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中国が高市発言を「国連」に持ち込み始めた危険。すでに日中間で解決できるレベルを超えた習近平“怒りのステージ”

高市首相の「台湾有事は存立危機」発言により、日中間に生じた大きな亀裂。中国サイドの怒りは増すばかりですが、その背景には日本人の「受け止め方の問題」が存在しているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、中国がここまで激怒する理由を分かりやすい例えを用い解説。さらに習近平政権が高市発言を「日本の軍国主義復活」と結びつけて世界にアピールし始めた意図を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ついに国連にまで持ち込まれた高市発言で、日本が向き合う自画像とは

高市「台湾有事」発言で怒りのステージが一線超え。中国が日本を「国連で問題化」し始めた意味

「すみません質問です。日本の高市早苗首相は、当たり前のことを言ったに過ぎないと思うのですが。中国はなぜあんなに怒り、日本を責めるんでしょうか?」

高市早苗首相の国会答弁に中国が強く反発して以降、私は日本の各地で冒頭のような質問に答え続けている。

質問者は頭のなかをクエスチョンマークで膨らませた者もいれば、怒りで表情を強張らせた者もいる。

動機はそれぞれ違うが、要するに中国がなぜ怒っているかは分からないという。

いったいどこから話をすればよいのか。

台湾海峡の問題をゼロから説明するのは少々重労働だから結論を急げば、それは「なぜ怒っているか分からない」こと自体に中国人は腹を立てていると言うべきだろう。つまり日本側の自覚の欠如だ。

こう書けば日本人は不満だろう。

だが人間関係を含めて多くの交際は、加害者が被害者の気持ちを省みなかったり、軽視することで摩擦が深まるものだ。

たとえ話をしよう。敢えて卑近な例、浮気が発覚して離婚の危機を迎えた夫婦のケースで、説明したい。

いま夫が浮気したことで破綻しかけた夫婦がいるとしよう。夫は妻に謝罪し「もう二度と浮気はしない」との念書を入れ、自らペナルティを課し、妻を納得させた。

だが数年後、夫は再び女性と二人で夜の食事を繰り返すようになる。

以前の浮気を持ち出し責める妻に、夫は「その問題は謝罪とペナルティでもう決着済み」と取り合わない。

この夫の態度は、日本人の多くが抱く「過去の侵略をいつまで謝罪させるのか」という態度ともつながる。

次に妻は「二度と浮気はしない」という念書を取り出し、夫の不実を責めた。

ただここで難しいのは、何を以て夫の「浮気」と断じるかだ。相手が同じ会社に属していたり取引相手であれば、打ち合わせや接待との言い訳は成り立つ。上司と部下ならば出張だって許容せざるを得ない。

ただ当然のこと妻にはもやもやが残る。

そんななか夫の行動は日々エスカレートし、夜遅く帰る日が増えてゆく…。こんな状況に妻は心穏やかでいられるだろうか。

日中を夫婦にたとえるのは適切ではないのは、もし夫婦に生じたような疑心が、国家の間で持ち上がることになれば、それは比較にならないほど危険だからだ。

中国が台湾に絡み本気で日本の野心を疑うようになれば、それは日本の安全をダイレクトに脅かす問題となりかねない。

だが、冒頭で触れたように日本人の多くはこうした自覚を持っていない。

おそらくそこに夫婦が交わした「念書」と近似した感覚があるためだ。つまり日中が国交正常化のプロセスで交わした「日中共同声明」(声明)の文言にも解釈の幅が存在し、日本と台湾が距離を縮めることに何の問題意識も働かないのだ。

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高市政権が持つ中国の批判を「的外れ」と一蹴できない要素

声明の中で日本政府は「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」「中華人民共和国政府の立場(台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること)を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と謳っている。

ただこれが実際の外交の場でどう反映されるのかという解釈には幅がある。

声明が発出されたころから日本と中国の政治環境も大きく変化し、台湾にも変化が起き、情勢は日々複雑化している。

想定外だったのは台湾内部の変化により脱中国の動きが加速したことだ。

台湾の頼清徳・民進党は蔡英文時代にも増して大胆に台湾独立に舵を切り、中国を刺激し続けている。そんななか日本は台湾との議員交流を質・量ともに拡大してきた。

中国の目には、日台が結束して既成事実を積み上げ、いつのまにか二度と引き返せない独立という状況をつくろうとしていると映っても不思議ではない。

それに加えて今回高市が「公式の場で初めて「台湾有事は日本有事」と鼓吹し、かつこれを集団的自衛権の行使と結びつけ、初めて台湾問題への武力介入を企てる野心を表明し、初めて中国に対して武力による威嚇を発した」(『人民日報』)のだ。

中国が一気にボルテージを上げたのも無理からぬところだ。

いま中国の怒りのステージは、すでに二国間で解決できるレベルを越えたのかもしれない。中国が日本の内政干渉の問題を国連の場にも持ち込み始めたからだ。

その意図は明確だ。「かつての敵が平和憲法を捨てて復活している」と国連加盟国の間で共有するためだ。

言うまでもなく国連は本来「連合国」と訳される組織で、かつての日本の敵だ。

その日本について中国は「戦後、平和憲法を隠れ蓑に正体を隠していたが、ついに本性を現した」と攻撃している。

実際、そうしたロジックで責められたら現政権には不利だ。

首相自身、平和憲法を厭い改憲の意思を隠していない。また平和国家を標榜するため自ら定めた防衛費対GDP比1%の枠を取っ払い、武器輸出三原則を踏み越え、非核三原則にも修正を加えようとしている。サイバー空間では先制攻撃を可能にする道を切り開こうとしているのだ。

つまり中国の批判を「的外れだ」と一蹴できない要素がそろっているのだ。

そうした日本に対し、中国は以下のような強い言葉で警告する。

「もし日本側が武力で台湾海峡情勢に介入するならばそれは侵略行為となり、中国側は国連憲章と国際法が認める自衛権を断固として行使する」

読み方によっては、今後日本を攻撃する際の正当性を事前に根回ししているようにも聞こえる。

繰り返しになるが、こんな状況を作り出し、日本にいったい何の得があるのか。是非、説明を聞きたいものだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年11月23日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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