李政権が同時に進めたのは、北朝鮮に向けて金正恩体制を批判・暴露するビラを風船で飛ばしてきた韓国の団体に散布の中止を求めたことである。韓国政府は対北ビラ散布について、風船を飛ばす時に使用するヘリウムガスがガス管理法違反に相当するのをはじめ、複数の違法行為があると主張しているが、ビラ散布禁止は「憲法で保障された表現の自由と全面衝突する」ものである。
李政権はビラ散布への対応に苦慮した。特に、北朝鮮による韓国人拉致被害者家族で作る団体が、今年4~6月と3回のビラ散布を強行し、反対する住民と確執が深まっていた(この団体は東京でも風船ビラを散布する計画を立て、朝鮮総連前で実行しようとしたが、事前に日本側の公安関係者からの取り締まりで風船の打ち上げは未遂に終わっている)。この団体は7月8日に、ビラ散布の中止を宣言したが、李政権は強硬策を用いずに、説得という正攻法で成果を手にしたと自画自賛しているようだ。
さらに、7月に入り韓国の国家情報院が北朝鮮向けのラジオやテレビの放送を中止した。国家情報院は李鐘?院長の指示により、実質的な検討を経て、7月5日から15日に かけてすべての北朝鮮放送の送出を中止したが、これは北朝鮮が韓国向けの放送を中止したことに伴う「相応措置」と説明している。
中止になった北朝鮮向けのラジオ放送の周波数5つ、「人民の声」「希望のこだま」「自由FK」「自由コリア放送」と北朝鮮向けテレビ放送1つの計6つ。これは中央情報部時代(現・国家情報院)の1973年に始まって以来、52年ぶりに全面的に送出禁止となったことを意味する。
余談であるが、1973年は私が韓国に留学した年であるが、私が日本から持っていったソニーのラジオから聞こえてくる短波ニュースに、韓国の知人が「我が国からの北朝鮮向けのラジオ放送はつまらない、面白くない」と言っていたこと思い出した。韓国に脱北して来た多くの人が、「南朝鮮の放送を傍受して脱北を決意した」と語っているからには、ラジオ放送やテレビ放送が北朝鮮に与えた影響は大きかったのである。北朝鮮は李政権による宣伝放送中止についても「評価に値しない」と一蹴し、金与正朝鮮労働党副部長は韓国側の南北緊張緩和措置について「虚しい、夢に過ぎない」と批判した。
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