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「国家の威信」と「人命」の落差。原潜とボロ木造船が炙り出す“二つの北朝鮮”

北朝鮮が原子力潜水艦の開発を加速させていますが、その同国の沿岸では、今なお、粗末な木造船に乗り、命がけで潜水作業を行う漁民たちが存在します。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、同じ海の下に存在する二つの北朝鮮の明暗を憂いています。

北朝鮮の原子力潜水艦開発と、忘れさられた日本海を漂着したボロ木造漁船

アメリカのトランプ大統領は2025年10月30日に、韓国による原子力潜水艦の建造を「承認した」と表明した。翌31日には日本の都内では韓国の北朝鮮発展研究院主催の講演会が行われ、「北朝鮮漁民の人権の実態に関する報告書:東海および日本近海の漂流船を中心に」というテーマでの発表があった。北朝鮮の原子力潜水艦とボロ漁船という、ハイテクを駆使した原子力潜水艦と、粗末な木造漁船の「潜水作業の実態」を紹介したい。

北朝鮮は2021年の朝鮮労働党大会で「国防力強化の5カ年計画」の一環として原子力潜水艦の保有を明言した。長距離打撃能力の強化を目的とし、原子力潜水艦と水中発射型の核兵器の開発を掲げていた。その後、ロシアとの関係強化を背景に開発が本格化し、今年3月に「機動力戦略誘導弾潜水艦」の建造を初めて公表した。公表された写真から韓国軍は、推定排水量6000~7000トン級の潜水艦と分析したが、これは最低5000トン以上が必要とされる原子力潜水艦の要件を満たすもので、アメリカ海軍のロサンゼルス級(約6000トン超)と同水準とされる。ただ、小型原子炉の設計、耐圧殻技術、ミサイルと潜水艦の結合技術と言った重要技術が不可欠で、北朝鮮がロシアから全面的な技術提供を受けた可能性は低いと言われている。専門家の一部は「退役原潜のモジュールを流用した改造の可能性」も指摘している。

北朝鮮は2023年、3000トン級ディーゼル潜水艦「金君玉英雄艦」を公開し、「戦術核攻撃潜水艦」と主張したが、これはあくまで「核兵器の搭載可能性を示す通常動力艦」であり、原子力潜水艦とは概念が異なる。情報関係者によれば、この潜水艦は将来の原子力潜水艦開発に向けたミサイル発射試験艦としての性格が強いと言われている。北朝鮮が10月28日に発射した巡航ミサイルも、「水上艦・潜水艦に搭載する発射システムの性能確認が目的」ではないかと言われている。

現在、原子力潜水艦を保有・通用している国は米・中・露・英・仏・印の6カ国に限られるが、今後はAUKОS加盟の豪州が米英からの技術供与を受けて、原子力潜水艦を建造する予定と言われている。

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一方、「北朝鮮漁民の人権の実態に関する報告書」では、「2」安全権の侵害:脆弱な船舶と装備」の中で、「潜水作業も北朝鮮漁民の安全権を侵害する代表的な事例である」(同書18ページ)と紹介されている。以下、報告の一部を紹介する。

〇潜水に必要な重要装備であるコンプレッサー(空気圧縮機)は高価なため購入できず、漁民は廃車置き場から自動車用のシリンダーや圧縮機を?ぎ取って改造し使用する。ホースとマスクは主に中国製低価格製品を密輸入して使用しており、専門潜水装備がないために人民軍の防毒マスクを改造して使用する場合も多い。

〇酸素ボンベも北朝鮮国内では入手困難なため、漁民はブタンガスのボンベを改造して潜水用酸素ボンベにしている。溶接で圧力を高め、空気を充填して使用するが、潜水中に装置が停止するとわずか1分も持たない。仮に水深30mで空気供給が遮断されると、窒息するだけでなく、いわゆる潜水病に恐れが極めて高い。

〇北朝鮮漁民の潜水作業は、「中潜水(スクーバ式潜水)」と「軽潜水(ホース接続式潜水)」の二つに区分される。中潜水は金属の潜水服(銅制ヘルメット)を着用して重りを付け、水深40~50mまで潜水する方法であり、軽潜水はホースで 空気を供給し、比較的簡単な装備で潜水する方法である。

しかし、専用の潜水服と装備を確保できない多くの漁民は、中国製の下水道清掃用ゴム服を潜水服の代わりに着用し、手袋も家庭用ゴム手袋を改造して着用するなど、深刻な安全上の危険を抱えている。

「本来は30m以上は潜ってはいけないと言われます。つまり、中潜水は……スクーバ式潜水ですが、銅製ヘルメットをかぶって、片方の靴に約30?重りを底に付けます。腰にも付けます。そう装着して約40~50mを潜ります。水圧があるので潜水服に空気を注入して潜ります。でも、軽潜水の時は何を使うか知っていますか。潜水服はですね、中国の人が下水道の掃除に使うあの服を使います。ゴムが紙数枚分の暑さしかありません。4枚くらいの薄いゴムの服です。潜水服じゃなくて、中国人が上下水道の掃除をする時に使うものだそうです。家で皿洗いする時に使うゴム手袋がありますよね。それを付けて(着けて?)使います」(インタビューC)。

〇「潜水作業員の死亡率は10%ほどです。船が100隻あれば、そこで10人ほどが死にますね。潜水病は30~40%程度です」(インタビューC)。

原子力潜水艦と潜水夫の比較話であるが、4~5年前までは北朝鮮からの、木造漁船が日本海側の海岸に漂着して、無残な姿をさらけ出していたが、あの風景も一つの「風物詩」であった。

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image by: Alex-VN / Shutterstock.com

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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