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習近平を高笑いさせるだけ。インドですら“中国外し”を断念した米国「トランプ関税」の逆効果

日本に対しては25%、EUには30%、ブラジルに至っては50%もの高関税を課すと発表したトランプ大統領。あまりに理不尽とも言うべき「トランプ関税」は、国際社会の「脱中国」の流れを大きく変えてしまう可能性があるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、貿易不均衡の改善のみではないトランプ関税の「目的」を解説。さらにこの関税が、各国の「対中デカップリング断念」を促進させるとの見立てを記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプ関税の発表の裏で「中国へ対抗」という流れに限界が見え始めている

限界が見え始めた「対中デカップリング」。トランプ関税が変える国際社会の流れ

7月12日、アメリカのドナルド・トランプ米大統領が欧州連合(EU)とメキシコに対し、8月1日から30%の新税率を適用すると表明した。

メキシコはさておき、相互関税などさまざまな分野の関税をめぐり、直前までアメリカとギリギリの詰めの交渉を行ってきたEUにとっては、ダメージの大きな決定となったはずだ。

第2次トランプ政権(2.0)は、とにかくEUに冷淡だとささやかれてきたが、どうやら前評判通りの性質を備えていることがまたしても証明された形だ。

トランプ2.0の特徴の一つは、「友好国だから」という甘えが通用しないことだと早い段階から指摘されてきた。現状を見る限り、敵対国よりもむしろ友好国に対する風当たりの強さが際立っている。

そのことは、関税をめぐる対米交渉で苦戦を強いられている日本ならば、あらためて説明の必要もないだろう。

実際、11日には、関税の期限を前に各国へのアドバイスを記者たちから訊ねられたトランプは、「ただ努力し続けることだ」と語った後に、「多くの場合、友好国の方が敵対国よりもアメリカに対しひどい扱いをしてきた」と持論を改めて披露した。

こうしたなかで発表された対EUへの30%の新税率だった。

これが単純な貿易への不満を解消するためなのか、それとも別の目的があるのかはまだ判然としない。

というのも現在のトランプ政権内部には、EU政界への不満がくすぶっているとの見方が拭えないからだ。

関税は単純に貿易不均衡改善のためだけではなく、政治的なメッセージが含まれているということだ。

象徴的なのは、ブラジルに対する50%の関税だ。対ブラジルでアメリカは貿易不均衡問題を抱えていない。アメリカにとっての貿易黒字国だ。それなのに高関税を課す理由は、政治的プレッシャーにある。

トランプ氏が個人的に親しいジャイール・ボルソナーロ前大統領を援護するためだ。「ミニ・トランプ」とも呼ばれたボルソナーロは、クーデターを企てた罪などで起訴されている。

トランプはSNSで「世界から尊敬されたボルソナーロ前大統領に対するブラジルの扱いは、国際的な恥だ。この裁判は行われるべきではない。魔女狩りは即刻やめるべきだ」と発信している。

これほど露骨な内政干渉も珍しいと言わざるを得ない。

トランプ政権の他国への内政干渉は、トランプだけでなく、高官たちの口を通じても行われてきた。

目立ったのは、実はヨーロッパ政治への介入だ。

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欧州のリーダーたちを慌てさせたヴァンスの発言

今年2月、ミュンヘン安全保障会議に出席したJ・D・ヴァンス米副大統領は、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を「適格な政治パートナーとして支持する」と発言し、欧州のリーダーたちを慌てさせた。

極右勢力の台頭が著しい欧州で、この発言が歓迎されるはずはない。ドイツだけでなく欧州全体でトランプ政権への警戒感が高まった。今回の30%の新税率は、その上でふっかけられた難題だった。

米欧間に生じた不協和音は、ゼロ・サム思考が好きな西側メディアの目には、「中国有利」と映った。

だが、そう単純な話ではない。というのも6月30日から7月5日まで中国の王毅外相がヨーロッパを歴訪したにもかかわらず、中国とEUとの意見の相違を和らげることはほとんどできなかったからだ。

それどころか訪問中、王毅がロシア・ウクライナ戦争にからみ「ロシアの敗北は見たくない」と発言したとして批判が巻き起こった。

王毅の訪欧を報じたフランス『ル・モンド』紙の見出しは、「中国とEUの関係強化は不可能」だった。

ただ、その一方で、EUの対中姿勢の変更を促す声がフランス政界から上がったのも事実だ。話題となったのはフランス国民議会欧州問題委員会から出された153ページからなる報告書(6月17日)だ。

文書はジャン=リュック・メランション党首が率いる「不服従のフランス」(LFI)から4名、マクロン大統領の中道政党「ルネッサンス」から3名、極右政党「国民集会」から1名というように計8名で構成される委員会の公式文書だ。

欧州が中国と歩調を合わせるべきとの主張は、いまのところ欧州では特殊な意見と受け止められているようだが、トランプ政権を前に中国との経済的な関係は強めていかざるを得ないのも一面の真実だろう。文書が指摘しているのも、そうした現実だ。

興味深いのは、EU以上に中国との関係をこじらせてきたインドの変化だ。

3月21日、ロイター通信はニューデリー発で、インド政府が「230億ドル規模の国内製造奨励制度を終了すると決めた」と報じている。「奨励制度」とは中国依存脱却を進める企業を獲得する取り組みで、4年前に始まったものだ。

2020年に起きた国境での軍同士の衝突を機に対中デカップリングを積極的に進めてきたインドのモディ政権が、明らかな政策変更を行ったというニュースだったが、決断の背景にあったのは対中デカップリングへの限界だった。

対中デカップリングを仕掛けた多くの国が、最終的にはこうした現実的な路線に戻らざるを得なくなるのだが、トランプ関税がそれを促進する役割を果たすことは間違いなさそうだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年7月13日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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image by: Joshua Sukoff / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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