プーチンはNATO領空侵犯、ネタニヤフはカタール空爆。北京に電話で「アメリカは中国との紛争を望まず」と伝えたトランプ外交の崖っぷち

 

米中双方が「建設的だった」と評価した電話会談の内容

トランプがにわかに対印、対中の追加関税を欧州に求めた背景には、パレスチナで和平を実現し、その実績を引っ提げてノーベル平和賞を、というシナリオが完全に狂ってしまったことがある。

理由は言うまでもなくイスラエルのネタニアフ政権がアメリカの意向を無視し続けているからだ。

今月9日にもイスラエルは、ハマス指導者たちを攻撃するという理由で、大胆にも中東で最大の米軍基地のあるカタールに対し空爆を行った。

このイスラエルの行動に、さすがのトランプも堪忍袋の緒が切れたようで、「あらゆる面で非常に不愉快だ」と、異例の非難を行った。

トランプ1.0では「エルサレムをイスラエルの首都」と認め、さらに大使館をテルアビブからエルサレムに移転するなど歴代大統領のなかでも特にイスラエル寄りの外交を展開してきたトランプにとっては飼い犬に手をかまれたような感覚だろう。

だが、問題を抱えているのは中東ばかりではない。肝心のロシア・ウクライナ戦争でも制御不能な一面が顔をもたげ始めている。

イスラエルのカタール爆撃から間もなく、今度は北大西洋条約機構(NATO)の戦闘機が、ポーランド領空でロシアのドローンを撃墜したのである。

これは2022年2月にロシアがウクライナへの本格侵攻を展開して以降、ロシアとアメリカが主導する軍事同盟との間で起きた最も深刻な衝突である。

この行動が、トランプがウクライナで進めてきた和平の努力に大きく水を差すことは言うまでもない。

つまり、冒頭の話に戻せば、いまさらEUがアメリカの求めに応じて中国とインドに100%の追加関税を課しロシアにプレッシャーをかけたとしても、もはや大きな意味を持たないところまでロシアと欧州の関係は悪化してゆくかもしれないのだ。

そうしたなか米『ブルームバーグ』は、ワシントンが北京との外交ホットラインを立ち上げ、ピート・ヘグセス国防長官とマルコ・ルビオ国務長官が、それぞれ中国の担当者に電話をかけたと報じた。

電話をかけた目的は、アメリカが中国との紛争を望んでいないことを伝えるためだったとされている。米中双方は、この電話会談を「建設的だった」と評価したという。

10月には米中首脳会談が開催されるのでは、とささやかれるなか、少なくともトランプ政権が対中包囲網を本気で考えるような状況ではなさそうである。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年9月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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