだ。

2020年に起きた国境での軍同士の衝突を機に対中デカップリングを積極的に進めてきたインドのモディ政権が、明らかな政策変更を行ったというニュースだったが、決断の背景にあったのは対中デカップリングへの限界だった。

対中デカップリングを仕掛けた多くの国が、最終的にはこうした現実的な路線に戻らざるを得なくなるのだが、トランプ関税がそれを促進する役割を果たすことは間違いなさそうだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年7月13日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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