耳が聞こえない、聞こえにくいアスリートたちの競技大会であるデフリンピックが26日に閉幕を迎えました。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で健康社会学者の河合薫さんは、その静けさの中で痛感した「コミュニケーションの本質」というものについて語っています。
静けさの中で
盛り上がりをみせたデフリンピックが閉幕しました。
NHKが1年以上前から繰り返しキャンペーンをやっていたことが実を結びましたよね。
これぞメディア。伝えるべきこと、伝えたいこと、伝えて欲しいこと、その全てが実践されていました。
手話には以前から興味があったのですが、デフリンピックで、テレビ画面に映し出されるアスリートの顔と手、画面下のテロップがとても静かで優しくて。
会場の人たちの身体全体を使った応援も、すごく素敵でした。
そこから、静けさの中の情熱が伝わってきました。
そうなんです。
今回あらためて痛感したのが、この「コミュニケーションの真髄」です。
例えば、デフサッカーではボールの動きを目で追うことに加え、チームメンバーでアイコンタクトをとりながらパスをする。そのとき、ハンドサインで後ろに敵がいるかどうかを伝えるなどしてコミュニケーションをとる。
ただ、選手によってハンドサインが異なったり、プレーの状況によってはサインが出せなかったりするため、事前にさまざまな状況を想定して戦術を練るなど普段からのコミュニケーションがとても重要になるそうです。
また、デフバドミントンのダブルスでは、前衛の選手は味方後衛の足音や打った音が聞こえないので、目で見て反応するしかない。でも、間に合わない場合もあるため、その時は仲間を信じて動いているというのです。
その「音のない世界」でのスポーツにおける戦いがどういうものなのか?
これを想像するのは、とても難しいです。しかし、チームである以上、信頼があってこそ自分の能力も発揮できるし、1+1=3、4、5……といった具合にチーム力が高まることはとても理解できます。
組織経営においても同じです。つながりに投資し、信頼と共感と敬意が実現しない限り、チームは成立しません。ましてや、1対1のつながりも築くことなど無理です。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
つながりは、いわば「生命線」です。
コミュニケーション不全がすべての問題の原点であることを、私たちは知っているのに、コミュニケーションの真髄を私たちはつい、本当につい、忘れてしまいがち。
それは相手と向き合うことであり、相手を受け入れることであり、相手を信じること。この実にシンプルな、人として当たり前のことを、手話の世界が教えてくれたように思えてなりません。
そして、今回のデフリンピックをきっかけに「ベビーサイン」が広まっていると知人が教えてくれました。
これはアメリカの児童心理学者、リンダ・アクレドロ博士とスーザン・グッドウィン博士が開発したとされる子育てのメソッドです。
まだ言葉を話せない赤ちゃんが、手や体の動き(ジェスチャー)を使って、自分の気持ちや要求、周りの物事を伝えるコミュニケーション手段で、気持ちが通じ合うことで、親子間の愛着形成にも良い影響を与えるとか。
また、意思疎通がスムーズになることで親のストレスが減ったり、赤ちゃんはコミュニケーションの楽しさを知ったりで、話し言葉への移行もスムーズになるといったメリットも認められています。
「静かな世界」という異なる世界を知ることで、私たちは自身の「当たり前」を疑い、人と人との根源的なつながりを見つめ直す機会を得たのかもしれません。
そういえば、子供の時に、「あなたと私はお友達」という手話を教わってそれが楽しくて、しばらく人と会うたびに手話をしていたのを思い出しました。
みなさんのご意見もお聞かせください。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com