露プーチンと北の金正恩は参加、印モディは不参加。中国「抗日戦争勝利80年」軍事パレードの裏で蠢く“単純ではない”国際政治と習近平が発するメッセージ

 

訪中前に来日。最も注目されたインドのモディ首相の動き

それが端的に表れたのが、馬朝旭・外交部副部長(外務次官)が8月29日に行った記者会見での発言だ。

馬は「人類運命共同体の構築という重要理念」について説明するなかで「ブロック政治による『小集団』のルールを超越し、力による覇権主義的論理を超越し、少数の西側諸国が自任するいわゆる『普遍的価値観』を超越して、素晴らしい世界を共に築くための最大公約数を形成するものである」と表現した。ここには間違いなくアメリカを中心とした西側先進国による秩序をけん制する狙いが含まれている。

だが、その一方で馬は、アメリカとの関係について「われわれは米国側と向かい合い、両国元首の重要な共通認識をしっかりと実行し、意思疎通を維持し、意見の相違をコントロールし、協力を開拓し、新しい時期の両大国が正しく付き合う道を引き続き模索したい」とも述べている。

参加各国の距離感が一定ではないという意味では、最も注目されたのがインドのナレンドラ・モディ首相だ。

モディはSCOサミット出席のため、7年ぶりとなる中国訪問に踏み出したが、その反面軍事パレードには出席しない。

この判断には、「未だ中国との間に国境問題を抱えているインドの警戒が働いた」(同CNA)との解説が最も一般的だ。しかしインドは軍同士の衝突が起きる前、2015年の同じ式典にも不参加だった。つまり通常運転に戻っただけとの見方も成り立つだろう。

実際、モディは訪中前に訪れた日本で中国について触れ、「インドと中国が協力して世界経済秩序の安定化を図ることも重要だ」と発言している。

モディ訪日を報じた時事通信社の記事は「ただ、メディア(インド)の関心はモディ首相の約7年ぶりの中国訪問に向いているよう」と、インドの関心が日本を通り越して中国ばかりに向いている現状を伝えていて、インドにとっての対中関係の大きさをうかがわせた。

軍事パレードについては、「(中国は)平和的発展路線を歩む揺るぎない決意、国家の主権と領土的一体性を守る強固な意志、世界の平和と安寧を維持する強大な能力をはっきりと示すため」(洪磊)と説明しているが、パレードと同時に最新鋭の戦闘機「殲20」の展示を初めて行うことを予定していたり、最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や無人機部隊が披露されることなどを思えば、中国の自国防衛能力高さを強調する機会だともとらえていることがうかがえるのだ。

PKO部隊や女性だけで構成される民兵方隊もパレードに参加する。

男性は183センチから193センチ。女性は173センチから180センチの兵士だけで組織され、軍靴を平均で4足履き潰するほど厳しい訓練を経て行われる軍事パレードは圧巻だろうが、その裏で蠢く国際政治と中国のメッセージは単純ではない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月31日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、8月分のバックナンバーをお求め下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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