障害者権利条約や教育基本法にうたわれている「誰もが生涯にわたって学ぶ権利」。しかし、現実には学校を卒業した後、その学びを継続できる環境はまだ十分とはいえません。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、「卒業後の学び」をめぐる最新の動きや新しい仕組みづくりについて語っています。
秋に伝える一歩進んだ障がい者の生涯学習から
秋から冬にかけては学会や催しのシーズンで、私も週末ごとに参加することになる。
毎年のことだが、ここでの新しい出会いは、現在進行中の活動や自分の行動が刺激され、刮目させられることも多い。
10月18、19日は日本LD学会(東京・代々木)、10月25日には同じ場所で重症心身障がい者への学びに関する催し「第4回訪問カレッジ『学びの実り 文化祭』」及び「第6回医療的ケア児者の生涯学習を推進するフォーラム 医療的ケアの必要な重度障害者の学びの成果を発表する実践報告会」が行われる。
いずれも私が発表や模擬授業などで登壇するが、自分の発表や発言が研究成果を伝える、のではなく、誰かの支えになり、また行動につなげてほしいと、今年は特に強く思っている。
思いながらも、どんな新しい出会いがあるのだろうか、との期待も膨らむ。
日本LD学会では自主シンポジウム「学校卒業後の障害者の生涯学習支援」で星川正樹・文部科学省障害者生涯学習支援推進室長、志村美和・愛知県立大学非常勤講師とともに、みんなの大学校の学びの実践を紹介する予定だ。
シンポジウムの趣旨は、前提として障害者権利条約第24条「障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」と、教育基本法第3条の生涯学習の理念「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」を提示した上で、「現実に学校卒業後の障害のある人が生涯にわたり、いつでも、自由に学べる機会が身近にあるだろうか」と問題提起している。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ
さらに「学校卒業後は一般就労や福祉就労を目指し、社会に出たものの、自宅と仕事場の往復の毎日で、余暇時間を友達と出かけたり、文化やスポーツ、好きなことを自由に選択して学べるようになっているだろうか」と続き、教育の権利を差別なく、機会の均等に向けた社会作りについて、前述の3つの話題提供で議論を深める、との内容。
文科省の星川室長から施策の紹介と展開、志村先生からは愛知県春日井市での集合型で学ぶ実践が紹介され、私の説明となる。
それぞれの切り口から「卒業後の学び」の具体を示す。
卒業後、に焦点を当てたシンポジウムの趣旨は、25日のイベントにも通底する。
ここでは重症心身障がい者を対象とした催しであり、各地での実践報告や模擬講義が行われる。
模擬講義では、みんなの大学校が日頃、オンラインで行っている講義「音楽でつながろう」を公開で行う。いつものように私が案内し、ピアノコーラスグループ、Psalm(サーム)の演奏と参加者との合奏で、音楽でつながる体験をしてもらう。
さらに私が話すテーマは「誰もが学ぶための、仕組みづくりと工夫」。
これまでの学びの実践で大切にしてきたこと、続ける中で分かったことを整理しながら、文科省の委託研究での成果を受けて、今年度初めて厚生労働省が展開する生活介護事業での「学び」のモデル作成事業を説明する。
生活介護事業という介護給付の中で学びを定着させ、その学びが当事者にとって、有意なものであるために、どのような工夫が必要だろうか。
厚労省での学び、という文脈も目新しく、今秋から関係者に説明しはじめた私たち、みんなの大学校のチームは、新しい反応との出会いを続けている。
厚労省が学びを推進することへの戸惑いや、今後のモデル事業の展開の予想など、新しい議論も始まる。
これもまた秋の学会と同じく、新しい発見の連続であり、将来の実りに向けての第一歩だと考えると、楽しくなってくる。
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