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トランプ以外の全世界が敵。ネタニヤフの「レッドライン超え」が招いたイスラエル“念願の建国以来”の危機

緊張が高まるばかりの中東地域で、その「元凶」として国際社会における立場が日に日に厳しさを増すイスラエル。ネタニヤフ首相の強硬に過ぎる路線は、イスラエルに「国家存亡の危機」を招く状況となっています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ネタニヤフ氏の蛮行及びトランプ大統領の一連の要求に対するアラブ諸国の反応を詳しく紹介。さらに今後の混乱の広がりを懸念しつつ、国際協調体制の回復の重要性を訴えています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:ネタニエフの誤算-四面楚歌と孤立、そして存亡の危機

頂点に達したアラブ諸国の怒り。孤立し国家存亡の危機を迎えたイスラエルとネタニエフの誤算

「イスラエルとの武器取引を即時中止する」(スペイン)

「El Al(エル・アル)航空のフランス国内における整備スタッフに対するビザ更新を停止する」(フランス)

「ガザへの支援物資を運ぶ船舶を国軍の艦船がエスコートする」(イタリア、スペイン、ギリシャ、ポルトガルなどによるもの)

「イスラエルの行動は明確に行き過ぎたし、ガザでこれまでに起きていることをごまかすことはできない」(ドイツなど)

国連総会に際し、フランス、英国、オーストラリア、ポルトガルなどが相次いでパレスチナ国家の承認を表明し、イスラエルにガザ停戦と人道支援の再開に向けた圧力をかけただけでなく、国家の承認には踏み込まなかったイタリアはガザへの支援物資を送るための船舶を提供し、国軍に護衛させることにし、スペインは国を挙げて脱イスラエルを明確に表明し、そして我が国日本も、イスラエルによる蛮行を強く非難するだけでなく、パレスチナ国家の承認についても「するかどうかではなく、いつ行うか」(石破総理)という踏み込んだ対応をして、イスラエルに対する抗議を明確にしています(イタリアやスペインなどの海軍によるガザ支援物資を運ぶ船舶の護衛は、船舶がイスラエル領海に入るのを確認した時点で、イスラエルに対する過度な刺激を与えないようにとの配慮から停止したとのこと)。

国際サッカー連盟はイスラエルへの抗議の意思を示すべく、イスラエルチームの参加資格を停止するという発表をしましたが、こちらについては“トランプ政権からの圧力”を受けてその発表を取り下げていますが、スポーツ界にもイスラエルへの抗議の輪が広がっているのが分かります。

また、アフリカ諸国54カ国は、総意として、イスラエルとの決別を表明し、「(ウクライナへの侵攻によって“排除された”ロシアを引き合いに出し)オリンピックからのイスラエルの排除」や「国連から脱退すべき」といった厳しい声も上げるに至りました(次回オリンピックはロスアンゼルス開催ですので、この抗議は間接的に、イスラエルを擁護するアメリカ政府、トランプ政権にも向いているものと推測します)。

アフリカ東部諸国とイスラエルは地中海を挟んで向き合っていますが、これでイスラエルは地中海の向こう側に大きく高い壁を持つことになりました。

エチオピアやジブチ、ケニア、タンザニア、スーダンなどが壁の向こうにそびえることになるのですが、これらの国々は相互に緊張関係にあることから、イスラエルに構っている余裕はないと考えられますが、地域の不安定さが深刻なことから、イスラエル絡みの問題で悪影響を被りたくないという観点から、高く堅い壁として存在することになりそうです。

ただ、もしその“悪影響”が東アフリカ諸国に及ぶようなことになれば、アフリカ連合の本部があるエチオピアを軸に、外交的なバックラッシュがイスラエルに及ぶこともあり得るかと考えます。

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成立してしまう「一触即発の緊張」が高まる恐ろしい図式

そして最も懸念すべきは、アラブ諸国がイスラエルに突き付ける“時限爆弾”です。

イスラエルの止むことがない欲望は今、ヨルダン川西岸地区の併合にまで及び、それを「アラブ諸国に対する侮辱と脅威」と糾弾したアラブ首長国連邦(UAE)は、2020年のアブラハム合意の破棄の可能性を示唆し、イスラエルとの関係を断って、他のアラブ湾岸諸国と共にイスラエル包囲網に加わる可能性に言及しています。

UAEの存在は、湾岸諸国内では対イスラエル最後の砦と言われていて、アラブ湾岸諸国が挙ってイスラエルに攻撃を加えるような事態にならないように抑制を訴えてきた存在でしたが、国連総会での一般討論の場で、イスラエルのネタニエフ首相がシリア、ヨルダン、イラク、イランを赤く塗った地図を掲げ、今後攻撃も辞さない旨を表明したことを受け、「イスラエルとの関係を断つ」という、激しい外交上のラインを越えることを決めたと思われます。

そしてイスラエルにとって嫌な“イランとの関係修復と接近”を示唆し、イランがUAEに対する攻撃を行わないことを条件に、「イランを含む地域のイスラム諸国と協力して地域の安全保障およびイスラエルからの侵攻に対峙する覚悟を固めること」にしたようです。

この動きの背景には、同時進行で起きていたイランに対する国連安保理決議の再実施に英仏独が賛成し、10月1日付で再発効することがほぼ確実になったことで、中東地域における核の対峙に対する脅威が高まり、アラブ諸国もイスラエルの蛮行に対抗するための核の傘が必要との認識が高まったことで、サウジアラビア王国がパキスタンとNATO型の相互集団安全保障の実施に合意したのを皮切りに、UAEやカタールも追随し、そこに非公式ではあってもイランが関与することで、核兵器を伴う一大安全保障圏が成立しようとしています。

この軍事同盟の仮想敵国はイスラエルということになりますが、この一大安全保障圏の背後には、ロシアと中国が控えており、こうなるとロシア・中国、そしてパキスタンに支えられたアラブ諸国の核の傘と、アメリカと自国の核戦力に支えられるイスラエルの核戦力が対峙して、一触即発の緊張が高まる恐ろしい図式が成立することになります。

Uncontrollableな緊張の高まりと核による対峙の構図を阻もうとトランプ大統領も、アラブ諸国に最大限の配慮を見せて、ネタニエフ首相のヨルダン川西岸地区への攻撃と併合を認めない旨、表明したのに加え、第1次政権時以降大嫌いなはずのトルコのエルドアン大統領ともホワイトハウスで会談を行ってご機嫌取りを行い、パキスタンの影響力の拡大への対抗策として、相互関税措置を通じて真っ向から対立するインドのモディ首相との会談も受け入れるという動きに出ていますが、正直なところこれまでのところあまり奏功しておらず、中東地域と広域アジア地区(特に西アジアと南アジア)による緊張緩和にはつながっていません。

そしてトランプ大統領の“努力”を無にするつもりなのか、ネタニエフ首相は「イスラエルの国家安全保障のための一連の行動に理解を示さず、ハマスの存続を陰でサポートするような行為に出るなら、イスラエルは再びハマスを匿うカタールへの攻撃を躊躇しない」と述べて、アラブ諸国との全面的な対決への決意ともとることができる発言を行ったため、すでに「イスラエルによるカタールへの攻撃は、アラブ全体への攻撃と捉え、アラブ諸国からの報復の対象となる」と発言していたサウジアラビア王国のモハメッド・ビン・サルマン皇太子を激怒させただけでなく、ドーハ会議に参加していた他のアラブ諸国をも激怒させる結果になってしまったようです。

別件で協議していたカタールやヨルダン、エジプトの高官も怒り心頭で、「近々有事に発展する可能性が高まったので、こちらの案件にも対応する準備をしてほしい」との要請を受け、急ぎ、対応のための緊急度を上げたところです。

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トランプが突きつけたハマスにとっては受け入れ難い最後通牒

エスカレーション傾向の非難の矛先は、アメリカにも向かっており、すでにカタールのムハンマド首相兼外相は「このまま、アメリカがイスラエルの蛮行を見て見ぬふりをしたり、支持するようなことを続けたりするのであれば、現在、年間4,000億ドルに上るアメリカ企業との経済的なつながりを全て絶たざるを得ない」と発言し、トランプ大統領とアメリカ政府に対して、一刻も早くガザ地区に対するイスラエルの蛮行を止めさせ、ヨルダン川西岸地区への攻撃、そしてカタールをはじめとするアラブ諸国に対する攻撃を止めるように説得することを強く求めています。

果たしてトランプ大統領はどのような動きに出るのでしょうか?(一応、9月29日のネタニエフ首相との首脳会談時に、直接電話でカタールのムハンマド首相に謝罪をさせるというパフォーマンスを演出しましたが、あまり効果はなかったようです)

いつも各国に一方的にデッドラインを突き付けて、要求の受け入れを迫るトランプ大統領ですが、ここにきてアラブ中東地域における大戦争回避のために、アメリカ政府に残された時間はあまりないように思われます。

そのような中、9月29日にホワイトハウスを訪問したイスラエルのネタニエフ首相に対して、トランプ大統領はガザ和平に対する20項目からなる“新提案”(ガザ紛争終結に向けた包括計画)を提示し、ネタニエフ首相がいくつかの訂正を行った上で、イスラエルが受け入れを行う旨、合意に至りました。

トランプ大統領の表現を借りると「ガザの命運を決めるボールは今、ハマスの側に渡った」と、まさに最後通牒をハマスに突き付けた形になっています。

トランプ大統領が示した一方的なデッドラインは72時間で、「ハマスが受け入れなかった場合には、アメリカの全面支援の下、イスラエルが戦闘を継続し、目的を達成することになる」とのことですが、提案の内容を見る限り、ハマスにとっては受け入れがたいものではないかと感じます。

トランプ新提案の主だった内容ですが、【ガザ停戦】、【戦後統治】、【ハマス構成員の扱い】、そして【パレスチナ国家の扱い】についての4つに分類できるかと思います。

最初のガザ停戦については、【イスラエルとハマス双方が和平案に同意するなら、直ちに戦争を終結】し、【合意の受け入れから72時間以内にハマスが人質全員を返還】し、【イスラエル軍は段階的にガザから完全撤退する】という内容です。

ハマスとしては、「誠実に検討する」と仲介国のカタールとエジプトを通じてアメリカに伝達したようですが、【人質全員の解放は、対イスラエルのカードを手放すこと】を意味し、これまで求め続けてきた“恒久停戦”と“イスラエルのガザからの完全撤退”のための交渉材料を失うことと解釈できるため、果たしてハマス内部の調整がつくかは、これまでの成り行きを見る限り、非常に微妙ではないかと感じます。

イスラエル側は、ネタニエフ首相がトランプ大統領との会談において、トランプ和平プランに合意したものの、閣内の極右勢力からは「ハマス壊滅まで戦闘を継続し、ハマスはもちろんのこと、パレスチナも崩壊させることが重要」という主張が強く、イスラエル国内における政治的な基盤が弱いネタニエフ首相が、この極右の意見を退けて合意の実施を確約できるかも、また微妙です。

その背景には、ネタニエフ首相自身が長年、パレスチナの存在を“イスラエルおよびイスラエル人の生存に対する最大の脅威”と定義づけていることもありますが、何よりもこれまで極右勢力との調和を図り、自らの政治生命の延命に重きを置く姿勢から、停戦のニンジンをぶら下げつつ、常にハマスを攻撃するための口実を探し、「停戦の破綻はハマスが招いたもの」として、イスラエル軍にガザ攻撃を続けさせるというサイクルが繰り返されていることがあります。

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新たな火種となる可能性が否定できぬガザ国際暫定統治機構構想

また“イスラエル軍のガザ地区からの撤退”も段階的となっていますが、この“段階的”の判断を誰がするのか、そしてどのような基準で行うのかは明らかにされておらず、いつ何時イスラエルが難癖をつけて撤退を止め、軍を引き返させてガザへの破壊行為を再開し、そしてどさくさに紛れて、ヨルダン川西岸地区への攻撃を激化させることも予想できます。

ヨルダン川西岸地区への攻撃については、アラブ諸国からの圧力もあり、トランプ大統領も「アメリカは容認しない」と発言しているものの、トランプ外交の特徴は“一体何を考え、何をするかわからない”という不透明性であるため、今回の“トランプ大統領の20項目”にハマスが反対するようなそぶりを見せ、和平に向けた動き(たとえ一方的なものであったとしても)が停滞するようなことになれば、ホワイトハウスで発言したように「ネタニエフ首相は必要な行動を取るためのアメリカの全面的な支援を得る」ことになり、その“必要な行動”の定義をネタニエフ首相に一任するのであれば、何が起こるか分かりません。

今回のトランプ大統領による和平案は概ねアラブ諸国とトルコ、パキスタンなどからは前向きな反応を受けていますが、イスラエル軍撤退の基準が曖昧であることと、のちに挙げますが、中東問題の元凶となった欧州各国の三枚舌外交であるサイクス・ピコ協定(英仏露による中東分割)、フセイン・マクマホン協定(イギリスによるアラブ独立の約束)、バルフォア宣言(イギリスによるユダヤ人居住地の建設支援)の悪夢を思い出させるWhite Men’s Controlの再現とさえ言われるブレア元英国首相をヘッドとする“ガザ国際暫定統治機構(GITA)”構想などは、アラブ諸国の猜疑心を掻き立てるには十分すぎるようで、今回のガザ和平案の行方とその後の合意内容の実施の状況によっては、新たな火種となる可能性は否定できません。

特にアラブ諸国にとってレッドラインであり、最近、アラブ諸国への配慮なのか、フランスのマクロン大統領も同じくレッドラインと呼んだ【ヨルダン川西岸地区への攻撃とユダヤ人入植地の拡大】の傾向が見られた場合には、アラブ諸国はもちろん、トルコ、イラン、そして最近、サウジアラビア王国やUAEなどと相互安全保障協定を結んだパキスタン、さらにはその背後にいるロシアと中国のグループと、イスラエルと米国のグループ、取り残された感満載な欧州各国、そしてどのような反応を取るか見えてこないインドなどを巻き込んだ大きな紛争に発展するかもしれません。

10月2日、サウジアラビア王国のMBS(モハメッド・ビン・サルマン)皇太子とイランのペゼシュキアン大統領、そしてトルコのエルドアン大統領が連名で「もし、イスラエルが約束を破り、ヨルダン川西岸地区(West Bank)への攻撃とユダヤ人入植による併合を強行するような事態になれば、アラブ連盟(Arab League)はイスラエルに対して“歴史的な行動”に出ざるを得ないことを宣言する」とイスラエルに対して警告を発するとともに、すでにアラブ連盟に対して“必要なあらゆる準備を行うように”通達し、すでに加盟国からの賛同を得ていることも明かしました。

これは、これまでに見なかった連帯であり、この地域の案件に関わってきた身としては、ちょっと背筋が寒くなっています。

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アラブ諸国を激怒させたGITAのパレスチナ人を支配下に置く構造

そして先述のGITAによる戦後統治のアレンジメントにも大きな懸念材料が満載です。

GITAのトップにはトランプ大統領が付き、実際の統治機構のかじ取りはブレア英元首相に委ねるというアイデアですが、いろいろと分析が進むにつれ、これが欧米支配の過去を想起させる統治の多層構造(マルチレイヤ─)であることが分かり、すべての決定権は国際統治機構が持ち、肝心のパレスチナ人は最下層に置かれるという内容であることが分かってきました。

「ハマスが戦後統治に関わらない」というアイデアについては良いと思うのですが、この多層構造を取り、かつ当事者であるはずのパレスチナ人を支配下に置く構造に対して、アラブ諸国は激怒しているとのことで、仲介国エジプトやカタールのみならず、戦後復興の成否を左右するサウジアラビア王国やアラブ首長国連邦なども怒りをあらわにしていて、ハマスが受諾するか否かを待つまでもなく、すでに提案は崩壊の危機にあるように見えます。

トランプ提案のアメリカがガザを所有し、リゾート開発を進めてリビエラを建設するが、ガザ住民は周辺国に移住させるという暴案は、アラブ諸国への遠慮から取り下げられた模様ですが、支配と統治は欧米諸国が握り続けるという、歴史から何も学ばない姿が垣間見えてきます。

このような設えにネタニエフ首相が飛びついたことが伝えられたため、アラブ諸国は激怒し、さらにはイスラエル国内からも非難の声が高まり、この和平案の先行きは非常に不透明かつネガティブに見えてきますが、どうでしょうか?

欧州各国はイスラエルの非人道的な行いと国際社会からの要請を無視し続けるイスラエルの姿に業を煮やして、イスラエルを切り離しにかかり、まるでロシアの横暴に対して制裁を加えるがごとく、サッカーやオリンピックをはじめとするスポーツの祭典や、これまで結んできたイスラエルからの武器調達契約の破棄(例としては、スペインのサンチェス首相が7億ユーロの契約の破棄を通達した)、そして諸々の場からの追放を提案し始めています。

イスラエルが誇る圧倒的なレーザーによるミサイル迎撃システムなどは、ウクライナ戦争の煽りで、ロシアからの脅威に備えたい欧州各国にとっては魅力的であるものの、非人道的な行いを止めないイスラエルからの調達が、イスラエルのガザにおける殺戮に使われているという国内での非難が、欧州によるイスラエル切りに発展しているものと考えられます。

アジア地域においては、一応、イスラエルはアジア最西端に位置するというカテゴリーもあるため、100%他所の火事とは言えないことと、アラブ諸国とイラン、トルコを交えた緊張の高まりに加え、国連安保理における特別首脳会合の場でネタニエフ首相がパキスタンを何度も名指しで非難したことを受け、パキスタンからの激しい抗議に加え、パキスタンも加わっている“スタン系”の国々やロシア、中国などからなる回廊諸国の反発も引き起こし、中央アジアから南アジアに至る地域において対イスラエル感情が著しく悪化し、それがすでに触れたサウジアラビア王国やカタール、UAE、そしてイランなどがパキスタンをパートナーに選んで、イスラエルに対応する集団安全保障体制の構築へと駆り立てたのではないかと推測します。

この輪には加わっていないものの、インドもすでにイスラエルの蛮行に対して激しい抗議を行っていますし、我が国日本もイスラエルの行いに対して厳しい非難を行っていることから、イスラエルはアジアを失ったということもできるかと考えます。

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イスラエルとの5度目の本格的な戦争に備え始めたアラブ諸国

そしてすでに触れたとおり、アラブ諸国はこれまで追求してきた経済的な発展の優先姿勢から転換し、再びアラブの結束とイスラエルの不条理への対抗に舵を切ろうとしています。

1948年にイスラエルが“建国”されて以来、アラブ諸国はパレスチナ解放の大義を掲げて4度にわたってイスラエルと戦火を交えましたが、1979年のエジプトとイスラエルの平和条約を皮切りに、各国はパレスチナを見捨てる代わりにイスラエルとの結びつきを深めて安定と繁栄を手に入れるべく、自国ファースト政策を優先してきました。

またパレスチナ自治政府も自助努力がなく、他国からの支援におんぶに抱っこの状態に慣れていたことで腐敗構造が深刻化し、民衆の深い失望から生まれたのがハマスと言えます。

ハマスとしては、しばらくの間、鳴りを潜め、イスラエルへの攻撃の機会を伺い、ついに約2年前に大規模攻撃をかけ、ガザの壊滅という大きな代償を払いながら、世界の目をイスラエルの蛮行に向けることには成功したと言えます。

ただ、イスラエルからの猛攻とトランプ大統領による絶対的な庇護にあるネタニエフ政権は、今こそパレスチナを壊滅する絶好の好機ととらえて攻撃の手を緩めず、様々な蛮行や虐殺、そしてジェノサイドさえ正当化して突き進んでいます。

ただイスラエルによるカタールへの攻撃は確実にアラブ諸国のレッドラインを踏み越えることになり、アラブ諸国の間では「イスラエルはもう何をしでかすか分からず、攻撃対象は中東全域に拡げられ、明日狙われるのは自国かもしれない」という恐怖が生まれ、それがアラブの再結集に繋がっていると考えられます。

そしてそれはアラブがイスラエルと対抗するために核による力を求める方向に一気に流れ、これまで警戒してきたイランに対する欧米と国連の仕打ちを目の当たりにして、そのイランを巻き込み、パキスタンを招き入れて核の傘による自国そしてアラブ全域の防衛強化に導くことになりました。

もちろん、その背後にはパキスタンのみならず、中国とロシアという核保有国が控えており、そこにNATOの核を国内空軍基地に配備しているトルコが味方することで、地中海地域をカバーするNATOの抑止力に大きな影が落とされることに繋がりかねないと懸念します。

トランプ大統領がハマスに一方的に突きつけた回答期限がもうすぐやってきます。

カタールとエジプトによると「ハマスからの回答は近く得られるだろう」とのことですが、トランプ大統領の和平案の20項目に対して大きな問題を感じているアラブ諸国は、停戦実現への期待とガザにおける人道状況の即時改善への希望を示しつつも、「これで問題が解決することは無く、この期に及んで欧米の旧植民地意識がギラギラする企てに、アラブが再度騙され、搾取されるわけにはいかない」という統一された意識と認識に基づき、これまでの傍観姿勢を捨て、今、アラブ諸国は、イランとトルコ、パキスタンを巻き込み、そこに中ロの力を加えて、確実に来るべきイスラエルとの5度目の本格的な戦争に備え始めています。

アメリカ以外の味方を失ったイスラエルとネタニエフ首相は、国際社会において完全に孤立し、そしてホロコーストを経験し、それがジェノサイドという定義を生み出したきっかけとなったイスラエルが今、自らジェノサイドの担い手として暴れ、世界を敵に回す愚行に出ています。

自らの圧倒的な経済力と技術力、そして軍事力に支えられ、中東地域における一強体制が生じていますが、その力に奢り、今、自らの行いと孤立により、77年前に築いた念願のユダヤ人国家とイスラエル人の生存を危機に晒しています。

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国際協調体制の回復に重要な役割を期待される日本政府

そのような中で、トランプ大統領が提示した和平案が、当事者のみならず、周辺国にとって100%満足がいく中身ではなくても、ぜひガザにおける無辜の人たちに対する悲劇を止め、再び立ち上がるための基盤となり、極限まで高まっている緊張を緩め、平和裏での共存体制の構築に繋がってくれればと心より願い、微力ながら尽力いたします。

ユーラシアの案件も非常に危険な状況に陥っている中、どこまで世界は同時進行で問題解決に臨めるかは分かりませんが、解決への努力と歩み寄りを行った先には、私たちが考えうるワーストシナリオしか待っていないと思われるため、何とかして再び国際協調体制を回復せねばならないと考えます。

そのためには日本の役割はかなり重要なのですが、新首相と政府はその大役を担う用意が出来ているでしょうか?

そう強く願います。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年10月3日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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