韓国の李在明大統領が勧める、北朝鮮への融和政策が国内外で波紋を広げています。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、韓国社会が築いてきた自由や民主主義の価値観が揺らぎつつある今、李政権の真の意図は何なのかを探っています。
馬脚を現した李在明の従北・親中政策
韓国の知人から、「宮塚さん、李在明の奴はやっぱり従北の盲従者だったよ。ビラ散布も禁止したし、対北放送も中断したよ。これからどうなるか分からない」と電話を受け取ったのは、李政権が発足してから間もない頃だったか。
李大統領は就任初日に情報機関である国家情報院の院長に、親北派で有名な学者の李鍾奭氏を指名した。
李鍾奭氏は大手シンクタンクの世宗研究所に長く勤務。革新系の蘆武鉉で統一相を務め、北朝鮮を「主敵」表現するのを躊躇する筋金入りの親北派として知られる。
6月半ばに開かれた李鐘?氏の人事聴聞会が国会で行われた時、保守系野党「国民の力」のある議員が、李鐘?氏が国情院長になったら「国情院が北朝鮮の対南連絡所になる恐れがある」と指摘するほど、警戒感を表した。
これを物語るのは産経新聞の「ソウルからヨボセヨ」の外信記事「韓国も『統一』を拒否?」である。記事は「韓国では政権が代わると政府組織の名称をよく変えたがる。国民に対し新しい政治、政策をやるんだという新鮮さを印象付けるためのイメージ作戦だ。李在明政権下でも早速その動きが出ている。そんな中で問題になっているのが北朝鮮との南北関係を担当する『統一部』の改称だ。
北朝鮮が”統一”を言わなくなったことに歩調を合わせるように”統一”と言葉を外そうというわけで、これじゃ対北追従策ではないかと批判が出ている。(中略)
『統一部』改称問題はいったいどうなるか。北朝鮮が”統一”を言わなくなったのは、内部的に韓国への期待や憧れを排除する狙いからだと言われている。韓国への警戒から”統一”を拒否しているのに、それに同調するのは北朝鮮の影響ではないか、と保守派は疑っている。
新政権の親北ぶりを見計らういい材料である」。長い引用であるが、黒田勝弘記者が予想したように、李在明大統領は政権発足後矢継ぎ早にそれまでの対北抑止の政策を転換し、宥和政策をとるようになった。
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李大統領は2025年6月11日、韓国軍による対北拡声器放送を中断させた。また同月14日には、脱北者団体などが北朝鮮の軍人や住民に向けた情報提供を目的に宣伝ビラを大型風船に括り付けて飛ばす対北ビラ散布について「処罰を指示」(大統領室)し、与党「共に民主党」も「現行法上の違反素地が極めて高い」という見解を示した。
これを受け統一省が対策に乗り出した。拡声器放送中断の翌日、北朝鮮からのいわゆる「騒音放送」が聞こえなくなったが、政府・与党はこれを「平和政策の成果」と評価したが、これは北朝鮮国内に真実を伝え、民主化を促す主要なルーツを自ら放棄すれば、金正恩独裁政権の容認に等しいとの批判を受けるものであった。
また政府・与党は対北ビラ散布について、風船飛ばしに使うヘリウムガスがガス管理法違反に相当するのをはじめ複数の違反行為があると主張しているが、ビラ散布禁止は「憲法で保障された表現の自由と全面衝突する」と韓国紙は伝えた。
また、金正恩総書記の妹、与正氏の要求を受け、当時の文在寅政権が作った「対北ビラ禁止法」も憲法裁判所が違憲判断を下しているのに、李政権はビラ散布に圧力をかけているのである。拡声器放送の中断、ビラ散布への圧力に加え、さらには7月初めには国情院が行ってきたとされる北朝鮮向けのラジオやテレビ放送を停止していたことが分かった。
この放送は半世紀以上にわたって韓国の歌や天気予報、ドラマのダイジェストを流し、韓国の発展ぶりや「自由」「人権と言った言葉を北朝鮮国内に拡散させてきた放送である。脱北者らは、多くの住民が影響を受けたとも証言している。米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」によると、1973年から国情院が運営してきた「希望のこだま」などのラジオ放送は、南北関係に関わらず、これまで一度も止まったことはなかったという。
これに加え、米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカなども、トランプ政権が規模縮小を命じたことを受けて放送を止めており、38ノースは北朝鮮向けラジオ放送が大幅に減ったと指摘した。李在明政権の対北融和政策に対し、金与正朝鮮労働党副部長は2025年7月28日、朝鮮中央通信を通じた談話で、「関心はなく、韓国と向き合うことも、議論する問題もない」と述べ、対話を拒否する立場を鮮明にした。韓国の知人は支援しているビラ散布の団体に、「このような状況だからこそビラ散布は重要だ。宮塚さんも協力を願いする」と言って来た。
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