「年金だけでは生活が厳しい」と感じる方は少なくありません。しかし、受給開始を少し遅らせるだけで、将来の年金額を増やせる方法があるのをご存じでしょうか? 今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、通常の年金額と繰り下げによる増額の違いを具体的な事例を交えながら解説しています。
通常の年金額と繰下げによる大幅な年金額増加
1.なかなか利用価値のある年金の繰下げ。
年金額はとても少なくて、生活がギリギリだよーみたいな声があったりします。
年金額がそんなに高いものではないというのは確かにそうなのですが、世帯で見ればそこそこ生活していけるようなものであると思います。
年金で生活できない人がそんなに多いのならば、今頃いろんなところでデモとかがあっててもおかしくありません。
ですが年金が少ないから上げろー!というような怒りの声はそんなに聞きません。
年金が少ないから、60歳以降も継続して働くという人も多いかもしれませんが、働かなくても年金をしばらくもらわないだけで増えてしまう制度があります。
それは年金の繰下げです。
1ヶ月遅らせると0.7%ずつ年金が増えていくというもので、今までも取り上げてきたことではありますが、年金が上がらない昨今においては非常に意味のある制度になっています。
さらにしばらくは年金をもらわなくてもいいという就労者も急増したので、その間は年金をしばらくは貰わずにおいて年金の繰下げによる年金増額を利用するのもありだと考えます。
なお、よくある勘違いの一つに65歳未満の老齢の年金を貰っていない人がいます。
昭和36年4月1日以前生まれの男性や昭和41年4月1日以前生まれの女性は、65歳前から老齢厚生年金が貰えたりするので、それをしばらくもらわないでおこうという人がいます。
しかしそれは間違っているので今すぐ年金を貰ってください。
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遅らせる事で増えるのはあくまでも「65歳から発生する老齢厚生年金と老齢基礎年金」です。
65歳前と65歳から発生する年金は別物なのですが、65歳前から受給してる人は65歳になるとまた再度年金請求を求められます。
この65歳時に請求する年金を貰うのを遅らせる事で、年金を増やす事ができるのです。
例えば65歳から老齢厚生年金を100万円、老齢基礎年金を70万円受給可能な人が最高75歳までの10年間遅らせるとどうなるのか。
(75歳まで遅らせる事ができるのは昭和27年4月2日以降生まれの人。それ以前の生まれの人は70歳まで)
1ヶ月遅らせるごとに0.7%ずつ増えるので、120ヶ月間遅らせると84%の年金が増加する事になります。
そうすると75歳時点の老齢厚生年金は184万円になり、老齢基礎年金は1,288,000円になります。
ただ、貰うのを遅らせるだけでこれほどの年金額になるのです。
よって、現在は就労しているとか、蓄えがあるなどでしばらくは年金が必要ない人は年金の繰下げを利用する事はとても意味のあるものといえます。
でも、年金の繰下げ中に死亡したら貰い損になるじゃないか!という人もいます。
確かに貰い損という形にはなるかもしれませんが、それはそれでいいじゃないですか。
年金の役割はあくまでもお金が貰えなくなった時の保険なのであり、お金が貰えなくなったとしても大丈夫という安心感を買っているので、死ぬまで安心していられたという事に意味があります。
じゃあ、もし年金の繰下げ中に死亡したら全く損をするのかというと、貰わなかった分は最高で時効の5年分を遺族が未支給年金として受け取ります。
5年を超える分は損になってしまいますが、一定のお金は遺族が受け取って生活の役に立つ事になります。
年金の繰下げは、少ない年金額を大きく増やす手段の一つなので余裕がある人はやってみてほしいですね。
大体の利用者は1~2%ほどの利用率でしたが、最近は3%くらいまで増加傾向にあります。
そんな年金の繰下げを本日は考えていきたいと思います。
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2.夫の年金記録と年金総額
◯昭和27年5月28日生まれのA夫さん(令和7年は73歳)
・1度マスターしてしまうと便利!(令和7年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。
・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和7年版)。
月間は学生として国民年金には任意加入扱いでした。
しかし、任意加入しなかったのでカラ期間扱いとなりました。
昭和50年4月からは非正規社員として就職し、昭和56年8月までの77ヶ月間は国民年金全額免除でした(老齢基礎年金の3分の1に反映)。
昭和56年9月からは会社が厚生年金に加入させてくれる事になり(正社員になった)、平成20年3月までの319ヶ月間は厚生年金に加入しました。
なお、昭和56年9月から平成15年3月までの259ヶ月間の平均標準報酬月額は45万円であり、平成15年4月から平成20年3月までの60ヶ月間の平均標準報酬額は50万円とします。
退職し、平成20年4月から60歳前月の平成24年4月までの49ヶ月間は未納。
60歳過ぎてからの平成26年9月から65歳前月である平成29年4月までの32ヶ月間はまた厚生年金に加入しました。
この間の平均標準報酬月額は15万円とします。
余談ですが、厚生年金は全体の給与(標準報酬月額や標準賞与額)を使いますが、低い標準報酬月額を使ったら年金額が下がってしまうのではないか?という疑問を持たれますが、加入した分は必ず増加しますので、低い給与でも働いたら年金額アップしますので安心してください。
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さて、A夫さんは生年月日によると60歳(平成24年5月)から年金が貰える人ですが、年金受給資格はあるのでしょうか。
年金記録を整理します。
・厚年期間→319ヶ月+32ヶ月=351ヶ月
・カラ期間→35ヶ月
・全額免除→77ヶ月
・未納→49ヶ月
保険料納付済み期間351ヶ月+免除期間77ヶ月+カラ期間77ヶ月≧10年なので、十分に資格を満たしています。
60歳から年金が貰えるのですが、便宜上65歳からの年金額を計算します。
・老齢厚生年金(報酬比例部分)→45万円×7.125÷1000×259ヶ月+50万円×5.481÷1000×60ヶ月+15万円×5.481÷1000×32ヶ月=830,419円+164,430円+26,309円=1,021,158円
・老齢厚生年金(差額加算)→1,729円(令和7年度定額単価)×351ヶ月ー829,300円÷480ヶ月×319ヶ月(昭和36年4月1日以降の20歳から60歳までの厚年期間)=606,879円ー551,139円=55,740円
・老齢基礎年金→829,300円(令和7年度満額。昭和31年4月1日以前生まれの人)÷480ヶ月×(厚年319ヶ月+全額免除77ヶ月÷3)=595,484円
・65歳未満の生計維持している妻がいたので配偶者加給年金(10歳年下の妻とする)→415,900円
よって、年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分1,021,158円+差額加算55,740円)+加給年金415,900円+老齢基礎年金595,484円=2,088,282円(月額174,023円)
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3.資金に余裕があったから年金の繰下げを利用する事にした。
65歳の誕生月になるとハガキタイプの簡易な年金請求書が送られてきて、それを返送すると新たに上記の年金の支給が開始されます。
返送しないと年金は支給されません。
この請求書を出さなければ、年金の繰下げ状態になります。
なお、繰下げは老齢厚生年金と老齢基礎年金どちらか一方を選ぶ事も可能なので、請求書に繰下げしたい年金を丸で囲んで返送します。
両方繰り下げる場合は、提出自体しません。
A夫さんは両方繰下げをしようと考えたので、請求書は出しませんでした。
令和7年現在は73歳なので、繰下げ期間は8年以上になります。
この令和7年時点で年金を繰下げようと考えましたが、いくらになるのでしょうか。
繰下げ期間は65歳時の平成29年5月から令和7年8月までの100ヶ月です。
そうすると増額率が1ヶ月で0.7%なので、100ヶ月×0.7%=70%の増額になります。
・老齢厚生年金(報酬比例部分)→1,021,158円×170%=1,735,969円
・老齢厚生年金(差額加算)→55,740円×170%=94,758円
・老齢基礎年金→595,484円×170%=1,012,323円
・加給年金→これは変わらず415,900円
(A夫さんが65歳時点で10歳年下の妻がいましたが、繰下げ時にA夫さん73歳なのであと2年間しか加給年金はもらえません)
よって、令和7年8月時点で繰下げを行うと、年金総額は合計で3,258,950円(月額271,579円)となります。
随分と年金額が増加しましたね。
この年金額を令和7年9月分から受給する事になります。遡る事はありません。
ところがせめて加給年金が貰いたかったという事で、A夫さんは老齢厚生年金の繰下げをやめたいとーーー(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2025年9月3日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)
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