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なぜ在日外国人には国民年金に加入もできない時期があったのか。高かった「国籍要件」の壁

年金を受け取るために必要な10年間の受給資格期間に含まれる「合算対象期間」。「カラ期間」と言われれば耳にしたことがあるという方も少なくないと思われますが、なぜ国民年金にはこのような制度が存在するのでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金の歴史を紐解きつつこの「カラ期間」について詳しく解説。併せて過去に国民年金が在日外国人の方々を排除してきた背景を紹介しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日頃あまり使わないカラ期間を使っての年金計算事例と、過去に在日外国人を排除していた国民年金事情年金の取り扱い

日頃あまり使わないカラ期間を使っての年金計算事例と、過去に在日外国人を排除していた国民年金事情

1.年金では重要な期間であるカラ期間とは何なのか

年金受給権を確認する時は、保険料納付済み期間+免除期間+カラ期間≧10年(平成29年7月までは25年)というものがあります。

保険料を納めたり、免除したところは受給資格期間に加えるのは普通なら想像できるところですが、年金独自にカラ期間というものがあります。年金を知らないとこの期間がなんなのかは全くわからないと思います。

僕の記事ではほぼ必ず出るカラ期間ですが、年金がもらえるかどうかという事を考える時は、とても重要な仕事をしてくれる期間でもあり、疎かにする事はできません。よって、どういうものがカラ期間になるのかを知っておく事はとても重要となります。

さて、カラ期間というのは何なのかを少し復習してみましょう。

カラというのは空っぽの「空」を意味します。なぜ空っぽなのか。それは受給資格期間には組み込むけども、年金額には反映しませんよという期間だからそのように呼ばれています。

どうして組み込まれないのか。それは歴史を知る必要があります。

国民年金というのは昭和36年4月より20歳から60歳までの人に保険料を徴収し始めて、65歳から年金をもらうというものでした。

20歳から60歳まではもちろん強制的に加入でした。ただし、厚生年金や共済年金に加入している人は国民年金には加入していませんでした(昭和61年4月以降はそのような人も全員国民年金に強制加入になり、その上に厚生年金や共済年金が乗っかるという形になりました)。

国民年金に加入している人は、主に自営業者や農家の人や専業主婦などでした。

ところが、国民年金は無理に強制加入させない人たちがいました。それはよくあるのが、サラリーマンの専業主婦のような人たちですね。

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どうしてそのような人は国民年金の強制から外れたのか。それは厚生年金は世帯単位で面倒を見る年金であり、サラリーマンの夫が全て保険料を払って、老後の年金も全て夫が受給するというものでした。その厚生年金に妻分の生活費である加給年金をつけて、妻の生活も守るという形になっていました。だから、わざわざ妻を国民年金に加入させなくてもいいよねという事になり、任意加入としました。

加入するかどうかは妻本人次第なので、加入していない人も100万人単位で存在しました。まあ、昭和の当時は専業主婦の将来は無年金でも低年金でも構わないという考え方でした。今となっては信じられない事ですが。

国民年金に加入していない人が多く存在していた中で、昭和61年4月になるとそのような任意加入だった人も強制加入にしました。どうして急に強制加入に変えたのかというと、やはり個人の名義で年金を貰うべきであるという考え方が強まったからです。

「さあ、今まで加入していなかった皆さん!昭和61年4月からは20歳から60歳までの40年間のうち25年間は最低でも保険料を納めて、自分名義の年金をもらいましょう!」という事になったわけですね。

ところが昭和61年4月時点で急に強制加入にしても、25年を満たせない人が大勢存在しました。例えば昭和22年度生まれの人が20歳からサラリーマンの専業主婦になったら昭和42年度から昭和60年度までの18年間は任意加入となり、加入しなければ年金期間にはなりません。

昭和61年4月から強制加入となって60歳まで頑張って保険料を納めても、22年間しか納める事はできません。そうすると22年間保険料納付を頑張ったところで結局年金は貰えません。25年に満たないから。

じゃあどうしたのか。今まで任意加入としていたところを、せめて年金受給資格期間の25年に組み込む期間にしようとしたのです。

強制加入とするところを任意加入としたのは本人のせいではなく、国がそう定めていただけなので本人には何の責任もありません。よって、年金額にはならないけどせめてカラ期間として使って、年金受給資格期間に組み込んで年金がもらえるようにしたのです。

上記でいえば18年間がカラ期間で、22年保険料納付済みなので十分に受給資格期間25年以上を満たしているため、22年分の年金を受給する事ができました。

このように、過去の任意加入となってた部分がカラ期間になる事が多いのです。

よって、今回は少しいつもと違ったカラ期間を取り上げて考えてみます。

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2.在日外国人だった期間がある人の年金

◯昭和24年8月17日生まれの男性Aさん(令和7年は76歳)

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20歳になる昭和44年8月から昭和46年5月までの22ヶ月間は在日外国人だったため国民年金には加入は不可でした。任意加入も不可でした。

昭和46年7月から昭和53年9月までの87ヶ月間は厚生年金に加入。この間の平均標準報酬月額は23万円とします。

退職し、昭和53年10月からは国民年金加入となりますが、在日外国人だったので昭和56年12月までの39ヶ月間は国民年金加入不可でした。

昭和57年1月になると在日外国人も国民年金に加入する事ができるようになり(国年の国籍要件撤廃)、ここから強制加入となりました。

昭和63年6月までの78ヶ月は国民年金全額免除とします(将来の老齢基礎年金の3分の1となる)。

昭和63年7月から60歳前月の平成21年7月までの253ヶ月間は国民年金保険料未納としました。

※ なお、65歳到達日前日までに日本国籍または永住権を得たとします

▼さて、Aさんの生年月日から考えると厚生年金が60歳から受給できる人ですが、年金の受給資格期間は満たしているのでしょうか。ちなみに平成中に日本国籍を得た事で、在日外国人だった期間はカラ期間になります(永住権でもいい)。

よって、保険料納付済み期間+免除期間+カラ期間≧25年(平成29年7月31日までの場合は300ヶ月)は61ヶ月+87ヶ月+78ヶ月=226ヶ月となり、権利を満たしていません。なので60歳から厚生年金を受給する事はできません。

Aさんはこのまま年金を受給する事はできないのでしょうか。

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3.年金受給権が足りなかったので65歳以降も任意加入をして受給権獲得

どうしても年金を受給したかったので、300ヶ月までに足りない74ヶ月間は60歳からの国民年金任意加入を利用する事になりました。これにより60歳から65歳(平成26年7月)までの60ヶ月と、65歳から70歳までの間で14ヶ月間特例任意加入(受給権足りない人のための任意加入制度)を利用し、平成27年8月31日まで加入しました。

そのため、平成27年9月1日に年金受給権が発生し、10月分から年金を受給する事ができるようになりました。受給権を獲得した後はもう65歳から70歳までの任意加入はそこで終わり。

◯平成27年10月からの老齢厚生年金(報酬比例部分)→23万円×7.125÷1,000×87ヶ月=142,571円(差額加算は微額のため割愛します)

◯平成27年10月分からの老齢基礎年金→829,300円(昭和31年4月1日までの人の令和7年の基礎年金満額)÷480ヶ月×(厚年87ヶ月+全額免除78ヶ月÷3+任意加入74ヶ月)=323,081円

◯妻の配偶者加給年金から振り替えられた振替加算→90,597円(Aさんの生年月日による額)

あと、Aさんは住民税非課税世帯であり、65歳以上で、所得基準額が公的年金+前年所得≦789,300円(令和6年10月から令和7年9月までの基準額)なので令和元年10月から年金生活者支援給付金も支給とします。

◯令和元年10月からの年金生活者支援給付金→5,450円(令和7年度基準額)÷480ヶ月×(87ヶ月+74ヶ月)+11,518円(令和7年度免除基準額)÷480ヶ月×78ヶ月=1,828円+1,872円=3,700円(年額44,400円)

よって、年金総額は老齢厚生年金142,571円+老齢基礎年金323,081円+振替加算90,597円+給付金44,400円=600,649円(月額50,054円)

さて、Aさんは65歳過ぎても任意加入をした事で300ヶ月を満たしたために年金を受給する事ができるようになりました。まあ、そこそこカラ期間があったから良かったですね。

それにしてもこれによる恩恵は自分の年金を貰えた事だけなのでしょうか。

実は300ヶ月を満たしている事で、もしAさんが死亡した場合は遺族厚生年金も発生する事になります。

金額としては老齢厚生年金142,571円÷4×3=106,928円程度ですけどね…。

なお、遺族厚生年金額を超える老齢厚生年金を妻が受給している場合は妻が受給できる遺族厚生年金は存在しません。

例えば妻の老齢厚生年金が6万円なら、差額の46,928円を遺族厚生年金として受給できます。

しかし妻の老齢厚生年金が20万円とかなら、遺族厚生年金を超えているので差額が発生しないために遺族厚生年金は貰えません。

4.なぜ過去に国民年金は在日外国人を排除していたのか

ところで、在日外国人だった期間はどうして国民年金に強制加入も任意加入もさせて貰えなかったのでしょうか。

当時は昭和36年4月から昭和56年12月31日までの期間は国民年金には国籍要件があったからです――(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2025年5月28日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方はご登録の上、5月分のバックナンバーをお求め下さい)

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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