なぜ中国とインドは“急接近”したのか?「トランプ関税」と「米国の印露貿易への牽制」が背中を押した皮肉

 

インドを「アメリカ以上の中国排除」に突き動かした軍事衝突

2020年のコロナ禍のなかでは、この国境付近で中印両軍が衝突し互いに犠牲者を出した。

インドの反発は凄まじく、対中強硬政策を進めていたアメリカ以上に積極的に中国排除に動いた。その結果、両国の交流は大きなダメージを被った。

わかりやすいエピソードがある。私が中国で知り合ったインドの学者との別れ際に連絡先を交換しようとしたときのことだ。「ウィチャット」の画面を開くと、相手が悲しそうに首を振って「インドではウィチャットは禁止だ」と語ったのだ。また、別れた地方都市からインドに帰るその学者に、「どこを経由して帰るのか」と訊ねると、「スリランカだ」と答えたのだ。

当然のように北京や上海が経由地だと予測していた私は面食らったが、そんな私に彼は、「インドと中国の間に直行便はないんだよ」と苦笑したのだった。

日本人にしてみれば中国から日本に戻るのに、フィリピンを経由しなければならないというのと同じくらいの話だ。

そんな両国が今回の王毅外相の訪印で、10項目の合意に達したという。

その中身は『人民日報』から抜粋してみると以下のようになる。

  • 中印国境地域は平和と安寧を維持し続けている。
  • 双方が受け入れ可能な国境問題解決の枠組みを模索することで一致した。
  • 双方は、中印国境問題協議調整作業メカニズム(WMCC)の枠組みの下に国境画定専門家部会を設置し、条件の整った地域における国境画定交渉の推進を検討。
  • 国境西部の既存の将官級会談に加え、国境東部及び中部にも将官級会談メカニズムを設置し、新たな西部将官級会談を早急に開催することで一致。
  • 双方は、外交、軍事ルートの国境管理、コントロールメカニズムの機能を発揮し、まず原則と方式について合意に達し、緊張緩和・状況安定化と管理・コントロールのプロセスを推進する。
  • 双方は、国境を跨ぐ河川に関する協力について意見交換を行い、両国越境河川専門家メカニズムの機能を発揮し、越境河川における洪水警戒情報の共有に関する覚書の再署名について意思疎通を継続することで一致。中国側は人道主義の原則に基づき、インド側と関連河川の緊急水文情報を共有することに同意した。
  • 双方は、仁青崗-チャング、普蘭-グンジ、久巴-ナムギアの三つの伝統的国境貿易市場を再開することで一致。

皮肉にも中印接近はアメリカの対印関税とインド・ロシア貿易をけん制するトランプ政権によって背中を押されている。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月24日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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